2007-12-31

95.奥信濃殺人事件

中町信・FUTABA NOVELS(used)
今年も愈々押し迫り締め括りが中町信になつたのは、ただの偶然。「死者の木霊」を読んでゐて、今年はもう一冊くらゐ読めるかな、と思つたもので、朝倉のBookOffへ行く機会があつたから、内田康夫の本を探したのだが、竹村刑事シリーズ作品のメモを持つてくのを忘れてしまひ、ただ一つ覚えてゐた「萩原朔太郎の亡霊」つていふのがなく、つい「な」のところを見てゐたら、氏家シリーズなのでちよつと躊躇つたが、まだ読んでゐない(筈)のを見つけたので買つてしまつた。最後に密室トリックを持つて来てるけど、それほど鉄壁といふわけでもなく、例によつて早苗の独断的な推理が目障りだが、まあ、いつもの中町作品である。「死者の木霊」が刑事の執拗な捜査と推理だつただけに、中町作品では殆どの刑事がだらしがないのが対照的。因みにどつちも長野が舞台なのも面白い偶然。
今年はあんまり読めなかつたなあ。いつそ来年は極端に絞り込んで月一冊くらゐのペースで、中途半端になつてるのを読了しようかとも思つてゐるが、果たしてどうなるか。気分屋だからなあ、……。

2007-12-30

94.死者の木霊

内田康夫・講談社文庫(used)
一昨年の暮れに「後鳥羽伝説殺人事件」を読んで以来だ。これがデビュー作とある。「後鳥羽伝説」のはうは内容が思ひ出せないので探したけど見つからないから処分したのかも知れない。これは主人公の刑事が竹村と言つて信濃のコロンボといふシリーズになつてゐるやうだ。人物が非常に丁寧に描かれてゐるし、地形や風景なども細かく書かれてゐるから小説としては破綻がないけれども、ミステリーとしてはスリルに乏しい。なんと言つても内田康夫は浅見光彦ものが知られてゐる。確か「後鳥羽伝説」の探偵役は浅見光彦だつたやうな気がする。いづれにしても累計で1億部を超える発行部数を持つ作家の作品は、ちよつと気が引けて手が出せないが、このシリーズは幾つか読んでみたいと思つた。

2007-12-22

93.恐怖の谷

コナン・ドイル/延原謙訳・新潮文庫
ホームズの最後の長篇。4作目。二部構成で、一部二部と別のミステリーとしても読めるやうな気がする。兎に角古い文庫(1984.12.24購入と後ろ書いてある)なので活字は小さいし、インクが飛んでるのか文字が薄くて読みにくかつた。一部のトリックは予想がついてゐた。二部は意外な展開。

2007-12-11

92.バラバラの名前

清水義範・新潮文庫(used)
「配分王」が一番面白かつたが、これは東海林さだおネタだな。ここまでぢやないけど、飯を食ふとき、とくに外食とか弁当の場合、実際オレはペース配分してる。尤も、飯だけ残つちやふのが寂しいから、味気ないといふだけのことだ。「新作落語」は正にその通り。だいたい新作落語の会話で必ず出てくる「君」。そんな言ひかたはしないよ。ただねえ、新作落語を聞くとねえ、なぜかはわからんけれども、源氏鶏太の小説をちよつと連想してしまふ。それと森繁、フランキー堺の映画で駅前シリーズ。駅前シリーズそのものの原案つて、やつぱり井伏鱒二の「駅前旅館」なんだらうけど、全然別ものだよなあ。映画のはうも嫌ひぢやないけど。ほかに全部で8篇収録されてゐて、いかにも清水義範つていふ本でした。読んだあとでいつも感じてしまふのは、面白いんだけど、なんか小説を読んだつていふ気がしない、物足りなさが湧いて来るんだなあ。(蛇足だけど、絶対似てねえよ、と大方の反感を買ふかも知れないが。オレは清水義範は一時期の筒井康隆とダブるのだ)

2007-12-05

91.アメリカの鱒釣り

リチャード・ブローティガン/藤本和子・新潮文庫
とても手子摺らされた小説だつたが、読みをはつて、意味が解る、つて実はどういふことなんだらう、と考へてしまつた。答へは簡単には出せさうもない。兎に角、解説も含めてオレにはよく解らなかつた。ただ、途中で躓いてしまつた「二十世紀の市長」から(兎に角最後まで読むことだと自分に言ひ聞かせながら)ボツボツ読み進めて行くうちに、さうか、これは作者が鱒釣りをしながら考へたこと、或は鱒釣りをしたときのおもひでみたいなことを書いてるんだな、と読むことにしたら、うまく行つた(この文章はブローティガン風かも知れないぞ!)。それから「ネルソン・オルグレン宛云々」のところを読んでたら、漸くわかつた(やうな気がする)。これはナンセンスなのだらう。駄洒落とか。意味で繋がつてゐる一括りの文章として書かれてはゐないんだ、と。比喩などはシュル・レアリスム風だけど、あつちは新たな意味付け、デペイゼされたものが産み出す、これまでとは違つた意味が目的だが、ブローティガンは違ふやうだ。どつちにしても、どうにか読みをはり、なかなか面白かつたな、といふ感想。もう一冊どうですか、と聞かれたら遠慮しとくけど。