2007-08-24

85.四国周遊殺人連鎖

中町信・ケイブンシャ文庫(used)
期待してたワケではないが、もしかたら、とは思つてゐた。こないだ高崎のほんだらけで2冊見つけたから、なにげに朝倉のBookOffに入つたら、あつた。あと10冊くらゐなので、集めてしまはうか、とも思ふが。──これは氏家シリーズの3作目。この前に佐渡金山、阿寒湖と書かれていることは、この中で氏家たち自らが語つてゐる。娘が誘拐されてるのに四国に旅行する親つてのは、話の中でも不自然だと言つてるけど、不自然だよ。そのことに目を瞑れば、面白い。氏家シリーズは氏家たちの視線で常に推理が展開して行くから、惑はされるけれども、それは寧ろ計算で、作者の仕掛けなのかも知れない。

2007-08-18

84.人事課長殺し

中町信・TOKUMA NOVELS(USED)
これも酔ひどれ文さんシリーズで、こつちは4作目。「湯野上温泉」同様プロローグとエピローグに挟まれてる。プロローグをどう読み取るかで本篇の面白さも違つて来る。ちよつとした誤解で推理が進むといふパターンはお馴染みだ。探偵役がどこでそれに気づくかによつて、白けてしまつたりもする。ここでのダイイング・メッセージも無理があると思ふ。

2007-08-17

83.湯野上温泉殺人事件

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
酔ひどれ文さんシリーズの2作目。1作目は「社内殺人」で、太田のほんだらけで200円で見つけた。これはやはり中町信の文さんシリーズの一つ「人事課長殺し」と一緒に並んで高崎のほんだらけにあつたものだ。大ドンデン返しが予想されるので最初から「まさかなあ」の人物を犯人ではないか、と読んでしまつた。写真を使つたダイイング・メッセージには無理がある。だつて、この写真のことが出た時、段ボール抱へてる人は誰だらう、と思つたのに、最後の最後で取り上げられる、つてのは、どうでせう。ダイイング・メッセージについては見事だ、と思つたものがない。でも面白いスね。氏家シリーズがあまり好ましくないのだよ。

2007-08-12

82.奥利根殺人行

中町信・ケイブンシャノベルズ(used)
偶然、Book Offで見つけた。もう近所のBook Offやほんだらけでは手元にない中町信は手に入らないと思つてゐた。
これはなかなかよく出来てるんぢやないかなあ。多門耕作シリーズの3作目で、これ以降多門耕作シリーズは書かれてゐない。このシリーズは気に入つてゐるので残念だ。特に多門の推理の仕方が、他の中町作品と微妙に違ふやうに思へる。犯人を絞つて行く時にあまり飛躍しない。と言ふか、判断保留、可能性もある、といふ姿勢でゐることがある。そのはうが自然だと思ふので気に入つてる。相棒の堀田晴代が典型的な中町的な素人探偵かな。中町作品ではお馴染みの、読み手が勝手に勘違ひして推理するやうに書かれてゐるが、プロローグを注意して(先入観を捨てて)読めば犯人は当て易いし、トリックも解り易い。蛇足ながら、多門耕作は渋川の出身で、渋川高校のOBなのださうだ。

2007-08-11

81.遊動亭円木

辻原登・文春文庫(used)
この人の本ははじめて読んだ。「村の名前」で芥川賞、本作で谷崎潤一郎賞。毎日新聞の連載小説が、いまはこの人と宮部みゆき。どつちも読んでないけど。噺家が主人公で、しかも盲目。円木をふくめた人間模様。ついつい語りたいところを抑へた書き方なので、余韻が残る。話の筋にも工夫があるので、一つの長篇のやうに読むことも可能だらう。谷崎の「台所太平記」、山口瞳の「居酒屋兆治」、井伏鱒二の「荻窪風土記」などを思ひ起こした。「居酒屋兆治」が近いか。もうこの年になると、この手の話は自分の人生だけで沢山だな。
──ひとつだけ余計なこと。円木の父の命日が五月十四日。第一話で相撲の夏場所見物に行く日が五月十三日。この部分の記述に翌日が父親の命日だとは一言も触れてないのは如何なものか。円木の父親の死に方は極楽往生ではないし、後に結婚することになる寧々の父親との絡みがあり、円木は忘れることはないだらうし、妹もその日が父の命日の前日である、と言葉の端にも上らないのは、この時は、と言ふのは作者が書き始めた時には父親の命日が決まつてなかつたのかも知れないが。(07.08.12追加)