2009-11-28

R・D・ウィングフィールド/芹澤恵訳「フロスト日和」創元推理文庫(235)を読み終へてしまつた。ああ、フロストが読みたい。読みたい読みたい読みたい。いま直ぐに。しかし、いまは手持ちの金が、……。P468、3行目「狭い路地の真ん真ん中に」。素晴らしい!!お手本ですよ。「ど真ん中に」ぢやない。嬉しいなあ。芹澤さんみたいに標準語で訳して下さいよ。コメントは短いけど、大満足だよ。

2009-11-21

ちよつと時期は早いが忠臣蔵だ。池宮彰一郎「四十七人の刺客」新潮文庫(234・used)を読む。忠臣蔵は知つてゐる。丸谷才一の「忠臣蔵とは何か」も読んではゐる。テレビや映画の忠臣蔵は見てゐるが、小説は読んだことがない。大佛次郎の「赤穂浪士」も。これは面白く読んだ。討ち入りの場面が細かく書かれてゐる。柳沢吉保、色部又四郎、千坂兵部、興味深い人物がたくさん出て来る。吉良と浅野の刃傷は不明のままだが、その後の討ち入りまでの流れはよく判る。侍、武士とは何か。p26内蔵助が風呂で奥田孫太夫に言ふ「人にはいのちより大切なものがある」ここで、ちよつと熱いものがこみ上げ、一気に最後まで読み通すことができた。これまで時代小説はあまり読んだことがない──精々、鬼平など池波正太郎作品、岡本綺堂どまりで、山田風太郎でさへ読めない──ので、なかなか入れなかつた。どこまでが史実なのか、史実を知つたうへで、どう作られてゐるのか、といふ愉しみがあれば、もつと面白いんだらうね。ぢやあ、次は隆慶一郎かな。漫画の「花の慶次」も息子が持つてるので密かに読んでゐるのだが、……。

2009-11-11

やはりメフィスト賞受賞の浅暮三文「ポケットは犯罪のために」講談社NOVELS(233・used)を読んだ。ポップな表紙イラストで、中身は一体どんなものか、と思はせる。意外に基本的なミステリ。そこそこ面白く読める。短篇集で、その並び方にひと捻りある。その意気込みは認める。作りに凝つてゐるのだらうが、なにぶん文章が普通。

2009-11-09

これは再読扱ひにするかどうか迷つたけど、以前にも「散歩する死者」と「天啓の殺意」は別にした経緯があるので同様に。中町信「高校野球殺人事件」徳間文庫(232・used)読了。9月にたぶん朝倉のBookOffで発見。早速購入。これを元にした改稿決定版が「空白の殺意」。トリックも犯人も判つたうへで読んだわけだが、3年もまへだし、殆ど忘れてゐたけれども、幾つか2作の違ひに気がついた。第五章で被害者が発見されるが、発見された場所が「高校野球殺人事件」では太田市、「空白の殺意」では館林市。高崎を舞台にしたものなので、道路事情で都合が悪くなつたか、発表当時(1980年)とは環境がかはつてしまつたか。「(発見された)林は太田市の南端を縦断している県道から二、三百メートルはいった場所にあり、舗装された道路ぞいに細長くつらなり、広大な面積を有していた」と書いてあるが、この太田市をそのまま館林市にかへただけなので不思議。どの辺りのことだらう、と推測するが、ちつとも特定出来ない。土地勘のある、近所の話なのに。はつきりとは覚えてなかつたが、エピローグのをはりかたが違ふ気がして、比べてみたら違つてゐた。行替へや文字の変更も多い。脚音→足音、おるす番→お留守番、「リーコちゃんもすごく大きくなった」→「リーコちゃんもすごくかわいくなった」など。中町作品の中では、これが一番おとなしいかもね。「模倣の殺意」が好みのタイプだと物足りないかも。どつちにしても、かういふ初稿、改稿、決定稿など版の違ふものがある作品は細かく比べてみたいなあ。面白さうだな。発見があるかもしれない。先づはこの2作の比較から始めるかな。

2009-11-05

講談社のメフィスト賞受賞者の名前で見たことがあつた蘇部健一の「動かぬ証拠」講談社NOVELS(231・used)を読む。買つたときは11の章に分かれた長篇だと思ひこんでたので、じつくり読むつもりでゐたら、短篇集だつた。だから11編ある。いろんな意味で面白いね。確信犯的な太々しさを感じる。最後に1枚のイラストで凡ての謎解き、といふ趣向はそれほど決まつてないけど。半下石(はんげいし)といふ刑事の名前には何か特別な意味があるのか。この刑事のキャラクターもいい。「六枚のとんかつ」をusedで探すかなあ。

