2008-12-31

区切りといふことをhiko7newsで言つてたくせに敢へてこつちはズルズルと「Ⅱ」に移行することを選んでみた。またこの際だから「才」は「歳」と正しい字にした。「一日一生」はほぼ半分ほど読み進んだところで、本で知つた阿闍梨について先づ控へておくと、阿闍梨とは天台宗比叡山を約7年かけて1,000日間、回峰巡拝する千日回峰行を成し遂げた人に与へられる尊称であり、大行満大阿闍梨と呼ばれる。記録に残る阿闍梨は(織田信長の比叡山焼き討ち以前は記録が残つてゐないが、それ以降の)400年間で49人。戦後、1945年以降で12人。但し、酒井阿闍梨は1980年(54歳)、1987年(61歳)と続けて二度満行した。二千日回峰行を成し遂げたのは400年間で僅かに3人しかゐない。100年に一人ゐないわけだ。しかも、最高齢だといふ。更に、酒井阿闍梨は40歳で得度するといふ坊さんとしてのスタートが非常に遅いのだ。だからまあ、ぜひとも読んでみたいと思つたわけだが、やはりお坊さん特有の説教、講話的なものが多いのだが、なにしろ坊さんになるまでの紆余曲折が半端ではないので説得力がある。
この本を探してるあひだ娘と一緒にゐることが多く、いろいろ阿闍梨とはどんな人で、と説明してゐたのだが、念仏を唱へて人を救ふといふことが呑み込めない。医者みたいに病気を治せないのなら、なにができるのか、と聞かれて答へられない。つまりオレには坊さんのことも宗教のことも、ましてや阿闍梨なんてまるで解つてゐないといふことなのだ。

2008-12-30

きのふの朝刊の一面、下のはうに書籍の紹介があつて、そこに天台宗大阿闍梨、酒井雄哉著「一日一生」といふ朝日新書の記事があつた。ぜひ読みたい、と思つて2箇所(渋川からの帰途に寄つた大胡町と足利市朝倉)の文真堂に寄つたけれども在庫なし。遅くなつたので、明日にしよう、と。
それでけふ、新しくできた「スシロー」で昼を食べた帰り、近いから寄つてみたハーヴェスト・プレイスの本屋にも置いてない。太田イオンの喜久屋に行くしかないか、いや待て、アピタのくまかは書店は結構揃つてるから、と覗いたらあつた。まだ読み始めてないんだけど、どうやら聞き書きを纏めたものらしい。生まれ変はる「読書日記」の最初に相応しいかも知れない。これを読みながらブログを書いてくつもりなので、どんな風になるだらう。

2008-12-28

176.ループ

鈴木光司・角川書店(used)
文庫が出回つてないのか見掛けないので単行本で105円だつたから買ふことにした。三部作の最後、解決篇とでも呼べばいいのか。なにがなんだか、……。物語形式のPHP文庫なんかでよくある最新科学情報ダイジェストみたいな感じかな。全体の構想に作者のマッチョな腕力を感じる。あとがきに「物語がどう展開するかなんて、作者であるぼくにもまったくわからなかった」と書いてあるけど、嘘でせう。きつちりストーリーが出来てゐて、そのうへを人物が動いてるとしか思へない。ホントに蛇足ながら、第三章に入つてすぐ、主人公の馨がウェインスロックといふ砂漠の中の廃墟でバイクを降り、廃屋に辿り着いて42時間パソコンを見るといふ展開になるのだが、P200の6行目、バイクのエンジンを切つてないんだよ。このまま42時間戻らない。600ccのXLRはガス欠にならないのだらうか?

2008-12-23

175.仄暗い水の底から

鈴木光司・角川ホラー文庫(used)
短篇のはうが読み易いかも知れない。「リング」「らせん」よりも面白く読めた。

2008-12-20

174.日本史集中講義

井沢元彦・祥伝社黄金文庫
読み物としては充分面白かつた。歴史に関する本としても、副題にある「点と点が線になる」まではいかなくても、因果関係が説明されるので流れとして摑める。が、やつぱり網野善彦の「日本の歴史をよみなおす」の驚きには及ばない。

2008-12-17

173.不完全犯罪

広瀬隆・集英社文庫(used)
さう、あの「東京に原発を」の広瀬隆の短篇小説集。ほんとに短い18篇。サキを連想したのだが、もつとビアスに似てゐるかもしれない。なかなかの皮肉な(ときに残酷な)結末。ペダンチックといふか、凝つた文章ではある。その分古臭く見える。

2008-12-16

172.貨客船殺人事件

鮎川哲也・光文社文庫(used)
読者に挑戦する犯人当ての短篇集。9篇。ちよつと時代的な古さを感じた。「黒いトランク」のうがよつぽど古いんだけど、なぜだらう。一番古いのが昭和42年、新しいのが昭和59年、ほかは昭和45年が4篇、46年1篇、47年1篇、不明1といふ具合。因みに全問正解とは行かなかつた。

2008-12-14

171.文学的商品学

斎藤美奈子・文春文庫(used)
小説以外のものが読みたくなつて、立ち読みしてたら面白さうだつたのは、「第2章ファッション音痴の風俗小説」の中で渡辺淳一の「失楽園」と丸谷才一の「女ざかり」を取り上げてゐたからで、渡辺淳一の本は一冊も読んだことがないのでなんとも言へないが、丸谷才一はたぶん「裏声で歌へ君が代」だつたと思ふんだけど、確か主人公の男がエレベーターを逆走するシーンで始まつて、そのときの服装をいかにも美術商(だつたかなあ、あとで調べて置かう)らしいセンスのいい服、みたいな説明が地の文にあり、思はず「どこが」と突つ込みを入れたくなつたのだが、ストーリーとか登場人物よりも余計な些細なことにばかりに気になるタチなので、アプローチが面白くて楽しめた。

2008-12-12

御乱心(再読)

三遊亭円丈・主婦の友社(used)
出版されて直ぐに寝床の会の誰か(荻野君か塩田君)に借りて読んでゐる。BookOffで他の本を探してゐたら、とつぜん棚のこの本のタイトルが目に入つた。それは買へといふことだな、もう一度読めといふことだな、と閃いた。そして買つて読んだ。なんとも円楽、呆れ果てる。談志も、……。志ん朝はやつぱり恰好いい。弟子のために頭を下げる。まあ、円丈が見た真実だと「まえがき」にあるけれど、芸一筋で云々と庇つてゐるが、円生は弟子のことは二の次だつたワケだから。

2008-12-10

170.らせん

鈴木光司・角川ホラー文庫(used)
正に「リング」の続篇。かうした○部作ものは、単独では読めないものなのかどうか。少なくともこれは前作の内容をしつかり引き継いでゐるから、いきなりこれを読んだら入つて行けなかつたらう。「リング」よりも話の展開はゆつくりしてゐる。DNAによる再生のネタは映画「ジェラシック・パーク」がさうだつたが、これには原作があつて先日亡くなつたマイクル・クライトンで、どつちが先なんだらう。仕掛けは面白い。「パラサイト・イヴ」みたいに科学用語が頻出するからSF的でもあり、謎解きの要素もあるからミステリ的でもある。ホラーとも、ファンタジーとも読めるから、ジャンルを超えた、と称されてゐるのだが、どうも奇想天外なストーリー展開に寄り掛かり過ぎてゐる気がして、確かに面白いんだけどいま一つ小説を読んだといふ満足感がない。さらに「ループ」があつて、それが完結篇であるといふのだが、もういいかな。重箱の隅を一つ。P14死亡推定時刻が11時49分と正確なのはなぜか、と高野舞が呼ばれるが、その説明がないこと。と、安藤医師はスケベ過ぎないか?

