2006-07-30

37.散歩する死者

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
改稿後の創元推理文庫から出た「天啓の殺意」を先に読んでゐるので、その感想なんかは月刊彦七新聞HP=http://www6.ocn.ne.jp/~hiko7/omako.htmlで見て下さい。比べるまで気付かなかつたが、エピローグは「天啓の殺意」のはうが親切だつた。こつちで沸いた幾つかの疑問への答へがある。どうしても混乱するのは、どこまでが実際のことか、つていふこと。疑問はそこから発生する。この疑問は疑問として正解なのか、といふ混乱さへあるくらゐだ。旅館の女は誰か、仲居の証言とか、朝江の遺体確認をしたのが旅館の主人?とか。これ以上はネタバレなしでは書けない。P75上段の「消印は三月十一日の午後十二時から……」は「九月十一日」ではありませんか。九月の話をしてんですから。誤植ですかね。雑誌名が「小説世界」(「散歩する死者」)から「推理世界」(「天啓の殺意」)になつてゐるのは恐らく、「小説世界」といふのは実在した雑誌名だからではないか。怪しい記憶で言ふと、島崎藤村だつたか、田山花袋だつたかが、さういふ名前の雑誌に発表してたやうに思ふ。題名の「散歩する死者」は理由がよく解らない。「天啓の殺意」のはうがいいかも知れない。

2006-07-23

36.鬼平犯科帳(二)

池波正太郎・文春文庫(used)
池波氏のシリーズの中では、この鬼平シリーズが気に入つてる。最初はこの鬼平、テレビドラマが面白かつたのだ。吉右衛門、今は松本幸四郎かな、の長谷川平蔵はピッタリでした。その後で梅安を読んで、それから剣客商売。池波氏のものは、その時代、江戸時代といふものを感じる。馴染めない言ひまはしもあるけど、その時代に生きる人たちの声を聞く気がする。

35.新・世界の七不思議

鯨統一郎・創元推理文庫
「邪馬台国」の姉妹篇。こつちは古本屋にはなかつた。「ノアの方舟」辺りから飽きて来た。安楽椅子探偵ものとしても、単調だ。謎解きそのものは面白い。それは前作もさう。だけど、2匹目は鮮度が落ちて感じられるのか。アトランティスやストーンヘンジ、ピラミッド、ナスカの地上絵、モアイとは何か?といふ10代の頃にワクワクしながら友だちと語り合つた謎への答へが出て来るわけだ。しかも、意外な答へが。……でもこれは小説ぢやなくてもいいんぢやないかなあ。「邪馬台国」も読みながら、ちらとさう感じた。エッセイでもいいのでは?と。それにミステリーといふ形式でなくても。他にもいろいろたくさん書いてるみたいで、森博嗣氏のやうに。……まあ、当分、ここまでのお付き合ひ、かな。

2006-07-18

山陰路ツアー殺人事件(再読)

中町信・ゲイブンシャ文庫
この前の「阿寒湖殺人事件」を読みながら、似たやうな設定があつた気がして、特に旅行先での夫婦交換はあつた筈だと探したら、これだつた。どんな話だつたか忘れてたので読み返した。さうさう地震で旅館が崩れて、4階の部屋が3階に落ちてしまふのだ。誰がどの部屋にゐたのか、発見された部屋と実際にゐた部屋は同じか?といふ謎が二転三転し、そこに夫婦交換の謎、誰と誰か?が加はる。殺人の動機はなにか?殺されたり、陵辱されて自殺した、過去の事件の復讐。復讐が一番納得し易いといふことでせう。とは言へ、昔、祭りの日の雑踏の中で足を踏まれて(オレのこと)、例へばそれを根に持つて相手を捜し出して復讐する、なんて話があつたら、動機が弱い、なんて批評をされるだらう、恐らく……。再読を数に入れるか迷つたけれども、読み終へたものは数に入れることにした。だから読み終はつてない「フランドルへの道」は番号から外した。