2009-11-04

気になることを書いてゐるのであつて、けしてケチをつけてるつもりはないが、あら探しだと思ふ人もゐよう。津村秀介「山陰殺人事件」青樹社文庫(230・used)には困つた。浦上伸介の推理は中町信みたいにアクロバティックではないが、地味だけど読み手にも自然だ。中身は面白いんだ。それはまへの「刑事長」についても言へる。まあ、スラスラ読める面白さうなミステリを探して読んでるワケだから、多少のことは構はない。しかし、これはどうにも破綻してゐるやうに思へる。ネタバレするしかないんだけど、P216に「三人とも縊死だった。火をつけてから首をつったことになる」と書いてある。そのうちの一人は身代りで顔の損傷がひどかつた。その火事現場にゐあはせた接点のない3人の人物が1年後に続けて殺される。なぜか。実は火炎の中から現れた男Aをこの3人は目撃したからなのだ。Aは再び炎の中へ消え、やがて家は燃え落ちる、といふのだ(P254)が、縊死だつた、と書いてある。さうすると、燃え盛る家の中へ戻つたAは梁かどこかに紐状のものを掛けるか何かして自ら首を吊るといふ作業を行はなくてはならない。そのままだつて、死んでしまふでせうに。辻褄あはせになつてゐないか。ただの焼死だと困るのかな。他の2人はAの両親なんだけど、両親が縊死で、本人が焼死でもをかしくないでせう。両親を殺した男が耕耘機のガソリンを被つて自殺した、といふのも変ぢやないと思ふ。でも、その男が一旦外へ出て、また戻るといふ設定は、後で殺される3人に目撃させるためでしかない。しかも、2件の殺人事件の犯人と目され、最後に殺されることになる人物Bは、一年後にこの火事の事件を聞かれても覚えてゐないのだ。だけぢやなく、浦上の質問に、山陰には旅行したことがない、とまで答へてゐる。一年まへで、旅行中の火事で、その火事については地元新聞の取材に応じてゐるから、当然、警察の事情聴取もあつたでせう(書いてないけど)。忘れるかな。Bが真犯人Aの近くに現れたことで、かつての無理心中、火事を装つた殺人の発覚を怖れて殺人が起るのだが、Aは大金を持つてをり、更にどこかへ移り住めば問題ないでせう。資金があるんだから、どこまでも逃げればいい。そのはうが自然ぢやないか。わざわざ危ない橋を渡つて、アリバイを作つて飛行機と電車を乗り継いだりして、3人も殺す労力を考へれば。さうなると、この殺人事件は幻の殺人事件になつてしまふのだが。更に、Bの手書きの遺書めいたものをAが手に入れるのは不可能ではないですか?「太陽がいつぱい」みたいに筆跡を真似る?弱いなあ。
最後に、たまたまかも知れないけど、解説の文章が途中で次の行に移つてるところがある。びつくりする。

2009-11-01

読まないうちから、てつきり新本格派と呼ばれる人たち(綾辻行人、有栖川有栖とか)の一人だと思ひ込んでゐたので手を出さなかつた姉小路祐の「刑事長(デカチョウ)」講談社NOVELS(229・used)を読んだ。実は「社会派」〈本人弁〉。プロフィールによれば、法学部卒で弁護士のシリーズを書いてゐるさうだ。解説は森村誠一。なかなか面白く読めたけど、気になつたこと。いつもの些細なことなんだけど、最初に発見される被害者の死亡した日、発見した日が何日なのか書いてない。P40の捜査会議の報告で「死亡推定時刻は九月七日の午前二時半から三時半」と出てゐるが、死体発見日とは書いてないから判らないまま読むことになる。そんなことは判るでせう、予想がつくでせう、午前の死亡推定時刻で、第一章の冒頭が夕方なんだから、……ぢやあ、聞くけど、そんなことを書くスペースもないほど込み入つた小説なのかと言へば、そんなことはない。警察機構に対する批評的な意見がクドいほど書かれてゐて、判つたよ、そんなこと、と、つい呟いてしまふくらゐだし、その次に死んだ人物についてはP154下段左から6行目に「※死亡推定時刻は本日(十月二十日)の午前一時から二時。」と書いてある。「本日(十月二十日)」と。この「本日」の2文字を書かない理由はなんですか?見落としてるのかと思つて何度も始めのはうを読み返した、その手間と時間が惜しい。ミステリで日時や季節がきちんと書いてないものはホントにイライラするんだよね。いつの話なんだよ、これはッ!と。新しい警察署長が赴任した日も、何日と書かない理由はなんですか?プロローグP15「貴船署長が着任してからちょうど十日目のことだつた」。自分で計算しろつてのかい?警察の人事は全く知らないけど、これで行くとさあ、8月の28日か29日に人事異動があつたことになるんだけど、ずゐぶん中途半端な時期だねえ。1日付けとか、さういふ人事異動ぢやないのかね。それと第6章からの展開で、「山本」を追つてる、と言へば、岩切刑事もこれほど孤立しないんぢやないか。敢て喧嘩を売つてるやうに思へるんだけど。最後に森村誠一の解説のをはりのはう、「若い刑事・川喜田がつぶやく」その台詞はP240婦警の鳥居理香の台詞です。その台詞にある「勤勉実直」は四字熟語なのだらうか。謹厳実直といふ四字熟語は知つてるが「勤勉実直」は知らない。試しに広辞苑と岩波国語辞典で調べたが、「勤勉」に「実直」を続ける例はないが、「謹厳」には「──実直」の例が挙げられてゐる。