2008-12-05

169.リング

鈴木光司・角川ホラー文庫(used)
1991年に刊行されたものだといふから、17年まへ。ベストセラーは手が出し難いタチなので、いまさら読んだ。「らせん」も一緒に買つたから、続けて読むつもりだ。VHSかDVDのレンタルで映像のはうを見てゐるが、内容はよく覚えてゐないのだ。凡そ一週間の物語なのである。そのせゐかひどく慌ただしい。第二章まで読んでも怖さが物足りないので、ホラーとしてよりも、ひたすら動きまくる浅川と高山のアクションものとして読んだ。後ろのカバーに「ホラー小説の金字塔」とあるし、解説でも絶賛されてゐるのだが、どこがそんなに凄いのか解らない。重箱の隅を三つ。1.三浦記念館での貞子の特定が簡単すぎないか。次に進むには、ここで判明してないと都合が悪いんだらうけど。2.P249の1行目、長尾医院の看護婦の名前がいきなり「藤村」と出て来る。P246から登場してゐて、そこでは看護婦としか書かれてないのに。このあとで長尾医師が名前を呼ぶことになるから、ここでとつぜん名前が付いたのだらうか。3.P288、といふより第四章、最終章の冒頭、浅川が眼鏡をかけてゐることが漸く解る。近眼なのか、乱視なのかどうかは判断できないが。ここから遡り、浅川が眼鏡使用でないと困ることがあるのだらうか、と読み返すのも一興かと思つたが、億劫なので止めた。序でにP274で高山がベンチプレス120kgだといふ説明が入るのだが、なんで?

2008-12-01

168.どこかの事件

星新一・新潮文庫(used)
いやあ、ずゐぶん久し振りの星新一。中高生の頃によく読んだものだ。それ以来。懐かしかつた。ミステリー風の21の話が入つてる。発想の転換が素晴らしい。「その女」はその典型。「ポケットの妖精」は落語みたいなオチがある。買つて直ぐ1/3くらゐ読み、半月くらゐまへに半分ほど読み進んでゐたもの。

2008-11-30

167.雨に殺せば

黒川博行・文春文庫(used)
謎解きとしても、前作「二度のお別れ」よりも力が入つてゐる。謎解き部分はちよつと急いでる気がするのだが。銀行に対する痛烈な批判があるが、作者の個人的な恨みでもあるのではと思ふほど。因みにこの文庫の表紙絵は黒川博行。

2008-11-29

166.二度のお別れ

黒川博行・創元推理文庫(used)
いまのところ安心して読める人。これがデビュー作。「てとろどときしん」で探偵役だつた大阪府警のクロマメコンビのデビュー作でもある。これも間違ひなく楽しめた。長さもちやうどいい。一気に読める。後半のテンポの速い展開は緊張感もあつて、ちよつとハードボイルド的でもあつた。が、この終りかたは物足りない。クロマメコンビに解決させてほしかつた。この2人、華がない、といふ理由でサントリーミステリー大賞で佳作になつたさうだ。変な理由。

2008-11-27

165.空飛ぶ馬

北村薫・創元推理文庫(used)
どうも苦手な文章で、ペダンチックなところはまあOKなんだけど、通ぶつてる感じがするんだなあ。学のない僻みもあるが。解説にもあるし、評判通りの日常生活の中にある謎を見事に解決するところは面白いのだが、地の文がどうにもイヤだ。母を母上と呼ぶが、父は父。女子大生言葉的だといふことか、「けれど」の連発。5篇それぞれ工夫がある。「胡桃の中の鳥」は纏まりがない印象。「赤頭巾」が一番面白かつた。これはシリーズになつてゐて、「夜の蝉」が日本推理作家協会賞を受賞してゐる。これはデビュー作品集。これだけで充分かな。

2008-11-24

164.カウント・プラン

黒川博行・文春文庫(used)
ちよつと前に「てとろどきしん」を読んで面白かつたので、買つてみた。最初の「カウント・プラン」を読みをへて思はず「すばらしい」と書き込みをしてしまつたくらゐだ。全部で5作品。どれも工夫があつて充分楽しめた。読みをはるのが惜しかつた。もつと読みたい。「カウント・プラン」が日本推理作家協会賞短篇賞を受けたさうだが、当然だらう。「オーバー・ザ・レインボー」も好きだな。解説は東野圭吾。

2008-11-17

ひぐらしのなく頃に(第一話 鬼隠し篇 上・下)

竜騎士07・講談社BOX
息子から、読んでみる?と手渡されて、半年過ぎてしまつた。借りたときにパラパラと見た限りでは、とても読めない本だつた。これは正にゲームだね。主人公や主な登場人物の年齢さへも不明だ。このラストから遡れば、物語は成り立たない。しかも第一話ではなにも解決しないのだ。この文章がどうにかならないと、次を読む気にならない、悪いけど。ここには前提になつてゐるものがある。その部分の説明が一切ない。それは想像力ではどうにも補えないものなんだよ。←第一章しか読んでないので、冊数から外した(2015.07.08)

2008-11-11

163.煙か土か食い物

舞城王太郎・講談社NOVELS(used)
題名について一言。煙が土か○○か食い物、といふ風に、もう一つ入つたはうがオレはリズムが取り易い。余計なことだが。内容について。苦手だ。かうしたハードボイルド寄りの、暴力だの、グロテスクな描写が多い読み物をノワールと称するのかどうか知らないが、主な登場人物の熱い言ひまはしの台詞が空回りして聞こえる。なにかの賞の選評で、石原慎太郎と宮本輝がクレームをつけ、池沢夏樹と山田詠美が推したといふ理由もなんとなく理解出来る。これだけでたくさんだね。世代が違ふ気がした。詰まらないとは言はないが、ほかにも読みたいとは思はない。

2008-11-03

162.無名仮名人名簿

向田邦子・文春文庫(used)
読んだことがあるかもしれないな、と思ひつつ買つた。半分をちよつと過ぎた辺りの「目をつぶる」といふ章の途中で、この話は読んだ気がする、と思つた。誰かの引用かもしれない。他にはさういふ箇所はなかつたので再読扱ひはしなかつた。端正な人だな、と感じた。「思ひ出トランプ」は読んでゐる。そして勿論「時間ですよ」、「寺内貫太郎一家」は見てゐた。直木賞を受賞した翌年、1981年に航空機事故での亡くなつたことは記憶にある。享年51歳。抜いちやつたなあ。世代はずゐぶん離れてゐるのに(向田邦子は1929年生まれ)、生活感はそれほど離れてゐる気がしないのだが、ご不浄はさすがに古く感じた。

2008-10-31

161.てとろどときしん

黒川博行・講談社文庫(used)
サントリー・ミステリー大賞を受賞してデビューしたばかりの頃の短篇だといふ。大阪弁の会話の面白さは二の次だと言つてもいい。構成がよく出来てゐて、不自然さを感じた箇所がなかつた。大阪弁がイヤでなければお薦め本。一つだけ。これはホントに個人的な理由であつて、この本の面白さとは一切関係ない。「指輪が言つた」の動機の部分。殺したいと思ふ、それは尤もな動機なのだが、子どもが絡むのは辛いので、題材として扱つてほしくなかつた。

