2006-12-31

60.太陽がいっぱい

パトリシア・ハイスミス/佐宗鈴夫訳・河出文庫
それほど厚くもないのに時間が掛かつてしまつた。探すのにも、読むのにも。「11の物語」を読み終へてから探したが、太田イオンの喜久屋で見付けた。これか「見知らぬ乗客」を読みたいと思つてゐたのだが、「見知らぬ乗客」は今のところどこにも置いてないやうだ。古本屋にもない。──ルネ・クレマンはこれを原作にして映画を撮つたワケだが、最後のシーンくらゐしか思ひ出せないから映画をもう一度見ないと比べようがない。少なくとも主人公トム・リプリーは、アラン・ドロンとは違ふ。なぜディッキーを殺すのか。フレディは殺さなければならないだらう。捕まりたくなければ。トムには金持ちの息子に対する羨望、それと友情よりも寧ろホモ・セクシュアルな気分といふか、さういふのがあるんぢやないか。友情だけで友だちのスーツを着たり靴を(!)履いたりはしない。いづれにしても氏の小説は普通の、と言ふのもをかしいが、これまで読んで来たミステリーとは違ふ。アガサ・クリスティもコナン・ドイルも読んだことがないのださうだ。短篇と初期の代表的な長篇を続けて読んだことになるが、氏の言ふやうに、短篇と長篇の違ひは時間の長さと空間の広がりだけかも知れない。オレは短篇のはうが好きだね。こつちも読み応へがあつたし、読み終へてやつぱり溜息が出たけど、「11の物語」のはうが面白かつた。──今年はこれでお終ひ。「フランドルへの道」が年越しになつてしまふが、仕方ないだらう。

2006-12-15

59.11の物語

パトリシア・ハイスミス/小倉多加志訳・早川文庫
ずつと興味があつた人で、なにしろヒッチコックの「見知らぬ乗客」やルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」の原作者である。しかも、どこでさういふ話を読んだり聞いたりしたのかは覚えてないけど、映画よりもスゴイ、といふ風にインプットされてたから、なにがどうスゴイかはよく解らなかつたが、そんなにスゴイんぢやア是非原作を読みたいものだ、と思つてゐて、それが漸く「何読むかなあ」つていふ時に本屋の棚でふと見付ける、といふ具合にタイミングよく叶つたワケだ。……確かにスゴイなあ。溜息が出ちまふ。唸つてしまふ。きつと「太陽がいつぱい」の原作「リプリー」はものスゴイんだらう、と推測する。……が、これはハイスミス氏(女性の場合は嬢なのかね──と気になつて岩波の国語辞典で「氏」を調べたら、──岩波はさういふ点で便利なんだ、漢和辞典みたいにも使へるからね、──「日本で、人の氏名の下に添える敬称」だから間違ひではない)──の、デビュー作と解説に出てゐる「ヒロイン」を含む11の短篇集に就いて書くのだつた。サマセット・モームの「お菓子と麦酒」、ジョルジュ・シムノンの「仕立て屋の恋(原題は「イール氏の婚約」)」、グレアム・グリーンの「情事の終り」を読んだ時と同じくらゐ、こんなに密度の濃い、生身の人間を書く小説家がゐるのか、と圧倒された。ほかの人は長篇で、これは短篇集なので氏の長篇を是非とも読んでみたいものだと強く感じたが、序文でグリーンが「モビールに艦隊が入港したとき」を薦めてゐて確かにこれは素晴らしい。うーん、と言ふより悲しい。いや、一言では言へないね。いろんな思ひが絡みあつて唸つてしまふのだ。3つ続けて読むと疲れてしまふ。人生、と言ふか生きてる人間の厚み、深さみたいなものがズシーンと来るから。特徴的なのは、最後に読者は放り出されてしまふ、といふこと。オチがない。メデタシメデタシは、ない。少なくとも作者は「それからどうなつたか」のヒントさへ与へてくれないから、最後の一句を読んでから「どうなるのか」と考へてしまふのだ。1945年に書かれた「すつぽん」なんて今の新聞記事にあつても可笑しくないね。この少年と母親の心の動きの微妙さ、残酷さ。この本は後藤明生氏の「笑坂」と同じくらゐ読み終へたくない本でした。

