2010-09-29

神坂次郎の「サムライたちの小遣帳」新潮文庫(322・used)を読む。あまり期待はしてなかつたのだが、たくさんのエピソードが書かれてゐて、買つた日に読み始め、止められなくなつてしまつた。侮れない。さすが南方熊楠の伝記を書く人だ。ちやうど休みだつたので、昼過ぎからゆふがたまで読み耽り、あいにく雨だつたからあと4篇を残して、つまり80篇を一気に読んでしまつた。その殆どが日本の歴史にまつはるエピソード。面白い話は幾つもあるが、とりわけ気に入つたのは遊女秋篠の話(P185)。惚れた男の仇討ちで、あはや返り討ちかと思はれたそのとき、助太刀したのが男装の秋篠。思はず鳥肌が立つた。それともう一つ。林少尉の死(P271)。敗戦の翌日深夜、水戸航空通信師団の青年将校が徹底抗戦を叫んで蹶起するも、鎮圧され、林少尉は死ぬ。23歳。大宅壮一編「日本の一番長い日」とその映画を思ひ出した。宮城で拳銃を顳顬に当てて自決するのは黒沢年男だつた。切腹する阿南陸軍大将を演じたのは三船敏郎だつた。表裏原田甲斐(P266)も面白かつた。伊達騒動と原田甲斐について知りたい、読みたい。長く悪人扱ひされてゐた原田甲斐の再評価のきつかけを作つたのが「言海」「大言海の編纂者大槻文彦博士だといふのも興味深い。ときどき思ひ出してはペラペラと拾ひ読みするのに良い本。

2010-09-02

貫井徳郎「天使の屍」角川文庫(321・used)読了。正直言つて、作りすぎてゐる感じ。トリックが先にあつて、物語を押し込んだやうに見えた。14歳といふ設定は上手い。しかし、自殺の動機はやつぱり弱いだらう。メディアが無責任に流す少年の自殺といふものを、また虐めの状況をそのまま取り込んでゐるやうな気がする。それが現実の一部として実際に身近なことだとしても、一般化するのはどうだらう。