2008-10-17

160.検死官

パトリシア・コーンウェル/相原真理子訳・講談社文庫(used)
500頁もあつて、しかも文字も最近の文庫よりも小さいから、ホントに長い。でも、最後まで引つ張られる。なかなか面白かつた。或る重要な人物に疑惑が向きさうになる。さう思はせるよう誘導して、……実は。意外な犯人なのは確かだが、犯人探しのミステリーではない。警察内部の話、検死官を巡る組織の話など、組織と人間関係に力点があるやうだ。謎そのものを前面にしたら短篇にしたはうが面白いかも。検死に関する説明やコンピュータの説明などは頭に入らなかつた。因みにパトリシア・コーンウェルつて、オレと同い年なんだよね。オレのはうが学年で一つ上、確か。関係ないけど。

2008-10-13

159.最後の密室

土屋隆夫・廣済堂文庫(used)
6篇入つた自選短篇集。解説もなく巻末エッセイとして「私論・推理小説とはなにか」がある。それぞれが、いつ頃か書かれたものかは記載がないので不明。「死の接点」が一番面白かつた。テンポも速く、人物も生き生きしてゐる。よく考へると、実に重苦しい題材を扱つてゐるのだが。「心の影」、「最後の密室」の2篇はいかにも年代物に思へた。探偵小説と呼ばれてゐた頃のものではないか。

2008-10-10

158.天童駒殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
久し振りの中町信だ。2月の「三幕の殺意」以来。奥さんの早苗が強引な推理で引つ掻き回す氏家周一郎シリーズなので、買ふときちよつと躊躇つたのは事実だ。幾人かの容疑者たちを相手に不用意に推理を披瀝する。それが原因で疑惑を逸らさうとした真犯人が次の殺人を引き起こしたりもする。読者を誘導する仕掛けが実はそのまま登場人物まで巻き込んで殺人が増えてしまふ、みたいな。死ななくてもいい人が仕掛けのために死んで行く、といふか。まあ、中町信はリアリティよりもゲーム的な面白さだね。だから、ズルい、といふ見方も当然出るでせう。これに出て来るダイイング・メッセージの扱ひも、解明するのが遅過ぎる。……と、文句を言ひつつも、買つてしまふのは一種の中毒だな。

2008-10-05

157.名古屋人の真実

三遊亭円丈・朝日文庫(used)
だいぶまへに名古屋の喫茶店の話を東海林さだおのナントカの丸かぢりで読んだことがある。モーニングセットで腹一杯みたいな話だつたが、この本ではちよつと控へ目に書かれてゐる。どつちが本当か確かめたい気がする。円丈と言へば「御乱心」。あれに出て来る志ん朝はいい。円楽に対する不信感、反感は読後いまでも消えない。話が逸れてる。これは名古屋弁と名古屋の食べ物の話だ。たまに、クックッ、と堪へきれずに笑つてしまふ。さういふところは大抵、落語風にデフォルメしたり、語呂合せしたりの部分と、オレの子どもの頃の食生活に近い話が出たところ。円丈師匠は昭和19年生まれ、こつちは昭和31年生まれで、一回りも開きがあるのに食糧事情が似てるのには驚きだ。名古屋に比べると渋川はずゐぶんと田舎なんだなあ。

2008-09-27

156.イッセー尾形の人生カタログ

イッセー尾形・朝日文庫(used)
これは面白かつた。一人芝居よりももつと短くて、ちよつとした場面のやうで、状況説明が足りないのに、なんとなく頷ける。全部で51篇。一年52週だから、暮れから正月はお休みだつたのかなあ。まつたく本を読む気にならない、ここ一箇月のあひだ、日に二つ、三つと読み継いで来た。星新一や都筑道夫のショートショートとは違ふ面白さ。それは例へば、落語の小咄的なオチがないものが殆どだ。この先一体どうなる、といふところで読み手は放り出されてしまふ。筋なんか二の次。状況設定と人物重視。一人芝居に似てる。

2008-09-24

155.パラサイト・イヴ

瀬名秀明・角川書店(used)
1995年の第2回日本ホラー小説大賞に選ばれ、ベストセラーになつたと記憶してゐる。第4回の大賞が貴志祐介の「黒い家」で、これは読んだし、映画にもなつたのでDVDで見てもゐるが、こつちはなかなか読む気にならなかつた。BookOffで、105円の単行本で目立つ汚れもなく状態がよかつたから、つい買てしまつたが、買つてからも、なかなか読む気にならなかつた。カバーの絵が気味が悪かつたこと、プロローグを読んでも、ちつとも興味が湧かない。一箇月放置してゐた。それがちやうどなにも読めない状態と重なる。カバーを外して読んだ。発想はびつくりする。ミトコンドリアなんて中学の理科で習つて、辛うじて名前を知つてるだけ。第三部に入り、300頁を過ぎた頃から章の括りが短くなり、テンポが早くなる。14で文章実験みたいなところが出て来る。23にもある。が、果たして効果的かどうかは疑問。ずるり、どろり、ぎくり、にこり、ごきり、ゆるり、にやり、ぐにやり、ぶくり、びしり、かういふ「○○り」がお気に入りなのか、終盤のクライマックスでたくさん出て来て閉口した。本の最後に選評があり、絶賛されてゐるけれど、ホラー映画には確かにグロテスクなシーンはあるし、汚いと感じる場面もあるが、それを踏まへても、汚いと感じる場面があつた。また、怖さといふ点では期待してゐたものとだいぶ質が違ふ。

2008-09-15

153.154.自虐の詩(上・下)

業田良家・竹書房文庫(used)
ほぼ一箇月、まともに一冊読み通すことができなかつた。PHP文庫から出てゐる相対性理論や量子論のダイジェスト解説本を読み直したり、幾つかの小説を拾ひ読みしたりしてゐた。これは二箇月まへに渋川のBookOffで奇麗な状態であつたのを見つけてほしくなつた。買つて直ぐに上巻を1/3くらゐ読んだところで、ひよつとするとこれは集中的に読まないとホントの面白さが解らないぞ、と直感した。休みのまへの晩から読み出し、一気に読んだ。下巻になつて熊本さんが登場するところから、更に面白くなる。森田幸江の過去が、葉山イサオとの馴れ初めと絡んで語られる。ストーリーマンガだよ。なのに、4コマ。なのにストーリーが展開して、感動的な結末。人生を感じる。絵もときどきシュールで、よい。画面の白さが、よい。もつと語りたいけれども、知ればそれだけ感動が薄くなるやうな気がする。ミステリーの結末みたいなものだ。

2008-08-13

152.鍵

笹沢佐保・光文社文庫(used)
文庫オリジナルの短篇集である。全部で9篇。そのうち、ごく短いのが4編。1編は昭和43年の「高一時代」に掲載されたもの。主に昭和40年代(凡そ40年前)に書かれたものだが、古さは感じなかつた。吉田健一の「大衆文藝時評」で笹沢佐保は屢々取り上げられ、褒められてゐたので機会があればと思つてゐた。漸く機会が来たわけだ。どれも皮肉な結末で、面白く読んだ。2篇目「華やかな告発」のラストは作り過ぎでは?