2006-07-16

34.阿寒湖殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
去年の暮れが今年の初めに渋川のBookOffで見付けて、100円(税込105円)だつたから迷つたけど、こないだ実家に寄つた時に行つてみたらまだあつたので買つた。初期の、と言ふか専業になる前の氏家シリーズ第2作。かう言つては失礼だ(もうずゐぶん失礼なことは言つて来た)が、「下北の殺人者」(平成元年=1989年12月刊)から専業になつてるんだけど、どつちかと言ふと専業になる前の作品のはうが好きだね。真犯人は人物紹介の辺りでちよつと予想されるんだけど、三箇月前の道南ツアーへの参加つてところで思ひ込みがあつたし、早苗情報を深読みし過ぎてゐたから最後のドンデン返しは読み応へがあつた。……でも、コロポックルの人形は北海道のどこでも手に入る、つてこと?道南でも道東でも?どうなん?やつぱ阿寒湖、アイヌつて構図でせう。違ふ?道南つてのは函館とか小樽とかだよねえ。道南土産のコロポックル?栄町奈緒は車で連れ出されてどういふ経緯?確かに旅行中といふ設定だから凡てに納得の行く説明をするのは無理があるけど、……兎に角思ひ込みは要注意だよ。

33.獄門島

横溝正史・角川文庫
都筑道夫氏が「黄色い部屋はいかに改装されたか?」の中で横溝氏の最高傑作と太鼓判を押してゐるから読んでみるかな、と思つた、といふ話は、ひよつとしたら「本陣殺人事件」のところで言つてるかも知れない。20代の頃、……さう、その頃横溝作品はたて続けに映画になつてゐたのだよ。それで原作も、と幾つか読んだのだらう。「犬神家の一族」「悪魔の手鞠唄」「八ツ墓村」(これは贔屓のショーケンがタツヤ役で、確か「ワル」を書いてた影丸譲也がマガジンだかに連載してたなあ、といふことも思ひ出したぞ!それと序でに知つたかぶりすると「ワル」の主人公の名前が氷室京介だつてことは、みんな知つてるのかなあ?)「悪魔が来たりて笛を吹く」と「恐るべき四月馬鹿」(表題作は横溝氏が19くらゐで書いた処女作ではなかつたか?)ともう一つの短篇集を読んでゐる、と、これも「本陣」の時に言つたかな。「本陣」の時は気付かなかつたけど、落語とか芝居のダイアローグを思はせる場面が多いんだよねえ。金田一耕助と床屋の清公との掛け合ひなんかは落語のやうだし、最高傑作かどうかは措くとして、面白く読んだ。

2006-07-09

32.邪馬台国はどこですか?

鯨統一郎・創元推理文庫(used)
これは面白い。ミステリーとして読んだら物足りないけど、まあ、これも謎があつて解決があるわけだから。釈迦は悟りを開いたのか、邪馬台国はどこか、聖徳太子は誰か、明智光秀はなぜ謀叛したか、明治維新はなぜ起つたか、イエスの奇蹟は本当か、など学校で習つた物凄く詰まらない(ひたすら年号暗記の)歴史とはまるで違ふ。まともにもう一度日本史を勉強したくなつた。ひと先づ、姉妹篇「新・世界の七不思議」を古本で見付けなくちや。

2006-07-03

31.新人文学賞殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
氏の小説を読み始めるキッカケになつた「模倣の殺意」の改稿前のもの。題名の変遷を辿ると、「そして死が訪れる」で第17回江戸川乱歩賞に応募。翌年1972年に雑誌「推理」に3回に分けて掲載された時には「模倣の殺意」。それが「新人賞殺人事件」で翌年双葉社から出版され、14年後の1987年「新人文学賞殺人事件」で徳間文庫。これがそれで、オレが前に読んだのは2004年に「模倣の殺意」で創元推理文庫から出たもの。中田秋子と津久見伸助の2人の名前で交互に章が作られてゐるのは同じだが、「新人文学賞殺人事件」では章の始めに日付と曜日が書かれてゐるが創元版「模倣の殺意」には曜日はない。構成も、徳間版では〈プロローグ・第1部 事件・第2部 事件を追って・エピローグ〉といふあつさりしたものになつてゐるが、創元版は〈プロローグ・第1部 事件・第2部 追求・第3部 展開・第4部 真相(この扉に「あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください」といふメッセージがある)・エピローグ〉。気付いたのは坂井のアパートが地上25m(徳間)から10m(創元)、「父の一周忌」が「父の法事」、坂井の原稿リライト料が創元では400字詰原稿用紙1枚50円と明記されてゐることくらゐかな。他にもあるかも知れないが、中田秋子が坂井の死を知り課長に出かけてくると言ひ、行つた先はやはり書かれてゐない。当然だよなあ。そのアパートについて一切書かないワケには行かないからなあ。トリックは知つてゐても充分面白く、一気に読めた。これと「天啓の殺意」(旧「散歩する死者」)がベストかもなあ。「散歩する死者」も探して読んでみるか。