2013-05-12

業田良家「執念の刑事」上下/竹書房文庫(539・used)そもそも業田良家の名前を記憶したのは、この漫画だつた。しかし、連載されてゐた漫画雑誌が本の後ろに書いてある掲載誌一覧を見ても思ひ出せない。調べれば解るのだらうが面倒臭ひ。植田まさし(新聞連載の「コボちやん」はどうしてあんなに詰まらないのだらう)の「フリテンくん」もほぼ同時期に読んでゐたから「月刊まんがライフ」だらうか。深夜だつたり早朝だつたり、飲み屋の帰り道、甘いものが食べたくなつて(だからブクブク太つてゐたのだつた)鶴生田川沿ひにあつた不思議な親父さんとその奥さんがやつてゐたヤマザキデイリーストアで序でに漫画雑誌を買つてゐたのだつた。もう30年近い昔の話だ。記憶にないキャラクターもあつたし、殆ど内容は覚えてなかつた。マリリンウーマンはどんどんかはいくなつて行くし、極悪非道の男とその娘は後の「独裁君」に繋がつて行くやうですね。高田パン店の親父さんとタクシー運転手は同じ人かも。執念を殺さうとする親分の名前が解らない。吉田刑事の口まはりは一体どうなつてゐるんだらう。父一徹の仏壇ネタはクド過ぎるよ。

2013-05-10

樋口有介「ぼくと、ぼくらの夏」文春文庫(538・used)この文庫の表紙、フジモト・ヒデトといふ人の絵で、これが好い。中身も充分面白かつた。テレビドラマか映画の原作としても読める。サントリーミステリー大賞の読者賞を受賞し、開高健とイーデス・ハンソンが強く推したといふエピソードがあるさうだが、そんなことは余計な話で、「ピース」もさうだつたが、基本的に巧い小説家なんでせうね。トリックはむづかしくはない。それよりも高校二年生といふ設定の主人公と女友だち、たがひの両親、級友たちや教師などの人間関係のはうが優先してゐる。特に会話は凝つてゐる。チャンドラー風といふ評をネットかなにかで見た気がするが、そのまま村上春樹ではないか。小生意気な主人公の言ひまはしは、もし身近に似たやうなのがゐたら、巫山戯るな、と怒鳴りつけるかもしれないね。具体的には冒頭で父親(刑事)から同級生が死んだと聞かされ、すぐそのあとで父親の腹具合を聞く。それが自殺らしい聞かされると「今年の夏があまり暑いので、生きるのが面倒くさくなったのだろう」と独白する。オレはこの神経には耐へられない。ムルソーだつて、こんなことは言はない。人の死に対して、かういふ態度、言動をする人間を許せないからだ。そんな建前道徳的な発言は白けるかもしれないが。これは全面改稿した新装版だと最後の頁にあり、そのせゐかどうか、主人公の名前が戸川春一であると解説には書いてあるのだが、何度か最初から確かめたけれども「戸川」は間違ひないやうだが「シュン」までしかなくて、「春一」と書いてあるところが見付けられなかつた。

2013-05-06

林信吾「イギリス型〈豊かさ〉の真実」講談社現代新書(537・used)一通り読んでみてイギリス型〈豊かさ〉といふのは福祉、中でも医療費無料(一部有料)のことを指してゐると思はれた。医療費が無料であれば病気や怪我のときに安心である。安心なことと〈豊かさ〉とは同じことだらうか。本文にもあるが、社会として、国として国民の生活を保障する責任、義務はある。福祉もその一つだし、大事なことだ。けれどもそれは精神的な〈豊かさ〉とは違ふやうに思ふ。といふのも、オレの語感では〈豊かさ〉としいふ言葉は心持ち、心意気として使ひたい言葉だから。