2008-07-20

151.ぼくが愛したゴウスト

打海文三・中央公論新社(used)
11歳の「ぼく」がコンサートの帰りに駅のホームで事故に出くはす。それからをかしなことになつて、心を持たず、尻尾のある、イオウのにをひの体臭を持つ人間の住む世界に移動してしまつた、のか、パラレル・ワールドの話なのか、或は量子論的な幻影なのかといふ、設定が不思議でなかなか面白く読んだ。一つだけ。一枝あぐりはなぜ田之上翔太を逃がさうとしたのか、そのあたりは説明がないので、強引ではないか、といふ気もした。

2008-07-07

150.13階段

高野和明・講談社文庫(used)
江戸川乱歩賞受賞作。解説は宮部みゆきで、かなり褒めてる。けれども、どうなんだらうなあ、ミステリとして。文章は上手いと思ふ。すらすら読めるし、意味がよく解る。この題名、これでホントにいいんだらうか。寺の階段が13段。どこの寺もさうなら、なるほど。死刑囚・樹原亮の人物像がまるで見えない。南郷と三上がここまで入れ込む理由が弱い。10年前の三上の事件についても不自然な感じ、こじつけみたいに感じる。意外な犯人、アリバイ・トリックとは縁がない。いろいろケチを付けたけれども、間違ひなく面白い。蛇足、なんといふ偶然か、13113といふ数字の並び。

2008-06-30

黄色い部屋はいかに改装されたか?(再読)

都筑道夫・晶文社
これは植草甚一の「雨降りだからミステリーでも勉強しよう」と一緒に本棚の直ぐ手の届くところに置いてある。改めて最初から読み直すことは余りないが、時々捲つてゐる。始めから読み直したのは、ミステリについて、もう一度勉強しようと思つたからだ。P35真ん中辺り「いちばん理想的な犯罪は、それが犯罪に見えないことでしょう。殺人の場合は、ことにそうです。だからこそ、冷静に計画するはずなのに、捜査側の動きを予想して、アリバイを偽造したりする。自分が疑われるような可能性があれば、その計画は変更されるべきでしょう」まつたくその通りなんだが、それではミステリそのものを否定しかねない。犯罪小説になつてしまふ。作者が提出した謎を探偵役がどうやつて解明するか、その面白さなのだ。その推理の道筋が納得できるかどうか。都筑さんもおなじやうなことを言つてると思ひますよ。

2008-06-28

149.親不孝通りディテクティブ

北森鴻・講談社文庫(used)
初めて聞く名前だつたが、第6回鮎川哲也賞受賞者だといふ。舞台は博多で、設定に工夫があるハードボイルドの連作短篇。面白く読んだ。ま、ハードボイルドは括りとしてはミステリだから。気づいた誤植。P80最後の行「あんたに気持ちのいい人はいませんよ」は「あんなに」ではないか。蛇足ながら、第一話の「セヴンス・ヘヴン」の季節が解らない。P18「この季節である」と書かれてゐて、死臭の話が出るから寒い時期ではないにしても。

2008-06-26

148.裁判長!ここは懲役4年でどうすか

北尾トロ・文春文庫(used)
こんなにも易々と裁判所、更には法廷に入ることができ、裁判を傍聴することもできるとは知らなかつた。裁判が神聖なものであつても、けして茶化してはならないとは思はないが、それでも不謹慎だと感じる発言がある。もちろん理不尽なものへの憤りもあるが、野次馬の裁判観察記録として読むはうがいい。本文中にタイトルと同じ発言が出て来るかのやうに、この文庫の解説やAmazonのレビューには書いてあるのだが、強いて挙げれば、P154の5行目に「判決は実刑3年でどうだ」とあるのには気がついたけれども、オレには見つからなかつた。

2008-06-17

147.タイムクエイク

カート・ヴェネガット/朝倉久志訳・ハヤカワ文庫
10年間時間がスリップして繰り返すといふ設定がある。その10年間を行つたり来たりする。しかしそれは設定に過ぎない。クスクス笑へるところがたくさんあつて、すらすら読めてしまふ。「猫のゆりかご」や「スローターハウス5」と違つて、物語ははつきりしない。私的な部分がかなりあつて、エッセイみたいに読んだ。これが最後だとプロローグに書いてあつて、確か最近(2007.04.11)亡くなつたので、これがホントに最後の作品になつた。

2008-06-11

146.苦い娘

打海文三・中公文庫
アーバン・リサーチものはこれで終り。順番どほりではないが、ぜんぶ読んだことになる。おはりのはうで佐竹が出て来る。ウネ子は今回は姿を見せない。かはりにまだ中学三年の姫子が登場する。「されど修羅ゆく君は」のときは13歳だつた。ホリー・コールの「トラスト・イン・ミー」といふ曲が出て来るが「コーリング・ユー」なら知つてるけど、これは知らない。相変らずモテる中年男の話だ。3分の2くらゐ読み進むと、唐突にラスト向けて雪崩れ込んでゆく感じ。その感じは氏の作品凡てに言へるのではないか。やつぱり映画を思はせるところがある。

2008-06-09

145.ハルビン・カフェ

打海文三・角川文庫
大藪春彦賞受賞作で、解説によれば「著者の最高傑作に数えられる」さうだ。一人の著者の最高傑作と言へるものを数えることが出来るのか、といふ素朴な疑問は忘れよう。原宏司の「集落の教え100」からの引用があるが、未読の本で先づこれがよく意味が解らない。なにかを象徴してゐるかのやうな、別の意味を持たせた文章である。内容との関連は読み取れなかつた。多くの人物が登場するので、時間の経過、何年に何があつたのかをメモしながら読み始めたが途中から放棄した。時系列的な展開は二次的なものらしかつたから。Pと呼ばれる組織の発生とその後の活動、警察内の刑事、公安、監察などの力関係、韓国、中国、ロシアのマフィアの動きなど、一度には呑み込めなかつたが、洪孝賢を中心にした人物たちとその謎解き、小久保仁をめぐる人間たちの絡みは面白く読めた。短いシーンの集積で、内容だけでなく映画的な印象がある。尤もそれはこれまで読んで来た打海文三の凡ての作品について言へることで、勿論それは氏が映画からスタートしたことと関係してるだらう。
敢へてここで言ふこともないのだが、警察をめぐる小説は実はあまり好きではない。警察内の権力闘争は政治家のそれよりも腐臭がする。臭いものには蓋、ではなくて、吉田健一が言ふ「人が裸になつた時」のやうな「見るに堪へないのであるよりも見るべきではない」ものは見ないでよいといふ意味で、見るべきではないものを過大に評価して「深淵が覗いてゐると思つたり」しないといふ意味のつもりである。なんでも暴いて裸にするのは野蛮だ、と。
気取るな、と言はれるかもしれないが。

2008-06-02

144.ミステリアス学園

鯨統一郎・光文社文庫(used)
次の短篇がまへの短篇を含んだ形で連作になつて行く入れ子構造。最後の「意外な犯人」は余計。入門篇的なミステリ解説が殆どで、あまり面白くない。打海文三が続いてるので箸休めみたいな気持ちで買つて読んだのだが、遊びが多すぎて退屈だつた。

