2006-05-28

27.チョコレートゲーム

岡嶋二人・講談社文庫(used)
一気に読んだ。次から次へと頁を捲つてしまふ。氏の作品は幾つか読んでる。「おかしな二人」も読んだ。井上夢人ひとりになつてからの作品も読んでる、確か。日本推理作家協会賞受賞作。1985年、いまから20年前の作品。こんなことはあり得ないよ、だつて相手は中学生だらう、とは言へない世の中になつてしまつたのだ、いつのまにか。テレビが登場してから、ファミコンが出てから、東京ディズニーランドが出来てから、……と諸説あるけれど、それも勿論あるでせう、でもオレはもともと儒教的な道徳観が日本人には合はないからぢやないか、つて思つてるんだけどねえ。付け焼き刃だつたんぢやないか、と。話が逸れてしまつたけど。

2006-05-23

26.沈黙者

折原一・文春文庫(used)
BookOffで中町信を物色してた時に見付けたのだが、氏が書いた中町信の「空白の殺意」の解説を読んでたから買ふ気になつたので、えーと、あの、落語家が出て来るミステリー、思ひ出せないけど、あの作者とよく混同して避けてゐた。なんとか薫つて言ふんだけど、……さう、北村薫だ。この人はダメなんだねえ。なんとかの蝉(全然違ふかも知れない)とかいふのを図書館で借りて読まうとして一頁目から先に行けない。入れないんだね。拒絶反応。「マークスの山」(?)とおんなじ。兎に角驚きました、このトリック、と言ふか、作り方。正直な話がP325(全体でP383)の高山一家の登場まで「もしかしたら、かういふことか?」と思はなかつた。殺人事件のカラクリよりも「沈黙者」は誰かに気を取られてしまつた。かなり集中しないと面白さが存分に味はへないかも知れない。もう一度続けて読んでもいいかな、と思つたほどだが、難を言へば、……小姑みたいで気が引けるのは、文句の付けやうがないくらゐ丹念に書かれてゐるからだが、一言二言。「わが生涯最大の事件」の作者が67〜68才と推察されるのだが、年齢と言ひ回しに違和感がある。P284の「君は後悔の「航海」に旅立つ。駄洒落を言つても仕方ないんだけれどもね。」とか、P311「それでおしまい。ジ・エンド。」つていふ言ひ回しが相応しいかどうか。と、P379で「沈黙者」を「私」が調べてゐることを本人が知つたといふ風に書いてあるけど、確か「私」は声をかけてない筈なので、躊躇つた筈だから、どういふ経緯でそれが「沈黙者」に知れたのか、明確ではない。なんとなく、さうかも、では済まない重要なことだ。「沈黙者」が気付かなければ、接点がなければ起こらなかつた事件だから。20代後半から50近い年齢まで世間とは没交渉だつたわけだからねえ。最後に,息子の靴を履くのは尋常ではない、と感じました。

2006-05-20

25.ステップフォードの妻たち

アイラ・レヴィン/平尾圭吾訳・早川文庫(used)
これは面白いねえ。解説に「読む人によってさまざまに解釈が分かれたユニークな作品」なんて書いてあるけど、そんなに幾通りもないだらうに。だつたらなんでP79でマージ・マコーミックの洗濯物を洗つてゐるといふキット・サンダーセンの説明「彼女、なにかのウィルスにやられて、今日は動くこともできない」なんて書いてあるの?更にP186でコーネル夫人が棚を掃除してて「背後でガラスが、ちゃりん、と音を立てた」となつてゐるのは、もし違ふ解釈が出来るとしたら、却つてかういふ書き方はズルいでせう。SFみたいだけど、ほかに解釈のしやうがない。それも実に自然に受け入れられるし、あり得ねえ、なんて言ふ気にならないくらゐ丁寧に書いてあるよ。その後で彼女はどうなつたのか、つていふ怖さはあるけど。作者のアイラ・レヴィンは「ローズマリーの赤ちやん」を書いた人で、映画もテレビとビデオで見たし、原作も読んだ。デビュー作の「死の接吻」も読んでる。内容は思ひ出せない。でも、もう一度読みたいと思つてるから、たぶん処分してない、どつちも。これはニコール・キッドマン主演で映画になつてるので、それも見たいんだけど、ニコール・キッドマンは、どつちかと言ふと嫌ひだから、顔が。と、ピーター・ストラウヴつて人の解説がよく意味が解らない。何が言ひたいたんだらう、小難しい言ひ回しは鬱陶しいよ。簡潔でスラスラ読めるのが名作の条件だ、みたいに言つてる本人の文章が、ちと難解なのはジョークですか?

