2008-01-31

103.軽井沢殺人事件

内田康夫・光文社文庫(used)
軽井沢には20代の半ばに住んでたことがあるので読んでみようかと思つた。年代としてはオレがゐた頃より10年くらゐ後の話らしい。らしい、と言ふのは、内田康夫のミステリーは例へばそれが昭和何年、平成何年の事件かといふことが明記されてないからだ。雑誌に掲載された時点、または書き下ろしで出版された時点がその舞台なのだらう、と推測するしかない。時代背景はそんなに変らないね。モデルになつた茜屋珈琲店には二回くらゐ行つたことがあるかな。いろんなカップが壁に並んでゐて選べたやうな気がする。信濃のコロンボ・竹村岩男と浅見光彦の共演作。公安と警察の対立とか、旧華族や政財界の大物とか、裏取引とか、いろいろ扱つてるけど、ちつとも暗く感じないのは広く浅くといふ読み物としてのミステリーだからかな。トリックがどう、刑事たちの推理がどう、もう、さういふ世界ではない。読み物ですね。29日に読みおはつたけど、時間が取れなくて書けなかつた。急いで書いてるので後で修正するかも。

2008-01-27

102.伊香保殺人事件

内田康夫・光文社文庫(used)
これを読んで漸くわかつたのは、内田ミステリーはいはゆる本格ミステリーではない、といふことだ。だから、犯人が見つからないやうに工作をしても、それは「鉄壁なアリバイ」とか「見事なトリック」ではないワケなんだ、とホントに漸く納得した。さう、題名の脇に書いてあるのは「長篇推理小説」であり、「本格推理小説」ではない。どうしてそんな風に勘違ひしちまつたのだらう。鮎川哲也の評かなにかを読んだのかも知れない。それで、さう思ひ込んでたのかも。……どつちにしても、失礼しました。これまでの苦言は的外れだつたかも。普通の推理小説として読めば充分楽しめる。そのまま書いてある通りに読んで行けばいいんだから、楽。売れるワケだ。で、この「伊香保殺人事件」もさう。これは浅見光彦シリーズの一つ。最初に登場する焼死体が誰で、ロープウェーの崖下で死んだ女の目撃者は誰か、なんてことに煩はされずに、ひたすら文字を追つて行けば事件は解決する。至れり尽くせりの推理小説だ。ちよつと物足りない気もするが、石川真介の「本格推理小説」よりは数段マシだ。

2008-01-24

101.蜃気楼の殺人

折原一・光文社文庫(used)
原題は「奥能登殺人旅行」。1992年11月カッパノベルス刊。中町信の新作かな、と思ふやうなタイトル。さう、「能登路殺人行」といふのが多門耕作シリーズで、ある。1992年4月ケイブンシャノベルス刊。まあ、能登を舞台にしたミステリーは山ほどあるだらうが。終盤の種明かしで少し急いでゐる気がする。「沈黙者」がたつぷり書き込まれてゐたので、さう感じるのかも。中町信風なところが、よい。旅館に本館と別館があること、現在と過去のカラクリに注意しないといけない。

2008-01-19

100.新宿鮫

大沢在昌・光文社文庫(used)
面白かつた。シリーズを続けて読んでみたいくらゐ。晶との遣り取りとか、絡みのところは凄く面映い。犯人が最初のはうで主人公と接触する場面は自然だし、上手い。エドの扱ひも最後まで目配りしてるのが、いい。ひよつとしたら作者のネガかも。謎が、犯人は誰かが主眼ではないのに配慮されてる。どうやつて殺したのか、まで明らかにしなくてはいけないタイプの小説ではないから、勝手に想像すればよいことだ。非常に緊張感のある展開で、ハラハラさせられる。それは「スナーク狩り」にも言へるけど。
年ごとに1から始めるのは止めて通し番号にした。再読は含まない。

2008-01-17

99.スナーク狩り

宮部みゆき・光文社文庫(used)
時代物は読んでないが、この作者の作品は「火車」「レベル7」「魔術はささやく」「龍は眠る」「理由」──と挙げて来て殆ど、いや、どれもなにかの賞を取つてる!──と短篇集も読んだことがある。なにしろ「我らが隣人の犯罪」といふデビュー作を新人賞を受賞して掲載された雑誌で読んだことがあるのだ。だから、なんだと言はれればなんでもないが、縁がある、かな。なんて上手いんだらう、と読むたびに思ふ。的確なんだと思ふ、言葉の選び方が。細かい技術は知らないがイメージがはつきり伝はつて来る。……しかし、この小説ではその上手さが却つて痛々しく感じる。扱つてゐる内容が、とくに織口に関はる事件は使ひ古しのボロ雑巾だ。事件そのものは許しがたい犯罪だけど。偶然を一切排除したら小説は成り立たないが、なぜ関沼慶子は発砲しなかつたのか、織口はどうやつてクロロフォルムを手に入れたのか、神谷尚之の車が通らなかつたら、黒沢が慶子の部屋の様子を見に来なかつたら、国分が鍵を持つてなかつたら、言つたらキリがない。ただ、これは1992年の6月にカッパノベルズとして刊行されたものだが、佐倉修治は完全な酔つ払ひ運転で高速道路を走つてゐるんぢやないか。織口邦男も酔つ払ひ運転でベンツを走らせてゐるんだけど、……いいのかな。兎に角、読んでゐて緊張感はたつぷりあります。