2008-05-31

143.一九七二年のレイニー・ラウ

打海文三・小学館(used)
これはいづれ文庫になるかも知れないが、単行本ではどこにも置いてゐないのだつた。もちろん、この周辺、地方都市の本屋には。また古本屋にもなかつたのでAmazonで購入。表題作のレイニー・ラウはウネ子だ。作者があとがきで述べてゐることから類推すれば、なかり実体験(予想、空想、妄想を含む)を元に作られたのだらう。尤も私小説のやうにそのまま書いてるといふ意味ではない。アーバン・リサーチものとリンクさせて読むと頷けるところがある。書き方は違ふけれども、人物は近い。

2008-05-27

142.死亡推定時刻

朔立木・光文社文庫(used)
先づカバーデザインが目を引いて、長尾みのるといふ人かと思つたら、違つた。作者の名前が読み難いのも記憶に残つたし、裏返して「現役の法律家が描くスリリングな冤罪ドラマの傑作」。冤罪であれば読まねばならない。さう思ひつつ、時々書名を忘れたりしながら半年、漸くBookOffで105円で非常に状態のいいのが手に入つた。それが先月の初め。細かい文章の好みは省いて中身について。冤罪がなぜ起るかと言へば、刑事、取調をする人間の先入観、見込みによる自白の強要、自白偏重の裁判だ。殴られて脅されて自白したと言ふ被告がゐて、それを証人喚問で否定する警官がゐると、警官の主張を疑はず採る裁判官や検事がゐるのだから仕方あるまい。ただ、これが小説であるなら、こんな司法の実態の中でせめて一審死刑判決から控訴審一審差戻しから無罪を勝ち取るまで書いてくれなかつたのか。ドキュメンタリーならやむを得ないが、倍の長さになつても容疑者の無実を晴らしてほしかつた。読み物としては面白いが、死刑判決を受けた容疑者の苦悩、弁護士の苦悩も十分に書かれてゐない。誘拐事件としての緊張感も足りない。でも充分面白く読める。

2008-05-24

141.そこに薔薇があった

打海文三・中公文庫
初めて読む短篇集で、しかもアーバン・リサーチものではない。ま、アーバン・リサーチものには短篇集はない、……と思ふ。解説では片岡義男風の、と言ふけれども、村上春樹風だと感じた。村上春樹も会話を書くのが上手い。「羊をめぐる冒険」しか読んだことないけど、彼が翻訳したレイモンド・カーヴァーにも似てるかも知れない。7篇入つてゐて、ギリギリまで(気取つた感じで)平穏に進む。最後の最後で奇矯な展開になる。短篇集のはずが実は重複する人物がゐたりする。最後の第7話は、もう一度よく読み直したい。

2008-05-23

140.凶眼 EVIL EYE

打海文三・徳間文庫
帯に「追悼」とある。「残された珠玉の名作は、未来の読者をも魅了するだろう」裏に「ご生前のご功績を忍び心からご冥福をお祈り致します」殺人事件があつて、被害者は「きざはし」といふカルト集団の集団自殺後に行方不明になつた子どもたちと五億円の現金の行方を調べてゐた。誰が殺したのか。ミステリーはそれで作品が組み立てられてゐる。しかしハードボイルドはそこに人間が激しく絡んで事件そつちのけになる。メインの探偵役は武井といふ訳ありの中年男。これにも佐竹とウネ子が出て来る。大須といふ人物の残忍な行動、侮辱的な暴力行為は不快だけれども、これはオレには「時には……」の次くらゐにランクインするかな。大泉町と館林がかなり詳しく語られるので苦笑ひ。

2008-05-19

139.愛と悔恨のカーニバル

打海文三・徳間書店(used)
アーバン・リサーチもの全5作品の最終作で、このまへに読んだ「されど修羅ゆく君は」の姫子が6年後の19歳で主人公になつてゐる。「時には懺悔を」の佐竹、中野聡子、鈴木ウネ子、寺西も登場する。どうもオレはこの人物たちがお気に入りらしい。今回の事件は猟奇的な殺人で、ややグロテスクに感じるところもある。むぎぶえと翼の姉弟の謎めいた部分を翼自身が分析し解説してしまふのは不満だ。本人の理解を超えた力や衝動に突き動かされて、なら受け入れられる。いづれにしても、続けて読んだ2作は、正直言つて物足りない。

2008-05-15

138.されど修羅ゆく君は

打海文三・徳間書店(used)
アーバン・リサーチ・シリーズの第二作。「時には懺悔を」の佐竹も名前だけ登場する。鈴木ウネ子と戸川姫子、野崎などの人物が生き生きしてゐる。殺人事件があり、犯人は誰かといふ筋書きはあるけれども、そつちのはうは今一つ現実味がない。それよりも人物が素晴らしい。野菜の話が詳しく出て来るのは、暫く農業をやつてゐたといふ経歴があるからか。

2008-05-12

137.私はそうは思わない

佐野洋子・ちくま文庫(used)
まへから思つてゐたのだが、エッセイに解説は要らない。解説やあとがきから読んでしまふやうな(オレみたいな)ヤツには先入観が出来てしまふから、よくないのだ。けれども、これは解説から読まなかつた。佐野洋子の本はそんなことは考へなくていい。最初から一枚一枚読んで行けばいい。先づ、なんと言つても、このタイトル!私はさうは思はない。いい言葉だなあ。中身は私はかう思ふ、が書かれてゐる。人間はなんてこんなにバカで間抜けで傲慢で小狡く惨めで素直で下品で素晴らしいものなんだらうね、と書かれてゐる。──蛇足。佐野洋子はオートバイに乗るのである。さういふ記述がある。それに古いバイクの雑誌で見たやうな、見ないやうな。更に車で奈良まで行くのである。東京都内も車で移動するのである。さういふ記述が出て来る。行動的な人なのだ、かなり。

2008-05-05

136.ライトニング

ディーン・R・クーンツ/野村芳夫訳・文春文庫(used)
第一部の第一章を読みをはるまでは、いまひとつ乗り切れないでゐた。何度も読み直したりしながら、ゆつくりポツポツ読んでゐたのだつた。まあ、浦沢直樹のMONSTERも読んでたし、「述語集Ⅱ」も並行してたこともある。が、第二章に入るや、ローラが孤児院に引き取られてから第二部の第五章までの凡そ320頁、やめられなくなつてしまつた。トイレに立つ時間さへも惜しいくらゐ。「ストレンジャーズ」はネタバレで言つてしまふが、R.A.ハインラインの「異星の客」(Stranger in The Strange Land)を思ひ起こさせる題名からも解るとほり異星人との接触を扱つてをり、これは過去からのタイムトラベルなのだ。「宇宙家族ロビンソン」から「スタートレック」(ここはやはり「宇宙大作戦」と呼ぶべきだ)「タイムトンネル」などなど、子どもの頃にワクワクして見たり聞いたり読んだりした空想物語、SFと呼ぶにはもつと荒唐無稽な世界、それがこんなに分厚い本でみつちり真剣に書かれているのだから、途中でやめられるはずがない。──が、一つだけ。ラストシーン近くになると詠嘆調になるのがちよつと、ほんのちよつと白ける。