2006-05-19

24.殺人投影図

結城恭介・祥伝社NON NOVEL(used)
Book Off の棚で見付けて、読んでみるかな、と思つたわけはタイトルに「新探偵小説」と添へられてゐるからではなくて、氏の名前を知つてゐたからで、それはデビュー作で第一回小説新潮新人賞受賞作「美琴姫様騒動始末」を読んだことがあるからだ。当時は筒井康隆が絶賛で文庫の解説も書いてたやうに思ふ。それで読まうかと思つたわけだが、どこが「新」探偵小説なんだか、解りませんでした。先づ、あの、非常に中に入りづらかつた。頁が進まないんだね、言葉の問題で。面倒だから読まないでBook Off に出しちやはう、と何度か思つた。突然、池波正太郎みたいな言ひ回し(池波正太郎のそれがイヤだといふ意味ではないのです)が出て来るのは意図してやつてるのか、意図してるなら読み難くなるだけで、失敗してる。今から12年前に書かれたものだが、携帯電話も出て来るし、当時の風俗や言葉遣ひが扱はれてる中に、「困った愛想笑いを返すさやかである。」(説明するまでもないでせうが、さやかは名前です)なんて書き方が混つてるのは変だよ。馴染めないねえ、オレは。作者と出版社が狙ふ「新」は、少なくともオレには感じなかつた。ミステリーとしても、どうでせう。

2006-05-10

23.Sの悲劇

中町信・青樹社ビッグブックス(used)
Amazonで購入。実にいい状態でした。Amazonでusedを買ふと送料が掛かる。340円かな。だから、本自体は「1円」なんてのもある。これも「1円」。中町信の唯一の短編集だ。氏が双葉推理賞を受賞した「急行しろやま」が入つてるのかなあ、と思つてたけど、違つた。でも、8つの短篇が入つてる。表題作は、まあまあ面白い。中町信の作品を読んだことがあるかないか、その辺で評価の分れるところだね。「著者あとがき」があるから余計な話はしないはうがいいかな。確かに「サンチョパンサは笑う」のトリックは「あれあれ?どこかで読んだぞ、これ」つて思つたし、「312号室の女」はそのまんまだね。最後の「動く密室」は確かに氏の言ふやうに、惜しい。「自動車教習所殺人事件」があるからね、似たやうなシチュエーションで。ただ、ほしかつたんだよね、唯一の短編集だつて、知つてから。すつかり肩入れしてコレクション(?)を始めてからは、外せない、と。本の状態がよかつたから、より一層満足。中身も、ね。氏に興味のない人には勧めません。先づ「模倣の殺意」ですね。もと「新人文学賞殺人事件」を読んで見て下さい。それを読んでどう思ふか。追記:余計なことなんだけど、誤植を見付けた。「裸の密室」の中のP79の下段2行目「佐美江が臆面もなく言ってのけた(略)」となつてゐるが、これは「美佐江」の筈。

2006-05-03

22.裁判官が日本を滅ぼす

門田隆将・新潮文庫(used)
日頃から新聞記事の中に裁判結果が報じられているのを目にして時折、勿論法律の専門家ではないけれども社会人として長く生活してゐれば或る程度の判断が出来るやうな事件の判決に耳を疑ふ、と言ふか目を疑ふことがあつたが、これを読んで氷解した。先づ、民事事件について日本の裁判官は一般常識がない。銀行に騙されてローンを組まれた事件について、判決は被害者に鞭を打つ。集団リンチ殺人事件の犯人である少年が仮名で報じられたのを名誉毀損で訴へた裁判も最高裁まで争はれる始末。殺人を犯して名誉毀損とは、どういふ神経なのかと訝る。山形で起きた「マット死事件」の犯人たちの供述は子どもを持つ親には読むに耐へないものだ。この事件は最高裁で有罪が確定したが、元少年たちは再審請求をしてゐるといふ付記を読み、絶句する。交通事故から奇跡的に命は取り留め、脳挫傷で重体だつた少年が必死の努力でリハビリを続け、定時制高校から全日制に合格した矢先に殺された事件など、犯人たちをぶツ殺してやりたい、と思ふに違ひない。犯人の少年たちは少年法のもとに庇護され、無期懲役や死刑の判決を受けることはない。ここに登場する裁判官たちは人間としてをかしい、狂つてゐる。判決だけでなく、法廷内での言動など、正気の沙汰ではないよ。