2009-10-29

ずゐぶんまへに、20代に集中的に読んだのが鮎川哲也、そして佐野洋、結城昌治だつた。佐野洋、結城昌治はハズレがない。鮎川哲也にハズレがあるといふ意味ではないが、本格ものに限らないところが違ふか。佐野洋の「幻の殺人」新潮文庫(228・used)を読む。5編の短篇が入つてゐるが、どれもその後長篇化されたものだと「あとがき」にも「解説」にもある。「光の肌」と「無効試合」は読んだやうな気がする。連続殺人、時刻表トリック、アリバイ崩し、密室トリック、ダイイング・メッセージなどに疲れたら読むといいかも。ミステリはそれだけぢやない。

2009-10-26

岡嶋二人の「ちょっと探偵してみませんか」講談社文庫(227・used)を読む。25の短いミステリ集で、読み手が推理して、南伸坊の証拠品のイラストが入り、作者の正解が出てゐるといふ形式。5分間ミステリだつたか、さういふクイズ、パズルに近いやうなものは本屋でもよく見かける。鮎川哲也にも「ヴィーナスの心臓」や「貨客船殺人事件」があるし、文春文庫にも16人の作家が書いた犯人あての推理短篇を集めた「ホシは誰だ?」といふのもある。岡嶋氏の作品はたぶんこのブログを始めてからでも「チョコレートゲーム」を読んだし、だいぶまへ、さうだなあ、岡嶋二人がコンビを解消した頃?する頃?何冊か続けて読んでゐるのだが、ハズレの少ない人で、この25篇のミステリも旨いものをちよつとづつ食べるやうな、そんな楽しい本だつた。

2009-10-20

矢鱈と評判が高い貫井徳郎を読んでみた。ちよつとまへまではデビュー作の「慟哭」が結構何冊もBookOffに105円で置いてあつたのに、探し始めたら見つからない。止むなく状態のよかつた「ブリズム」創元推理文庫(226・used)のはうを読んだ。一言で言へば、達者な人だ。4つの章に分かれ、それぞれ語り手がかはる。しかも、まへの章で怪しいと目された人物の目から見た事件といふ作りになつてゐる。アントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」(未読・創元推理文庫)を手本に更に工夫を凝らした、といふことのやうだ。些細なこと。P223でK氏は山浦先生にどうやつて電話をしたんだらう。デパートでお茶を飲んだ程度で、例へば携帯の番号の遣り取りなんかしないでせう。1週間後に一緒に食事はいいけど、学校には電話できない。クラスの名簿には担任の連絡先は出てるだらうが。そんなことは当り前なんで書かないのか。それと誰が真犯人であるにせよ、チョコレートに睡眠薬を入れる方法が判らないのだから、……オレだけが判らないのかな?文章の横に強調するやうに「ヽ」が打つてある文が幾つもある。ページ番号だけ順に挙げる。P85,103,133,134,138,142,150,210,269,278。なんでなのか。もう一度読む機会があつたら、考へてみよう。

2009-10-19

ジョナサン・キャロル/浅羽莢子訳「パニックの手」創元推理文庫(225)を読みをへたのは一昨日のことだ。11の短篇がはいつてゐる。最初の「フィドルヘッド氏」。ああ、かういふ小説を書く人なんだ、と。ファンタジーと言ふんだらうね、かういふ展開は。で、次の「おやおや町」。これは長くて読むのに時間が掛かつた。その次の「秋物コレクション」が一番好きだ。全部に言へること。書き出しの軽妙さ、言ひまはしにも工夫がある。比喩は凝つてゐるけど、嫌味な感じもなく、クドさも鬱陶しさも感じなかつた。短篇だけぢや判らないが、サキとか、ロアルト・ダールとか、似てるかも知れない。それよりもオレは村上春樹に似てると思つたんだけど、ハズレかな。それとヴォネガット、カーヴァー、或はブローティガン。訳文が読み難い、と言ふか意味が取れないところがあつた。控へなかつたので挙げない。「フィドルヘッド氏」の中にこんなところがある(P20)ポルシェのことが書いてあつて、「〈風呂桶〉って呼ばれてるやつ」と。あとの文章も含めて考へると、たぶん356スピードスターのことだらう。しかし、これは〈バスタブ〉と呼ぶことはあつても、わざわざ日本語にして〈風呂桶〉なんて呼んでないと思ふよ、一般的には。

2009-10-15

フロストを読んで、警察小説の面白さを知つたせゐもある。佐々木譲「笑う警官」ハルキ文庫(224・used)がいい状態でBookOff朝倉店にあつたから買つてみた。なかなか面白い。いや、かなり面白い。特にオレは諸橋警部補が死体発見現場のマンションから手懸りをみつけ、更に重要人物を特定していくところが堪らない。それと大詰めのところで駆け引きもテンポが早くてスリルがある。映画化され、続篇もあるやうなので、忘れなかつたら探さう。

2009-10-11

続けて津村秀介「時間の風蝕──こだま269号から消えた女」集英社文庫(223・used)を読んだ。解説が鮎川哲也だつたから。本の状態はあんまりよくなかつたけど、まあ、105円なら仕方ない。中身はまへに読んだのよりもずつと面白く読んだ。地味だけどね。殺人事件は解決したが、その動機になつた2億を超えるアノード板盗難の解明が足りないかもしれない。佐伯警部補の言ふ通り、それは確かに石川県警の事件だけど。

2009-10-09

中町信が医療関係の出版社に勤めていた頃、机を並べて仕事をしてゐたといふ津村秀介の「能登の密室──金沢発15字54分の死者」光文社文庫(222・used)を読んだ。まるで東海林さだおのエッセイばりの行替へで、あつといふまに読めた。密室殺人とアリバイ崩し。文章が池波正太郎とか、時代小説風なのだ。うまく説明できないけど。なかなか面白かつた。最後の写真トリックは要らないんぢやないの?重箱の隅を1つ。雅江がスカートでもスラックスでも大丈夫なくらゐ革のコートは裾が長いのかね。そこまでは気にしないか。初対面の人たちであり、僅かな時間だ。手に特徴があるのは作り過ぎてない?

2009-10-03

なんと言へばよいのか。柴田哲孝「TENGUてんぐ」祥伝社文庫(221・used)。26年前の群馬県沼田市の寒村で起きた連続殺人事件の謎を追ふ、といふ設定なのだが、読み進むと解るが主人公の道平(みちひら)慶一は殺されかけてゐるのだよ。26年間も放つて置くかな。先づ、この26年間の空白がなぜかについて納得できる説明がない。読み落してたらゴメンなさい。なので、これは70年代の国際情勢、アメリカの状況、そして2001年9.11テロといふジャーナリズムの話題性を繋ぐための年月でしかなく、物語が止むなく26年といふ空白を生んだワケではない、と受け取れる。アウトドアのグッズ名称、バーボンや日本酒の銘柄などで人物の個性のやうなものを描きたいのかもしれないが、煩く感じる。生身の人間に起つた殺人事件だといふ印象が薄い。荒唐無稽だとするには、現実に寄りかかり過ぎてゐる。瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」もさう、鈴木光司の「リング」その他もさう、これもさう、キングやクーンツ、トマス・ハリスなどの作品が翻訳され、消化不良になつてるんぢやないか。プルーストとか、ジョイスとか、アンチ・ロマンと似たやうなものかな。
ホントに些細なこと。P6、9行目「あすこしかない」。江戸弁かね。P102、8行目「杵柄慎一だった。真一は」。単純な誤植か。