2006-12-03

58.探偵ガリレオ

東野圭吾・文春文庫(used)
面白かつた。これは現代風のホームズかな。草薙がワトソンで湯川がホームズといふ役回りで、種明かしが物理。伏線はどこか、とか、トリックはなにか、なんて余計なことは考へないで付いて行くだけで充分楽しめる。全部で5篇。最後の「離脱(ぬけ)る」でお好み焼き屋のおばさんが赤いミニクーパーとBMWを間違ふといふのは、……。車に全く関心がなければそんなものかなあ。

2006-11-27

57.ある閉ざされた雪の山荘で

東野圭吾・講談社文庫(used)
なんとも気が塞いでゐたり、何か読みたいけど気持ちが続かない、といふ時にミステリーは大いに助かる。ちよつと前まで中町信氏の恩恵に預かつてゐたが、最近は東野圭吾氏だ。先づ文章が読み易いから、どんどん作品の中に入つて行ける。これも一日で読み終へてしまつた。限定された場所に集まつた人たちが次々に殺されて行くといふ、オーソドックスな、古典的な設定。引き合ひに出されるクリスティの「そして誰もいなくなつた」は読んでないし、映画にもなつたやうたが生憎見てゐない。犯人は半分くらゐ読んで指摘出来たけれども、動機や殺人の手口については解らず、最後に二転三転。込み入つた作りになつてゐる。大枠で叙述のトリックがある。それで「独白」があるわけだ。

2006-11-13

56.STILL A PUNK

ジョン・ライドン/竹林正子訳・ロッキング・オン
ずうつと首を長くして待つてゐた。(←いきなりこんなこと言つても解らないよね。実は2箇月くらゐ前に頼んだら再版中とかで期間が掛かつてしまつたのだが、Amazonには「在庫あり」だつたから、そつちに頼んだはうが早かつたかなあ、と後悔したけど、それが)漸く9日に届いて、以来暇があれば読み続けた。先づイギリスの労働者階級の家庭がどんなものか、正直知らなかつた。オレが子どもの頃より貧しいよ、たぶん。これでは階級制度への反発があるのは当然。その根の深さと言ふか、激しさは、日本のパンク、いやアメリカのバンドでも敵はない。マルコムとの確執とかアメリカ・ツアーの内情とか、そもそもセックス・ピストルズが出来上がつて行く過程とか、当時の音楽情報紙、レコードのライナー・ノーツ、或は新聞報道(そんなもんあつたか?)から得た噂や情報とは随分違ふなあ。ジョニー・ロットンのロットンなんて辞書で調べもしなかつたけど、「腐つた、腐敗した」つていふ意味なんだね、知らなかつた。それと奥さんつて15才も年上だつたんだ。なんか、さすがにジョン・ライドンだな。

2006-11-04

55.インディヴィジュアル・プロジェクション

阿部和重・新潮社(used)
カバーが気に入つてたので単行本でほしかつた、中身は二の次で。阿部和重氏は「アメリカの夜」を読んだことがあり、なかなか面白かつたし、これもハードバイルド風な書き方で読み易い。individual projection ねえ、どういふ意味だい?個々の、個人の投影?日本語になんねえな。意味はどうでも、途中からミステリーのつもりになつてしまつたから、日記体の使用は巧みだと思つたし、それで主人公は一体誰だ?的状況から大ドンデン返しが待つてるかと思ひきや、……ラストは、……最後は文学するんだね。中身より断然カバーがいいね。