2008-01-12

98.美濃路殺人悲愁

石川真介・光文社文庫(used)
だいぶ前に「不連続線」といふ、第2回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作を読んだことがあり、この事件は解決してませんよ、とHP「月刊彦七新聞」に書いたことがある。東大法学部出身の、いまもトヨタに勤めてゐる、──から、それがどうした、なんたけど、オレが好きな鮎川哲也が絶賛してるので読んだら、どこがそんなに凄いんだい?と正直思つた。ほかにも幾つか不満を挙げたにもかかはらず、またしても同じ作者の本を読んだわけは、BookOffで立ち読みしてゐて、プロローグがちよつと面白さうだなと思つたからで、……しかし、これは設定そのものが受け入れられない。馴染めない。趣味が悪い。メインになる探偵役が添へもの。私的な恨みをはらすために関係者を呼び集め、プレゼンテーションみたいに事件を解明しようといふのはどうか。茶番だ。第一、思ひ出したくない過去がある美濃路に、その負ひ目のために大垣を離れたとまで言ふ人間が、差出人の曖昧な誘ひに乗りますかね。ラストの殺人は衝動的過ぎて受け入れられない。その恩を考へたら、先づ迷ふでせう。大事な息子の自殺の原因が、信頼してゐた教師の暴力が引き金だとてしも、継続的な暴力にずつと耐へてゐたのなら、こいつ最悪、と思へる。でも、さうではないらしい。これはどうも答へが先にあつて、それに見合ふ筋書きを作つたとしか思へない。ミステリーとして、どうでせう。誰にも薦められない。

2008-01-07

97.北国街道殺人事件

内田康夫・徳間文庫(used)
こつちを先に買つたのだが、書かれた順番が「萩原朔太郎の亡霊」のはうが早いので順に読むことにしたのだ。やはり解決部分が物足りなく感じた。朔太郎の亡霊では頻りに所轄の警察への礼儀といふことが出て来たが、ここでは竹村警部は東京でなかり自由に捜査してゐる。第三章の終りで「被害者宅を訪ねて親戚やら知人やらを当たって、いろいろと面白い事実を聞き込むことができましたよ」と竹村警部は言つてるけれども、読み手に解つてゐるのは被害者の実家である新潟での聞き込みだけだ。それが書いてなくても、死体の摺り替へだらう、くらゐは予想がついてゐるから構はないが、ちよつと不満がある。あれほど苦労してゐた野尻湖の最初の事件は、一体どんな風に実行され、なぜ二つ目の野尻湖での事件のやうに目撃者がなかつたのか、その辺はきちんと説明してほしい。これで続けて3冊読んだわけだが、オレが期待するミステリーではないやうだ。

2008-01-05

96.「萩原朔太郎」の亡霊

内田康夫・TOKUMA NOBELS(used)
これは文庫で探したけど見つからず、渋川のBook Offで新書で漸く見つけた。主人公の岡田警部は前作「死者の木霊」にも出て来た人だ。岡田警部を中心にした刑事たちの動きや推理は実に面白いし、事件が起る地域の描写も解り易く、文章も上手いと思ふのだが、物足りない。いろんな人が出て来るから、誰が誰なのか、その発言から読み取れない推理小説もあつて白けてしまふこともあるが、けしてそんな失態はしない。しかし、後半に入つて謎解きが始まるまでの盛り上がりに比べてラストがやや尻すぼみに感じてしまふのだ。先づ、ここでは三つの殺人が起るけれど、そのうちの二つに就いてどんな風に実行されたのか最後になつても一切説明されない。犯人が巧妙だつたのなら、その説明がほしいなあ。30年まへの事件に端を発したと思はせる事件そのものの真相が解明してない。再審請求までした事件で、真犯人が有耶無耶ぢやないですか?誰が真犯人だつたのか、寧ろそつちのはうが知りたい。プロローグが解決してません。兎に角、書き方が上手いので、一気に読んでしまふけど。