2008-05-02

135.述語集Ⅱ

中村雄二郎・岩波新書
200頁ちよつとの新書なのに1箇月以上も掛かつてしまつたのは、書いてあることがなかなか頭に入らなかつたせゐで、これが小説やエッセイの類ひなら文章の1つや2つ読み飛ばしてもあとで帳尻が合ふけれども、さうは問屋が卸さなかつた。それは取り上げられた述語の違ひもある。「Ⅰ」(因みに1993.10.03に読了)のはうが興味もあり耳にして気になつてゐた言葉──具体的には「アイデンティティ」「遊び」「差異」「ダブル・バインド」「通過儀礼」「トポス」「パラダイム」など──が多くて、もつとすんなり読めた気がする。とは言へ、やはり新書は物足りないものがある。内容がもつと気楽なものならよいのだが。それでも「老い」「グノーシス主義」「ヒトゲノム」「複雑系」などの項目は面白かつた。

2008-04-27

117.〜134.MONSTER 全18巻

浦沢直樹・ビッグコミックス小学館(used)
読み始めはいつだつたらう。2月の頭くらゐか。少しでも安く手に入れようと、あつちこつち捜しまはつて漸くけふ館林のBookOffで半額セールをやつてゐたので17と18を買つて来て読み終へた。読み応へは充分にあつた。凡そ二箇月かかつてるので、納得できない部分もあるんだけど、通した印象はもう一度ざつとでも読み返してからにしよう。けふは兎も角記録として。なにがMonsterだつたのか。この答へによつて、評価は変るかも知れない。──先づ、最終巻から振り返つて全体を眺めると、トルコ人街の焼き討ちとか、どこかの年寄りの町医者との話とか、省いてしまつても全体の印象はさうかはらない気がする。寄り道が多すぎないか。結末はもつと明確にヨハンの死、またはニーナの死で締め括つてほしかつた。テンマの死でもかまはない。怪物、怪物とさはがしかつた割に、怪物つてその程度なの?と疑問が湧く。

2008-04-21

116.種まく人──ヴィラデスト物語

玉村豊男・新潮文庫(used)
おしまひの章でベジタブルを読み解くところがある。生長・増殖するvegetateことが可能-able。「食用になる野草山菜のうち、人の管理下の植栽が可能なもの」をさう呼ぶ、と。農業は「人間が自然を自分の都合のよい方向にねじ曲げる行為」とも言ふ。が「実際には単に大きな自然のほんの少々のおあまりをいただくくらいのことしかできないのだ」といふ実感も語られる。長野の山奥に家を建て、農業を始めた経緯についてが語られるのだが、ところどころにかうした批評的な目が光つてゐる。「料理の四面体」もさうだつた。そこが面白い。

2008-04-17

115.高血圧の常識はウソばかり

桑島巌・朝日新書
カバーの裏にコピーして繰り返し使へる「書き込み式血圧チェックシート」が付いてゐる。それで買つたわけぢやないが。去年の10月に上が200といふ愕然とする数字を見て以来、高血圧に異常に興味を持つてしまつた。職場の健康診断のデータを調べたら5年くらゐまへまで130代だつのたが少しづつ上昇し始めたのだ。理由は解らないが、どうも尿酸値を気にして水を多く飲むやうになつたからではないか、と自己診断してゐる。生兵法は大けがの元。この本は実に読み易く、為になつた。ただ新書の宿命で物足りないのは否めない。どうすればいいのか、もつと具体的に、事例を挙げて、……なら病院で検査して貰ふのが一番だらう。

2008-04-12

114.不敵雑記 たしなみなし

佐藤愛子・集英社文庫(used)
実に愉しく読めた。途中で飽きちまふかと思つたが、最後まで面白く、特におしまひのはうの幽霊騒動。筒井康隆の「笑犬樓よりの眺望」の第一回目に佐藤愛子の「何に向かって」といふエッセイが引用されてゐたのを読んで、いづれ纏まつたものを読みたいものだと思つてゐた。たぶん氏の本を読んだのは、これが初めて。親子くらゐのトシの差があるが、佐藤氏が取り上げる懐かしさは、オレの記憶にあるものとさうかはらない。ほかのも読もう。「何に向かつて」が入つてるのを捜すか。

2008-03-17

113.おかしなことを聞くね

ローレンス・ブロック/田口俊樹・他訳・ハヤカワ文庫(used)
いつだつたか雑誌かなにかで宮部みゆきが薦めてゐた本で、偶然BookOffで見つけた。中町信の「三幕の殺意」の後で読み始めてゐたが、漸く読みをはつた。上手いねえ。タイトル作なんて7頁しかない。これも気に入つたが、好みから言ふと「我々は泥棒である」「動物収容所にて」「夜の泥棒のように」「無意味なことでも」「窓から外へ」かな。ローレンス・ブロックがシリーズで書いてる主人公が三人?出て来る。マット・スカダー、泥棒バーニィ、と後誰か。バーニィのシリーズは特に読んでみたいと思つた。斜に構へた感じの会話が面白い。マット・スカダーのはうはハード・ボイルドで、これもなかなかいい。兎に角上手い人だね。

2008-03-15

112.トマソンの罠

とり・みき・文藝春秋(used)
いしかはじゆんの「漫画の時間」でも取り上げられてた人だけど、名前のみ見たことがあり実際に読んだことはなかつた。四コマの人かと漠然と思つてたら、つげ義春みたいなんだね。8篇収録されてゐるが、表題の「トマソンの罠」は都筑道夫の「夜のオルフェウス」を思はせる。wikiでいま調べたらつげ義春や水木しげる、白土三平とは縁がないみたいだが、建物とかアップになつた人物の書き方から、ちよつとそんなことを想像したのだ。「エリート」も面白かつた。「コインランドリー」は似たやうな設定のものを別の人で呼んだやうに思ふ。或は小説だつたか、テレビ番組の世にも不思議な辺りか。「雪の宿」が一番つげ的展開かな。「帰郷」は上手いと思つた。ありがちな筋書きだけど書き方がいい。すごく短いところもいい。

2008-03-10

110.111.ストレンジャーズ 上・下

ディーン・R・クーンツ/宮脇孝雄訳・文春文庫(used)
面白かつたねえ。用事が入つて途中で本を置くのが惜しくて仕方がなかつた。名前だけは知つてたけど、ユッスー・ンドールみたい(名前を見たら、また聞きたくなつた)で読み難い名前だし、カタカナタイトルだし、表紙の絵がどれも好みぢやないし、ぶ厚いし、人がいつぱい出て来るし、面倒くさいので避けてゐた。しかし、初めて読んで驚いた。500頁を超える長さの2冊本を最後まで退屈させずに読ませるのだから凄い。細かい部分もよく書き込まれてゐるから、あり得ないやうな場面も抵抗がない。サスペンスのやうでSFのやうで、ファンタジーとも言へなくもないか。登場人物も魅力的だ。ジンジャー・ワイスをこの目で見たいし、ウィカジク神父、パーカー・フェイン、ジャック・ツイスト、リタ・ハナビィに会つてみたい。そしてリーランド・ファルカークの首根つこを摑んで考へられるだけの罵倒をしてやりたいくらゐだ。……が、文句を言へばキリがないところもある。ご都合主義的な展開だと言へば、それで終りだ。その辺りを捜して突ついたら成り立たない物語だ。大雑把な印象はハリウッド的SF映画のシナリオみたいなものだ。しかし、抜群に面白い。

