都筑道夫・晶文社
これは植草甚一の「雨降りだからミステリーでも勉強しよう」と一緒に本棚の直ぐ手の届くところに置いてある。改めて最初から読み直すことは余りないが、時々捲つてゐる。始めから読み直したのは、ミステリについて、もう一度勉強しようと思つたからだ。P35真ん中辺り「いちばん理想的な犯罪は、それが犯罪に見えないことでしょう。殺人の場合は、ことにそうです。だからこそ、冷静に計画するはずなのに、捜査側の動きを予想して、アリバイを偽造したりする。自分が疑われるような可能性があれば、その計画は変更されるべきでしょう」まつたくその通りなんだが、それではミステリそのものを否定しかねない。犯罪小説になつてしまふ。作者が提出した謎を探偵役がどうやつて解明するか、その面白さなのだ。その推理の道筋が納得できるかどうか。都筑さんもおなじやうなことを言つてると思ひますよ。
2008-06-30
2008-06-28
149.親不孝通りディテクティブ
北森鴻・講談社文庫(used)
初めて聞く名前だつたが、第6回鮎川哲也賞受賞者だといふ。舞台は博多で、設定に工夫があるハードボイルドの連作短篇。面白く読んだ。ま、ハードボイルドは括りとしてはミステリだから。気づいた誤植。P80最後の行「あんたに気持ちのいい人はいませんよ」は「あんなに」ではないか。蛇足ながら、第一話の「セヴンス・ヘヴン」の季節が解らない。P18「この季節である」と書かれてゐて、死臭の話が出るから寒い時期ではないにしても。
初めて聞く名前だつたが、第6回鮎川哲也賞受賞者だといふ。舞台は博多で、設定に工夫があるハードボイルドの連作短篇。面白く読んだ。ま、ハードボイルドは括りとしてはミステリだから。気づいた誤植。P80最後の行「あんたに気持ちのいい人はいませんよ」は「あんなに」ではないか。蛇足ながら、第一話の「セヴンス・ヘヴン」の季節が解らない。P18「この季節である」と書かれてゐて、死臭の話が出るから寒い時期ではないにしても。
2008-06-26
148.裁判長!ここは懲役4年でどうすか
北尾トロ・文春文庫(used)
こんなにも易々と裁判所、更には法廷に入ることができ、裁判を傍聴することもできるとは知らなかつた。裁判が神聖なものであつても、けして茶化してはならないとは思はないが、それでも不謹慎だと感じる発言がある。もちろん理不尽なものへの憤りもあるが、野次馬の裁判観察記録として読むはうがいい。本文中にタイトルと同じ発言が出て来るかのやうに、この文庫の解説やAmazonのレビューには書いてあるのだが、強いて挙げれば、P154の5行目に「判決は実刑3年でどうだ」とあるのには気がついたけれども、オレには見つからなかつた。
こんなにも易々と裁判所、更には法廷に入ることができ、裁判を傍聴することもできるとは知らなかつた。裁判が神聖なものであつても、けして茶化してはならないとは思はないが、それでも不謹慎だと感じる発言がある。もちろん理不尽なものへの憤りもあるが、野次馬の裁判観察記録として読むはうがいい。本文中にタイトルと同じ発言が出て来るかのやうに、この文庫の解説やAmazonのレビューには書いてあるのだが、強いて挙げれば、P154の5行目に「判決は実刑3年でどうだ」とあるのには気がついたけれども、オレには見つからなかつた。
2008-06-17
147.タイムクエイク
カート・ヴェネガット/朝倉久志訳・ハヤカワ文庫
10年間時間がスリップして繰り返すといふ設定がある。その10年間を行つたり来たりする。しかしそれは設定に過ぎない。クスクス笑へるところがたくさんあつて、すらすら読めてしまふ。「猫のゆりかご」や「スローターハウス5」と違つて、物語ははつきりしない。私的な部分がかなりあつて、エッセイみたいに読んだ。これが最後だとプロローグに書いてあつて、確か最近(2007.04.11)亡くなつたので、これがホントに最後の作品になつた。
10年間時間がスリップして繰り返すといふ設定がある。その10年間を行つたり来たりする。しかしそれは設定に過ぎない。クスクス笑へるところがたくさんあつて、すらすら読めてしまふ。「猫のゆりかご」や「スローターハウス5」と違つて、物語ははつきりしない。私的な部分がかなりあつて、エッセイみたいに読んだ。これが最後だとプロローグに書いてあつて、確か最近(2007.04.11)亡くなつたので、これがホントに最後の作品になつた。
2008-06-11
146.苦い娘
打海文三・中公文庫
アーバン・リサーチものはこれで終り。順番どほりではないが、ぜんぶ読んだことになる。おはりのはうで佐竹が出て来る。ウネ子は今回は姿を見せない。かはりにまだ中学三年の姫子が登場する。「されど修羅ゆく君は」のときは13歳だつた。ホリー・コールの「トラスト・イン・ミー」といふ曲が出て来るが「コーリング・ユー」なら知つてるけど、これは知らない。相変らずモテる中年男の話だ。3分の2くらゐ読み進むと、唐突にラスト向けて雪崩れ込んでゆく感じ。その感じは氏の作品凡てに言へるのではないか。やつぱり映画を思はせるところがある。
