2006-06-29

30.「心の旅路」連続殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
もとは「殺された女」だつたと解説にも奥付にも出てゐるが、オレが調べた資料では「空白の近景」となつてゐた。題名はまア、どつちでもいいんだけど、「空白の近景」といふ題で第十八回の江戸川乱歩賞に応募し最終候補に残つてゐる。出版された際に「殺された女」になつたやうだ。Amazonで検索して手に入れたのだが、解説は中島河太郎氏で,氏は創元推理文庫で復刻された「高校野球殺人事件」の改稿決定版「空白の殺意」の解説(折原一氏)によれば、中町氏のデビュー作「新人賞殺人事件(創元推理文庫で復刻された時は「模倣の殺意」)の江戸川乱歩賞の選評で「フェアではない。あと味がよくない」と高木彬光氏と共に否定したと書かれてゐる。モラルとかないんでせうね、この人。この作品は第二作です。前作(「模倣の殺意」)と「散歩する死者」(「天啓の殺意」)が圧倒的なので、どつちかといふと控へめだが、面白く読んだ。この辺から既に旅行とミステリーが絡んで来るんだねえ。水上温泉と沼田署が出て来る辺りも。

2006-06-25

29.時には懺悔を

打海文三・角川文庫
どうしてこんなにスラスラと文章が頭に入つて行くのか。この前に「ハルピン・カフェ」といふ本を手に取つて見た。聞いたことがあるやうな、ないやうなタイトル。太田イオンの喜久屋だ。いま中古以外は殆んどここで買つてゐる。「ハルピン・カフェ」は厚い本だつた。パラパラと捲り、読みたい気分だつた。が、ここのところ活字を追ふ気力がどうにも続かないから、後で荷物になつても困る。戻す序でに隣にあつたこつちを捲つた。冒頭からスラスラと頭に入る。立ち読みしながらグイグイその世界に入り込んでしまひさうだつた。これは買ふしかない。……で、やつぱり読み始めたら一気だつた。この濃密なハートボイルド的世界はなんだ?この情緒的な、抒情的なハードボイルドな気分つて、どこか矛盾してないか?兎に角,なかなか緊迫感と爽快感があつてよかつた。続けてもう一度読み返した。面白い。こみ上げて来るものがある。題材が重過ぎるよ。ただ一つ(出たぞ)、米本が殺された動機。一言説明が欲しかつた。佐竹が自分に準へて、深く入り込まないけれども。例へ小説であつても、理由のない死は悲しい。救はれない。貴志祐介の「黒い家」の時にも書いたけど、あの保険外交員が無惨な殺され方をするのがイヤなんだよ。米本はなぜ殺されたのか?なぜ殺されなければならなかつたのか?尤もらしい理由が欲しい。それが唯一の不満。

2006-06-21

28.妙な塩梅

えのきどいちろう・中公文庫(used)
たぶんビックリハウスか宝島で氏の名前は知つてゐた。本になつたものを読んだのは初めてかも知れない。角度がいい。ものを見る体勢が好ましい。ワハハではなく、ククッと笑へる。短いエッセイが36篇。それぞれのタイトルが既に面白い。