2008-02-24

109.三幕の殺意

中町信・東京創元社
7年振りの新作などとしたり顔で言つても、実は05年の09月に「模倣の殺意」を文庫で初めて読み「こんなの書く人がゐるんだ」(日本にも、と解説を書いてる人たちは口を揃へるが、オレはまだクリスティの「アクロイド殺し」も読んでなかつたので)と驚きの余り蒐集を始めてまだ2年半だから、ずうつとまへから「錯誤のブレーキ」まで順番に読んで来た人みたいに、7年も待たされてはゐないのだ。それでも、もしまだ現役なら新作が読みたいと思つてたから、嬉しかつたね、実物を手にしたときは。さて、その中身は?まさに初期の中町作品だね。連続殺人でないところが、もともとは短いものだつたのかな、と思はせる。雪に閉ざされた山荘の、なんていふのは密室トリックの見本みたいなものらしいが(東野圭吾にそのまんまのタイトル小説がある)、けさ4時近くに目が覚めちまつて、風がやけにうるさいぜ、と外を見たら吹雪いてる。ホントかよ?戸沢とよさんと岡本花江さんの喋りは、この方言は上州弁かい?だらうな。「解説」にある「模倣の殺意」では「捨てトリックの小道具として使われた"ある機能"が」犯人のアリバイを鉄壁にするつて、どういふこと?

2008-02-18

108.アルバイト探偵 調毒師を捜せ

大沢在昌・講談社文庫(used)
続篇。これも一気に読んぢまつた。この親子探偵の設定はホントに面白い。このあとで3つ長篇が書かれてゐるが、このテンポの良さは短篇のはうが楽しいのでは?ドラマにしても面白いかも知れない。第1策のはうが好きだね。今度は「痛快コメディアクション」となつてる。

107.アルバイト探偵

大沢在昌・講談社文庫(used)
一気に全4話読んでしまつた。「新宿鮫」が面白かつたので、他のを読んでみた。私立探偵親子の設定で、それもちよつと怪しいフリがあり、特に親父の涼介は一体何者だいと引つ張る。兎に角テンポが早くていい。「痛快アクションミステリー」と頭についてるけど、正にその通り、充分楽しんだ。「新宿鮫」よりも2年くらゐ前の作品。大沢在昌つて、生まれた年が同じなんだよねえ。

2008-02-16

106.笑犬樓よりの眺望

筒井康隆・新潮文庫(used)
ずゐぶん久し振りだね、筒井康隆を読んだのは。結構何冊も読んでるはずだけど、……近いところで「虚航船団」は読んでなくて、「串刺し教授」は読んだ。「エロチック街道」と「虚人たち」は読んだけど「夢の木坂分岐点」と「歌と饒舌の戦記」は読んでないよなあ。この本の中に出て来る「朝のガスパール」と「パプリカ」は間違ひなく読んでない。暫く空いてしまつたのは、なにも断筆したからではない。これは断筆宣言までの10年間(1984〜1993年まで)に「噂の真相」(読んだことない)といふ雑誌に連載されてゐたもの。マスコミに自浄作用がない、など同じやうなことを考へる人がゐるのを知ると心強いね。ビニール蛙が誰なのか解らなかつたが、ネットでそのまま検索したら解つた。

2008-02-11

105.名探偵コナン コナンからの挑戦状

青山剛昌・小学館(used)
生憎テレビのアニメは見たことがない。番組の前後でチラッと見たり、予告を見たことがある程度。勿論、原作の漫画も読んだことがなかつた。それがこないだ、たまたま車のオイル交換で立ち寄つたオートアールズの待合所にコナンが何冊も並んでゐて、読んだら意外に面白かつたのだ。そのときに読んだのがFile4。この本は事件篇と解決篇の2冊に分かれてゐる。全部で7つの事件があり、どれもなかなかよく出来てゐるが、気になるところもある。ネタバレになつちやふけど、File1椅子のうへから後ろ向きに飛ぶなんて体操選手ですか?逆に蹴る恰好になつて椅子は倒れてしまふでせう。File5将棋の話が予め出てないのはどうでせう。File6包帯を間違へて巻きますかね、それとトイレの順番は違ふんぢやないの?それに流石に人間を投げ下ろしたらドサッとか音がするでせう。便器にでも当たれば大変な音がすると思ふよ。(その後なぜ工藤新一がコナンになつちまつたのか知りたくて、コミックの第一巻をBookOffで買つてしまつた。ははは。)

2008-02-04

104.猿島館の殺人

折原一・光文社文庫(used)
「七つの棺」に登場した黒星警部もの。ポーの「モルグ街の殺人」(読んだことがあるが、よく覚えてゐない)ほか幾つかの作品を下敷きにしてゐるやうだ。パロディなんだとさ。なかなか面白かつたね。同じコンビ(黒星・葉山虹子)で「鬼面村の殺人」(旧題「鬼が来たりてホラを吹く」)が先に書かれてゐるので、そつちも見つけたら買つて置かうか。新本格推理の書き手たちとほぼ同時期に書き始めたと思ふが、あつちはいま一つ乗れない。折原一のほうが好みだな。まへに内田康夫のところで言つたが、これも年代がはつきりしないのだが、現在から遡つて例へば一つの事件がある、なんて場合にはやつぱり漠然とでも現在時を知る記述がほしい、といふ意味で言つたので、これはそんなことは気にならない。

2008-01-31

103.軽井沢殺人事件

内田康夫・光文社文庫(used)
軽井沢には20代の半ばに住んでたことがあるので読んでみようかと思つた。年代としてはオレがゐた頃より10年くらゐ後の話らしい。らしい、と言ふのは、内田康夫のミステリーは例へばそれが昭和何年、平成何年の事件かといふことが明記されてないからだ。雑誌に掲載された時点、または書き下ろしで出版された時点がその舞台なのだらう、と推測するしかない。時代背景はそんなに変らないね。モデルになつた茜屋珈琲店には二回くらゐ行つたことがあるかな。いろんなカップが壁に並んでゐて選べたやうな気がする。信濃のコロンボ・竹村岩男と浅見光彦の共演作。公安と警察の対立とか、旧華族や政財界の大物とか、裏取引とか、いろいろ扱つてるけど、ちつとも暗く感じないのは広く浅くといふ読み物としてのミステリーだからかな。トリックがどう、刑事たちの推理がどう、もう、さういふ世界ではない。読み物ですね。29日に読みおはつたけど、時間が取れなくて書けなかつた。急いで書いてるので後で修正するかも。

2008-01-27

102.伊香保殺人事件

内田康夫・光文社文庫(used)
これを読んで漸くわかつたのは、内田ミステリーはいはゆる本格ミステリーではない、といふことだ。だから、犯人が見つからないやうに工作をしても、それは「鉄壁なアリバイ」とか「見事なトリック」ではないワケなんだ、とホントに漸く納得した。さう、題名の脇に書いてあるのは「長篇推理小説」であり、「本格推理小説」ではない。どうしてそんな風に勘違ひしちまつたのだらう。鮎川哲也の評かなにかを読んだのかも知れない。それで、さう思ひ込んでたのかも。……どつちにしても、失礼しました。これまでの苦言は的外れだつたかも。普通の推理小説として読めば充分楽しめる。そのまま書いてある通りに読んで行けばいいんだから、楽。売れるワケだ。で、この「伊香保殺人事件」もさう。これは浅見光彦シリーズの一つ。最初に登場する焼死体が誰で、ロープウェーの崖下で死んだ女の目撃者は誰か、なんてことに煩はされずに、ひたすら文字を追つて行けば事件は解決する。至れり尽くせりの推理小説だ。ちよつと物足りない気もするが、石川真介の「本格推理小説」よりは数段マシだ。