2006-11-01

54.不連続殺人事件

坂口安吾・双葉文庫(used)
日本推理作家協会賞受賞作全集の中の1冊で、前に角川文庫だかで出てゐたのを持つてたけど、読まないうちに処分したか売つたかしたのだ。たぶん映画になつたと思ふ。カバーが映画のシーンだつたやうな、……記憶違ひかな。坂口安吾氏は「外套と青空」つていふのを読んだ覚えがあるが中身は覚えてない。どつちかと言ふと苦手だ。ただ推理小説は好きなんで偶然見付けて状態がよく安かつたので買つたのだが、これが存外にお荷物になつた。7月に買つたけど、いざ読み始めると鬱陶しくて頓挫してた。登場人物が多いのと、それがぜんぶ曲者だらけで、オマケに文章が読み難い。ああ、戦後つぽいなあ、と言つても具体的にどこがどうとは言へない。推理小説の面白さは感じなかつた。先づ疲れちまふんだよね、文章が頭に入らなくて。雑誌に連載して懸賞出したと出てるけど、トリックもアリバイ云々もどうでもいい感じ。ちよつとした試練でした。オレにはわからん、面白さが。

2006-10-25

53.名探偵の掟

東野圭吾・講談社文庫(used)
どうして東野圭吾氏の本は105円のものが置いてないのだらう。これも300円。みんなそのくらゐだ。それでも売れるつてことか。まあ、状態がいいのが多いけど。これは折原一氏の「七つの棺」みたいなもので、あつちは全部密室だつけな。ちよつと調べて来るか。よつこらしよ、と。……さうだね。「密室殺人が多すぎる」つてタイトルの上にある。……おつと読み返してたらスリープするところだつたぜ。折原氏と違ふのは扱つてるのが密室だけぢやなく、推理小説のいろいろなパターンであることと「白夜行」とはまるで違ふのが面白い。

2006-10-17

空白の殺意(再読)

中町信・創元推理文庫
カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読み終へて直ぐ一気に再読したものの、コメントを書くのが億劫だつたので暫く「下書きとして保存」してゐた。いきなりこの記事が登場するので驚かれるかも知れない。最初に読んだ時はこんな風に書いてる。──氏が触発されてこれを書いたと言ふディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読んでみたい。書き方に登場人物たちや読み手の錯覚を促すといふ方法はここでも使はれてゐる。でも、それほどケレン味はないです。だから、なんでかうなの?つていふのもないです。──登場人物たちが錯覚を促してるわけぢやあないでせうに、何言つてんだろ。人物の言動が読者ををかしな方向に導くのだよ。これは群馬県高崎市が舞台で、オレには殆ど関心がない高校野球の話が結構重要なポイントになつてゐる。もともと「高校野球殺人事件」といふ題名だつたからなのは、前にも書いた。トリックの部分は確かにカーのそれと同様に作者に誘導された思ひ違ひなのだが、つまり注意深く読めば疑問として残るから、オレみたいに「やられた」とは思はないだらうが、カーのはうは主人公が犯人として疑はれてるので少し違ふなあ。どうして館林なの?つてのも残る。太田や足利ではダメなのか。

2006-10-14

52.皇帝のかぎ煙草入れ

ディクスン・カー/井上一夫訳・創元推理文庫(used)
中町信氏の「空白の殺意」(=「高校野球殺人事件」)のあとがきに、この作品みたいなものが書きたかつた、と出てゐて、ディクスン・カー(=カーター・ディクスン)は1冊も読んだことがなく、いづれ本屋で思ひ出したら買つて読まう、みたいなことを4月の「空白の殺意」のところで書いてる。太田のほんだらけで見付けて300円だつたけど、状態がすごくよかつた。始めはどうにも読み難くて、例のダメなタイプの文章ではないんだけど、言動以外の記述に癖があつて慣れるまでに20〜30頁必要だつた。読んでくうちに思ふツボ。ロウズ家の誰かに違ひないと考へたワケだ。ところが、……肝心のところを読み返し、確かにさう書いてあるぢやアないか。確かにこれは中町的だ。次はもう一度「空白の殺意」を読み返すことにしよう。