アーバン・リサーチものはこれで終り。順番どほりではないが、ぜんぶ読んだことになる。おはりのはうで佐竹が出て来る。ウネ子は今回は姿を見せない。かはりにまだ中学三年の姫子が登場する。「されど修羅ゆく君は」のときは13歳だつた。ホリー・コールの「トラスト・イン・ミー」といふ曲が出て来るが「コーリング・ユー」なら知つてるけど、これは知らない。相変らずモテる中年男の話だ。3分の2くらゐ読み進むと、唐突にラスト向けて雪崩れ込んでゆく感じ。その感じは氏の作品凡てに言へるのではないか。やつぱり映画を思はせるところがある。
2008-06-09
145.ハルビン・カフェ
打海文三・角川文庫
大藪春彦賞受賞作で、解説によれば「著者の最高傑作に数えられる」さうだ。一人の著者の最高傑作と言へるものを数えることが出来るのか、といふ素朴な疑問は忘れよう。原宏司の「集落の教え100」からの引用があるが、未読の本で先づこれがよく意味が解らない。なにかを象徴してゐるかのやうな、別の意味を持たせた文章である。内容との関連は読み取れなかつた。多くの人物が登場するので、時間の経過、何年に何があつたのかをメモしながら読み始めたが途中から放棄した。時系列的な展開は二次的なものらしかつたから。Pと呼ばれる組織の発生とその後の活動、警察内の刑事、公安、監察などの力関係、韓国、中国、ロシアのマフィアの動きなど、一度には呑み込めなかつたが、洪孝賢を中心にした人物たちとその謎解き、小久保仁をめぐる人間たちの絡みは面白く読めた。短いシーンの集積で、内容だけでなく映画的な印象がある。尤もそれはこれまで読んで来た打海文三の凡ての作品について言へることで、勿論それは氏が映画からスタートしたことと関係してるだらう。
敢へてここで言ふこともないのだが、警察をめぐる小説は実はあまり好きではない。警察内の権力闘争は政治家のそれよりも腐臭がする。臭いものには蓋、ではなくて、吉田健一が言ふ「人が裸になつた時」のやうな「見るに堪へないのであるよりも見るべきではない」ものは見ないでよいといふ意味で、見るべきではないものを過大に評価して「深淵が覗いてゐると思つたり」しないといふ意味のつもりである。なんでも暴いて裸にするのは野蛮だ、と。
気取るな、と言はれるかもしれないが。
大藪春彦賞受賞作で、解説によれば「著者の最高傑作に数えられる」さうだ。一人の著者の最高傑作と言へるものを数えることが出来るのか、といふ素朴な疑問は忘れよう。原宏司の「集落の教え100」からの引用があるが、未読の本で先づこれがよく意味が解らない。なにかを象徴してゐるかのやうな、別の意味を持たせた文章である。内容との関連は読み取れなかつた。多くの人物が登場するので、時間の経過、何年に何があつたのかをメモしながら読み始めたが途中から放棄した。時系列的な展開は二次的なものらしかつたから。Pと呼ばれる組織の発生とその後の活動、警察内の刑事、公安、監察などの力関係、韓国、中国、ロシアのマフィアの動きなど、一度には呑み込めなかつたが、洪孝賢を中心にした人物たちとその謎解き、小久保仁をめぐる人間たちの絡みは面白く読めた。短いシーンの集積で、内容だけでなく映画的な印象がある。尤もそれはこれまで読んで来た打海文三の凡ての作品について言へることで、勿論それは氏が映画からスタートしたことと関係してるだらう。
敢へてここで言ふこともないのだが、警察をめぐる小説は実はあまり好きではない。警察内の権力闘争は政治家のそれよりも腐臭がする。臭いものには蓋、ではなくて、吉田健一が言ふ「人が裸になつた時」のやうな「見るに堪へないのであるよりも見るべきではない」ものは見ないでよいといふ意味で、見るべきではないものを過大に評価して「深淵が覗いてゐると思つたり」しないといふ意味のつもりである。なんでも暴いて裸にするのは野蛮だ、と。
気取るな、と言はれるかもしれないが。
2008-06-02
144.ミステリアス学園
鯨統一郎・光文社文庫(used)
次の短篇がまへの短篇を含んだ形で連作になつて行く入れ子構造。最後の「意外な犯人」は余計。入門篇的なミステリ解説が殆どで、あまり面白くない。打海文三が続いてるので箸休めみたいな気持ちで買つて読んだのだが、遊びが多すぎて退屈だつた。
次の短篇がまへの短篇を含んだ形で連作になつて行く入れ子構造。最後の「意外な犯人」は余計。入門篇的なミステリ解説が殆どで、あまり面白くない。打海文三が続いてるので箸休めみたいな気持ちで買つて読んだのだが、遊びが多すぎて退屈だつた。
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