2008-01-24

101.蜃気楼の殺人

折原一・光文社文庫(used)
原題は「奥能登殺人旅行」。1992年11月カッパノベルス刊。中町信の新作かな、と思ふやうなタイトル。さう、「能登路殺人行」といふのが多門耕作シリーズで、ある。1992年4月ケイブンシャノベルス刊。まあ、能登を舞台にしたミステリーは山ほどあるだらうが。終盤の種明かしで少し急いでゐる気がする。「沈黙者」がたつぷり書き込まれてゐたので、さう感じるのかも。中町信風なところが、よい。旅館に本館と別館があること、現在と過去のカラクリに注意しないといけない。

2008-01-19

100.新宿鮫

大沢在昌・光文社文庫(used)
面白かつた。シリーズを続けて読んでみたいくらゐ。晶との遣り取りとか、絡みのところは凄く面映い。犯人が最初のはうで主人公と接触する場面は自然だし、上手い。エドの扱ひも最後まで目配りしてるのが、いい。ひよつとしたら作者のネガかも。謎が、犯人は誰かが主眼ではないのに配慮されてる。どうやつて殺したのか、まで明らかにしなくてはいけないタイプの小説ではないから、勝手に想像すればよいことだ。非常に緊張感のある展開で、ハラハラさせられる。それは「スナーク狩り」にも言へるけど。
年ごとに1から始めるのは止めて通し番号にした。再読は含まない。

2008-01-17

99.スナーク狩り

宮部みゆき・光文社文庫(used)
時代物は読んでないが、この作者の作品は「火車」「レベル7」「魔術はささやく」「龍は眠る」「理由」──と挙げて来て殆ど、いや、どれもなにかの賞を取つてる!──と短篇集も読んだことがある。なにしろ「我らが隣人の犯罪」といふデビュー作を新人賞を受賞して掲載された雑誌で読んだことがあるのだ。だから、なんだと言はれればなんでもないが、縁がある、かな。なんて上手いんだらう、と読むたびに思ふ。的確なんだと思ふ、言葉の選び方が。細かい技術は知らないがイメージがはつきり伝はつて来る。……しかし、この小説ではその上手さが却つて痛々しく感じる。扱つてゐる内容が、とくに織口に関はる事件は使ひ古しのボロ雑巾だ。事件そのものは許しがたい犯罪だけど。偶然を一切排除したら小説は成り立たないが、なぜ関沼慶子は発砲しなかつたのか、織口はどうやつてクロロフォルムを手に入れたのか、神谷尚之の車が通らなかつたら、黒沢が慶子の部屋の様子を見に来なかつたら、国分が鍵を持つてなかつたら、言つたらキリがない。ただ、これは1992年の6月にカッパノベルズとして刊行されたものだが、佐倉修治は完全な酔つ払ひ運転で高速道路を走つてゐるんぢやないか。織口邦男も酔つ払ひ運転でベンツを走らせてゐるんだけど、……いいのかな。兎に角、読んでゐて緊張感はたつぷりあります。

2008-01-12

98.美濃路殺人悲愁

石川真介・光文社文庫(used)
だいぶ前に「不連続線」といふ、第2回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作を読んだことがあり、この事件は解決してませんよ、とHP「月刊彦七新聞」に書いたことがある。東大法学部出身の、いまもトヨタに勤めてゐる、──から、それがどうした、なんたけど、オレが好きな鮎川哲也が絶賛してるので読んだら、どこがそんなに凄いんだい?と正直思つた。ほかにも幾つか不満を挙げたにもかかはらず、またしても同じ作者の本を読んだわけは、BookOffで立ち読みしてゐて、プロローグがちよつと面白さうだなと思つたからで、……しかし、これは設定そのものが受け入れられない。馴染めない。趣味が悪い。メインになる探偵役が添へもの。私的な恨みをはらすために関係者を呼び集め、プレゼンテーションみたいに事件を解明しようといふのはどうか。茶番だ。第一、思ひ出したくない過去がある美濃路に、その負ひ目のために大垣を離れたとまで言ふ人間が、差出人の曖昧な誘ひに乗りますかね。ラストの殺人は衝動的過ぎて受け入れられない。その恩を考へたら、先づ迷ふでせう。大事な息子の自殺の原因が、信頼してゐた教師の暴力が引き金だとてしも、継続的な暴力にずつと耐へてゐたのなら、こいつ最悪、と思へる。でも、さうではないらしい。これはどうも答へが先にあつて、それに見合ふ筋書きを作つたとしか思へない。ミステリーとして、どうでせう。誰にも薦められない。

2008-01-07

97.北国街道殺人事件

内田康夫・徳間文庫(used)
こつちを先に買つたのだが、書かれた順番が「萩原朔太郎の亡霊」のはうが早いので順に読むことにしたのだ。やはり解決部分が物足りなく感じた。朔太郎の亡霊では頻りに所轄の警察への礼儀といふことが出て来たが、ここでは竹村警部は東京でなかり自由に捜査してゐる。第三章の終りで「被害者宅を訪ねて親戚やら知人やらを当たって、いろいろと面白い事実を聞き込むことができましたよ」と竹村警部は言つてるけれども、読み手に解つてゐるのは被害者の実家である新潟での聞き込みだけだ。それが書いてなくても、死体の摺り替へだらう、くらゐは予想がついてゐるから構はないが、ちよつと不満がある。あれほど苦労してゐた野尻湖の最初の事件は、一体どんな風に実行され、なぜ二つ目の野尻湖での事件のやうに目撃者がなかつたのか、その辺はきちんと説明してほしい。これで続けて3冊読んだわけだが、オレが期待するミステリーではないやうだ。

2008-01-05

96.「萩原朔太郎」の亡霊

内田康夫・TOKUMA NOBELS(used)
これは文庫で探したけど見つからず、渋川のBook Offで新書で漸く見つけた。主人公の岡田警部は前作「死者の木霊」にも出て来た人だ。岡田警部を中心にした刑事たちの動きや推理は実に面白いし、事件が起る地域の描写も解り易く、文章も上手いと思ふのだが、物足りない。いろんな人が出て来るから、誰が誰なのか、その発言から読み取れない推理小説もあつて白けてしまふこともあるが、けしてそんな失態はしない。しかし、後半に入つて謎解きが始まるまでの盛り上がりに比べてラストがやや尻すぼみに感じてしまふのだ。先づ、ここでは三つの殺人が起るけれど、そのうちの二つに就いてどんな風に実行されたのか最後になつても一切説明されない。犯人が巧妙だつたのなら、その説明がほしいなあ。30年まへの事件に端を発したと思はせる事件そのものの真相が解明してない。再審請求までした事件で、真犯人が有耶無耶ぢやないですか?誰が真犯人だつたのか、寧ろそつちのはうが知りたい。プロローグが解決してません。兎に角、書き方が上手いので、一気に読んでしまふけど。