2006-04-27

21.バカの壁

養老孟司・新潮新書(used)
どのくらゐ売れたのか知らないけど、大ベストセラーだつた本。どうでもよかつたんだけど、中町信を中心にしたミステリーや小説が続いてるから違ふものが読みたかつた。自ら提起した問題への回答は断定的だけど、それまでの思考の経緯が説明不足で曖昧だから、よく意味が解らない。頭のいい年寄りの繰り言?編集部がインタビューするみたいな格好での聞き書きだ、と始めにあつてガッカリした。なぜ?の答へは、ない。

2006-04-25

20.十四年目の復讐

中町信・講談社NOVELS(used)
新たにAmazon経由で手に入れたものの一つ。近場では氏の作品が手に入らなくなつて来た。実に800枚超の長い小説だけど、それほど苦もなく読み通すことが出来る。例へば休みの日で、まはりの人たちが寛大、もしくは無関心であれば一日で読める。いま目の前で推理されてることを中心に書くといふ、得意のパターンで、これが意外と病み付きになるのだが、殊に展開の中心が会話なのも相変はらずだ。2つのシリーズの主人公である和南城健と山内鬼一が登場し協力して事件を解決する。ダイイング・メッセージものは苦手、と言ふよりあんまり好まない。これにも出て来るが、十四年前の遺書の読み解きは強引だよ。「こしが」のはうは面白いけどね。

2006-04-23

19.黒い家

貴志祐介・角川ホラー文庫(used)
作者が京大出身の人だから、ではないけれども、非常に頭脳明晰な人がコツコツと丁寧に作り上げた小説だなあ、といふのが全体への感想。内容は生命保険に絡む犯罪。ミステリーの要素もあり、一気に読ませる。読み応へは充分だし、面白かつた。但し、最後のはうで高倉嘉子といふ保険外務員が登場するが、これは余計ではないか。それだけのために出て来た人物になつてゐないか。若槻を会社に留める方法はほかになかつたらうか。黒沢恵の猫の一件から、読んでるこつちにも充分予想出来ることに若槻が思ひ至らないのにも無理があると思ふ。金石はなんで殺されたのかの説明も足りない。三善はまあ、解るけど。もともとは森田芳光監督の映画のはうが見たかつた。DVDを一度借りて来たけど、結局見られなくて返す羽目になつた。原作から読んで見るか、映像よりも怖くないだらう、と。やつぱりグロテスクだよねえ、ホラーものは。残酷だし。氏の他の作品も読んで見たいとは思ふ。

2006-04-16

18.グリム童話

鈴木晶・講談社現代新書(used)
副題は「メルヘンの深層」。グリム童話が、実はドイツの田舎の老人たちから聞いた昔話を纏めたものではない、とは意外だつた。グリム兄弟の主に弟のはうが元の話に手を入れたり書き換へたりしてゐたこと、いろんな国の昔話や書物からの引用もあるといふ話は、まつたく知らなかつた。「グリム童話集」は新潮文庫で2冊読んだ記憶がある。「カエルの王様」と「ヘンゼルとグレーテル」がお気に入りなのだが、「カエルの王様」はグリム童話集の正式タイトル「子どもと家庭の童話」の一番最初に載つてゐるさうだ。「赤ずきん」や「白雪姫」や「シンデレラ」はもともとはペロー童話、とは知りませんでした。「赤ずきん」の赤いずきんと「シンデレラ」のガラスの靴はペローのアレンジだ、つてのも初耳でした。ペロー童話は、このBlogの最初に書いた気がするが「三銃士」「ああ無情」と一緒に、子ども向けの世界文学全集のうちの1巻(この全集を揃へてゐたわけではなく、この1巻しかなかつた)に入つてゐて読んだ筈だが、中身は覚えてゐない。「赤ずきん」が狼の腹からお婆さんを助け出し、代りに石を詰めるといふストーリーはやつぱり「オオカミと7匹の子ヤギ」だよねえ。あれ?「3匹の子ブタ」だつけ?兎に角、童話つてのは、純粋な口伝ての昔話なんかではなく、いろんな人が手を加へたものだから、似たやうな結末があつたりするわけだ。ふむふむ。

