2016-05-23

649.叶えられた祈り

トルーマン・カポーティ/川本三郎訳・新潮文庫。読み終へるのに、かなり時間が掛かつた。頁数にして270頁。普通なら三日、時間がなくて少しつづでも一週間もあれば読める長さだ。それが4月の上旬、定年になつて直ぐ読み始めて凡そ一箇月半。60歳になる直前に亡くなつたカポーティの最後の本。面白いところもあるが、概ね退屈だつた。未完成なまま中断した作品なので、どこがどう繫がつて行くのか解らないといふこともあるだらう。三つの章から出来てゐるが、「カメレオンのための音楽」の中の「モハーベ砂漠」も始めはこの「叶えられた祈り」の第二章として書かれたものだといふ。それはまだ読んだことがないので、いづれ機会があつたら読むことにしよう。
1999年の12月に刊行されたので、もしかすると大泉の図書館で単行本を借りて読んでゐるかもしれないと思ひつつ読んだけど、勘違ひかもしれない。
「遠い声遠い部屋」は内容は殆ど覚えてゐないけど、読んだ後の印象がずつと尾を引いてゐる(古い文庫は活字が小さいのと日に焼けて文字が薄くなつたので2014年の12月にこの本と一緒に買ひ足したくらゐだ)し、「ティファニーで朝食を」も「冷血」も、いつかもう一度読みたい本として残してある。作品数が少ないので、けして無理な話ではないだらう。

2016-05-20

648.光る砂

佐野洋・講談社文庫(used)。2013年に亡くなつた佐野洋の連作短篇集。新興住宅地のタウン誌編集部を舞台にしてゐる。気楽に読めてミステリとしても充分に面白い。かういふ小説を書く人はいまゐるんだらうか。ユーモア・ミステリを書く人はゐるけど、思ひ浮かばない。内容には触れないが、余計な知識なんて要らない。ただ読めばいいんです、そのはうが面白く読める。

2016-05-18

九つの殺人メルヘン

鯨統一郎・光文社文庫(×2)。失くしたと思つてゐたら、棚を整理してゐて見つけて読み始めたら最後まで読んでしまつた。2007年3月に読んでゐる。思はず吹き出したり、にやりとする会話のやり取りが面白い。第六話、P229「千賀かほるの娘が将来、宇多田ヒカルになるなんて夢みたいだね」と書いてあるんで、藤圭子だろ、と思ふと、そのあとで地の文に「夢だよ」つて書いてある。それが間違つてるよ、なのか確かにね、なのか判断できない。普通に読むと後者なんだけど。始めに枕の如きものが九話凡てにあり、酒の蘊蓄だけでなく、そこでの会話に出て来る映画やテレビ番組、テレビ・コマーシャルからCMソング、歌謡曲など世代が近いので懐かしい。最後の第九話の冒頭、「僕」と入れ替り店を出て行く天才歴史学者の美女は氏のデビュー作「邪馬台国はどこですか?」の早乙女静香なのだらう。直接内容とは関係ないので意味不明。この話での桜井さんの推理は強引なんだけど、どうもそれが当たつてゐたといふのが、ちよつと興醒め。P359の九つ目の殺人事件は「悪い僕を抹殺してくれた」といふ、この「僕」は妙に子どもつぽい、厄年なんだけど。

2016-05-16

647.刑事の墓場

首藤瓜於・講談社文庫(used)。なかなか面白かつた。作者の名前は知つてゐた。珍しい名前で、苗字は兎も角、瓜於が本名かどうか知らないが、江戸川乱歩賞を受賞した「脳男」といふのを本屋で文庫を見たことがある。カバーの絵が気味が悪く、土屋隆夫の「影の告発」に迫るものがあつて、見送り。
これは刑事物で、基本的に警察小説、刑事物は好きなので購入。一気に読んだ。刑事の墓場と呼ばれる動坂署が舞台。この動坂署が始め愛宕市にあるのかと思つてゐたら、そこから電車で少し離れた吉備津市にあるのだつた。愛宕といふ地名が出て来るのだが、これは「おたぎ」と読む。どうも架空の地名らしいのでどう読んでも構はないのだらうが、ちつとも覚えられなくて、出て来る度に「あたご」と読んでしまひ、あれ、違ふんだ、なんだつけと最初にフリガナがある頁に付箋を貼る始末。人物名も風変りなのが多く、被害届を出す若い女は小須田里香といふ。「こすだりか」。コスタリカか。その相手は相磯均で「あいそひとし」と読む。鹿内と書いて「しかない」、蝶堂(ちようどう)、鶴丸、主人公は雨森。意図的にをかしな名前にしてゐるのだらう。
前半は男女の些細な痴話喧嘩のすゑの傷害事件と人物紹介やらでのんびり展開する。最初の傷害事件が後で殺人事件になつて、上辺だけなぞつてゐた刑事たちの経歴等も書き込まれ、ペースが上がる。
以前書いたことがあるが、一体いつの話なんだ、といふのが矢鱈に気になるタチで、P19の最後から2行目「外に出ると、二月の寒さが身に沁みた」で解るのだが動坂署に赴任して一箇月といふ始まり方なので、5月頃かと思つてゐたら、P13に「底冷えのする当直室で」といふで混乱したり、ほかにも幾つか気になることはあるのだが、それでも面白く読んだ。
気になることを挙げると長くなるんだけど、P21で動坂署の署長桐山がパンをたくさん買つたらしいのだが、この後で一切言及されない。P259捜査会議で鮎川(県警本部の管理官)に雨森は散々絞られた後で、夜食をとらうとするのだが、鮎川に散々絞られるのはこの後、P280〜286までだ。P458最後のところで豪華な調度や大量の書物で埋まつた書架、高価な陶磁器、剥製のある部屋(この部屋の詳しい説明はP165にある)で雨森は「なぜか同じ光景を前にも一度どこかで見たような気がした」と書いてある。ええ、読み落としたか、と何度もパラパラ捲つて探したけど、その部屋には雨森はそれまで一度も入つたことはないし、似たやうな部屋が誰かの家にもあつたかと探したけれども見つからない。動坂署の刑事課全員が集まる場面は(最後の場面を除いて)2回あるがP259は刑事部屋だし、P297も刑事部屋と書いてある。それからこれはネタばらしになるかも知れないが、地下に温泉が湧き出してゐる敷地にある建物で「底冷えのする当直室」はないんぢやないか。
この気になる箇所の確認だけで半日潰れてしまつたけれども、それでもまあ、面白い小説だつたね。

2016-05-11

646.もたない男

中崎タツヤ・新潮文庫(used)。BookOffへ「じみへん」を探しに行つたら、1冊だけあつて、でもかなり状態が悪かつたので諦め、代りにこれをamazonで検索してゐて見つけたので購入。古本だけど状態は「非常に良い」。ほぼ新品。読んでゐて最近のオレ自身の心境に近いものを感じた。持ち物を整理したい、減らしたい、といふ気持ちが、この頃強いので。まあ、中崎氏の場合は極端で、持たないのではなく、ほしいものは購入するワケだから、寧ろ捨てたい、片付けたいといふ思ひのはうが強いのでせう。幾つか感じたこともあつたけど、特に付箋も付けずに読みをへてしまつたから、捨てないで、またあとで読み返さう。