2007-03-07

70.九つの殺人メルヘン

鯨統一郎・光文社文庫(used)
去年「邪馬台国はどこですか?」と「新・世界の七不思議」を続けて読んだ。どつちも面白く読んだけれども、2冊とも事件(或は犯罪)があつて、それがどうやつて行はれ解決されたか、といふ推理ではなかつた。設定は同じく安楽椅子探偵といふ形式だけれども、これは事件(或は犯罪)を扱つてゐる。この形式は会話を中心に進むので入り易く読み易い。都筑道夫氏の「退職刑事シリーズ」もさうだし、鮎川哲也氏の「三番館シリーズ」もさうだ。アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」が有名らしい。これもずゐぶん昔に読んでゐる。──で、更にこれはメルヘンの新解釈を織り込んで、それを謎解きのヒントにしてゐるところが一工夫だらうか。まあ、メルヘンの新解釈は以前読んだ「昔話にはウラがある」みたいに、ちよつと強引なものがあるけれど、これはそれほどには感じなかつた。最後の1話を除いてアリバイ崩し。最後のは小人の靴屋の話を使つたワケがピンと来ない。上記の2作ではカクテルだつたのが日本酒に代はつて、やはり料理を含めた蘊蓄も語られるのだが、実は作者は料理や酒に余り興味がないのではないか、といふ気がして仕方がない。思ひ入れのやうなものが伝はつて来ない。意図してそこそこで切り上げてゐるのだ、と好意的に解釈しよう。充分に面白いけどスリルは物足りない。