2006-04-13

17.考えるヒット

近田晴夫・文春文庫(used)
近田晴夫はハルヲフォンで「Come on Let's Go」と「電撃的東京」を持つてゐた。遠藤賢司の「東京ワッショイ」の頃、ムーンライダーズの「青空百景」の頃かな。和物は殆ど聞いてなかつたけど、ハルヲフォンはよかつたね。遠藤賢司も、勿論ムーンライダーズもだけど、特にハルヲフォンには歌謡曲の面白さを改めて教へて貰つた気がする。ここには1997年を中心にした日本のポップスについて屈託のない意見が書かれてゐる。好みが近いですね。ただ「はつぴいえんど」はオレにはフォークぢやなかつた。日曜日の昼頃のラジオでライヴを聞かしてた番組があつて、RCサクセションの「ぼくの好きな先生」(生ギターでやつてたバージョン)も聞いたし、「はつぴいえんど」の「春らんまん」も聞いた。これが結構へヴィーなライヴだつたね。オレもフォークはあんまりね。泉谷しげるはロックだらうな。RCサクセションはフォーク寄りだよね。曲よりも歌詞や歌ひ方が。この本には専門的な用語がかなり出て来る。一気に読んだけど、その辺がよく意味解んなかつた。楽器やる人は解ると思ふ。

2006-04-10

16.死者の贈物

中町信・講談社NOVELS(used)
愈々ストックも終り、残すは「模倣の殺意」の前身「新人文学賞殺人事件」だけ。40数冊ある氏の著作の半分近くを読んだことになる。月刊彦七新聞HPでも書いたことがあるけれども、展開に綱渡りみたいなところがあつて、二転三転してゐるやうに見えるが、それは登場人物たちの思ひ込みに過ぎない、とか。集中的に読んで思ふのは、そこが魅力でもあるな、といふこと。この「死者の贈物」にも危なつかしいところがある。それはたぶん説明不足なんだらうな。氏を巡るサイトの中で見たのかも知れないが、兎に角ストーリー展開の中心は叙述や描写でなく会話だから、例へば殺人事件があつて、それが復讐であつても、かう、気持ちが入らないと言ふか、作品の人物の思ひに入り込めてないから、素通りしてしまふやうな、さういふ面がありますね。ゲーム的、RPGゲームみたいなところがある。全体に仕掛けたトリックなども、やはりゲーム的なセンスだと思ふし、叙述の中にトリックがある、といふミステリーのスタイルは、遊び心がないと出来ないでせう。それをミステリーとしてダメだ、と見る人もゐて、フェアぢやない、などの理由から氏は江戸川乱歩賞を逃して来た。でも、もつと読まれていい作家だと思ふ。勿体ない。

2006-04-08

15.自動車教習所殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
中町作品としては実に地味な作品。最初の事件があつて、続いて密室での殺人が起こつて、しかし容疑者にはアリバイが、……といふ。ちよつと物足りない。これぢや普通のミステリーだよ。破綻もないけど荒技もないわけで、その辺が中町氏の真骨頂だから。癖になつちまふんだなあ。終りのはうに、なんと渋川の阿久津に住んでる人が沼田の自動車教習所に通ふといふ設定があつて驚いた。さうだねえ、渋川と沼田までは前橋までと同じくらゐだらうから15〜20km離れてると思ふ。ま、近場で言へば足利から桐生に通ふやうなもんでせう。30〜40分は見ないと行けないわけだ。これを遠いと見るか近いと見るかは人それぞれだらうが、市内に2箇所(小説の設定年代当時)ある教習所ではなく、敢へて沼田に通ふことにした理由が解りません。中町氏は沼田の出身だから沼田を贔屓してるのかなあ。高校に通ふとか、通勤でならは解るけど、運転免許でせう。近いところに通ふと思ふけどねえ。それに、どうも冬らしいんだよねえ、教習所通ひが。それだけぢやなく、大学四年の女の子が信州のスキー場でアルバイトするから、と言はれて一箇月間、連絡も取られないでゐる親がゐるかなあ。渋川はこの辺の人が思つてるほど雪は降らないけど、沼田は降るよ。積もるよ。どうして沼田にしたの?知りたい。

2006-04-03

14.空白の殺意

中町信・創元推理文庫
もとは「高校野球殺人事件」と言ひ、江戸川乱歩賞の最終候補に残つたものの受賞できなかつた「教習所殺人事件」(その後「自動車教習所殺人事件」)が刊行された年の暮れに出たものだと、折原一氏の解説にある。題名はどうだらうなあ。折原氏はセンスがないと言ふけど「高校野球殺人事件」つて、センス云々よりも中身がそのままだからねえ。矢鱈と殺人事件を付けるのは如何なものかと仰る向きもあるけれども、だつて殺人事件だろ?なんとかの殺意が三つ続くのはセンスはあるかも知れないが逆に芸がなくないかい?中町氏が触発されてこれを書いたと言ふディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読んでみたい。書き方に登場人物たちや読み手の錯覚を促すといふ方法はここでも使はれてゐる。でも、それほどケレン味はないです。だから、なんでかうなの?つていふのもないです。