2009-11-04

気になることを書いてゐるのであつて、けしてケチをつけてるつもりはないが、あら探しだと思ふ人もゐよう。津村秀介「山陰殺人事件」青樹社文庫(230・used)には困つた。浦上伸介の推理は中町信みたいにアクロバティックではないが、地味だけど読み手にも自然だ。中身は面白いんだ。それはまへの「刑事長」についても言へる。まあ、スラスラ読める面白さうなミステリを探して読んでるワケだから、多少のことは構はない。しかし、これはどうにも破綻してゐるやうに思へる。ネタバレするしかないんだけど、P216に「三人とも縊死だった。火をつけてから首をつったことになる」と書いてある。そのうちの一人は身代りで顔の損傷がひどかつた。その火事現場にゐあはせた接点のない3人の人物が1年後に続けて殺される。なぜか。実は火炎の中から現れた男Aをこの3人は目撃したからなのだ。Aは再び炎の中へ消え、やがて家は燃え落ちる、といふのだ(P254)が、縊死だつた、と書いてある。さうすると、燃え盛る家の中へ戻つたAは梁かどこかに紐状のものを掛けるか何かして自ら首を吊るといふ作業を行はなくてはならない。そのままだつて、死んでしまふでせうに。辻褄あはせになつてゐないか。ただの焼死だと困るのかな。他の2人はAの両親なんだけど、両親が縊死で、本人が焼死でもをかしくないでせう。両親を殺した男が耕耘機のガソリンを被つて自殺した、といふのも変ぢやないと思ふ。でも、その男が一旦外へ出て、また戻るといふ設定は、後で殺される3人に目撃させるためでしかない。しかも、2件の殺人事件の犯人と目され、最後に殺されることになる人物Bは、一年後にこの火事の事件を聞かれても覚えてゐないのだ。だけぢやなく、浦上の質問に、山陰には旅行したことがない、とまで答へてゐる。一年まへで、旅行中の火事で、その火事については地元新聞の取材に応じてゐるから、当然、警察の事情聴取もあつたでせう(書いてないけど)。忘れるかな。Bが真犯人Aの近くに現れたことで、かつての無理心中、火事を装つた殺人の発覚を怖れて殺人が起るのだが、Aは大金を持つてをり、更にどこかへ移り住めば問題ないでせう。資金があるんだから、どこまでも逃げればいい。そのはうが自然ぢやないか。わざわざ危ない橋を渡つて、アリバイを作つて飛行機と電車を乗り継いだりして、3人も殺す労力を考へれば。さうなると、この殺人事件は幻の殺人事件になつてしまふのだが。更に、Bの手書きの遺書めいたものをAが手に入れるのは不可能ではないですか?「太陽がいつぱい」みたいに筆跡を真似る?弱いなあ。
最後に、たまたまかも知れないけど、解説の文章が途中で次の行に移つてるところがある。びつくりする。

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