2006-10-06

51.白夜行

東野圭吾・集英社文庫(used)
この分厚さに先づ挑みたかつた。2冊、3冊と分かれたものでもいいのだが、出来れば1冊で分厚いのがよかつた。それと「レイクサイド」が面白かつたし、裏に書かれた粗筋で読んでみたくなつた。半分くらゐまでは淡々と進むので、それぞれの章ごとに本を置くことが出来たけれども、探偵の今枝が登場する第十章からは早く先を知りたくて止まらなくなつてしまふ。最初の殺人から残されてゐる謎に、主人公2人の成長に併せて燻つてゐた疑問がちやうど飽和点に達するからか、探偵の謎解きが始まつて一気に爆発するのかも知れない。この分厚さに匹敵する読み応へがある。まるで登場人物たちの19年間に付き合つた気がして、本を置いてホッと溜息をついたほどだ。この主人公2人の人物像が生半可なものではないので、オレには最終章の中程で起こる美佳への仕打ちは行き過ぎだと感じてしまふ。それだけオレが甘いのだらう。つまりこの2人は魂を売つてゐる。優しさや弱さは死を意味する、と信じてゐるのだらう。最後の最後で、雪穂はキッパリ桐原を知らないと言ひ切つて、この暗く重たい小説は終る。──もう一度ざつと読み返したいところがあるので、そしたらまた書き加へるかも知れない。
↑ 気になつてゐたことを箇条書きにしてみると、1.質屋の主人、桐原洋介を殺した凶器はなにか。2.パソコン・ゲームのデータが流出した経路は。3.倉橋香苗への疑惑はどうなつたか。4.雪穂の鈴つきのカギについて本人が漏らしてゐた筈だが、……で、該当するところを読み返して得た答へは、1.は恐く鋏だらうと予想してゐて、亮介の胸に刺さつてゐるのを見た笹垣が「彼の人生を変えた鋏だ」と言つてゐるから間違ひないだらう。2.は推測の域を出ないが雪穂には可能だつたらう。3.はすつきりしないままだ。篠塚の個人的な経緯から気が重いから問ひ質さない、といふことらしいが、部費の一部が部長である篠塚の知らないうちに引き出されてゐるのだから、警察に届けるかどうかは別にしても、ダンス部の部長として当人と話すくらゐはしないとをかしくないか。使途不明金なんだから、聞けるはずだ。尤も、さうなればそこで物語は少し違ふ展開になるだらう。4.は探すのに一番苦労した箇所。第四章の終りに出て来る。ここでもし中道がこの事件に更に興味を抱いて調べたら、田川はその鈴の音が気になつてゐたのだから、そのことを漏らすだらう。さうなるとまた違ふ展開になつたかも知れないのは、この時点ではまだ質屋殺しの事件は時効になつてはゐないからで、……(06.10.07)

2006-09-26

50.99.9%は仮説

竹内薫・光文社新書
さうだねえ、ツカミの「最先端の科学でも飛行機がなぜ飛ぶのか解つてない」で買つてしまつた。と言ふか、立ち読みしてゐるうちに、ここで読んでるなら買つちまつて最後まで読まう、と思つたからだ。本屋で本を買ふ時つて、大抵さうなんだけど、……。後半で触れられるホーキング氏の「実証論」が一番面白かつたかな。ホーキング氏関係をちよつと読んでみたくなつた。難しい、と脅してるから、うんと解り易いものから。竹内氏の著書はもう1冊、「ペンローズのねじれた四次元」(講談社ブルーバックス)といふのを読んだことがあるが、それに比べたらこつちは随分解り易い。砕けてゐると言へば聞こえがいいが、(笑)なんてのが挟んであるのは、ちよつと巫山戯すぎだらう。……これでちやうど50冊。Blogタイトルに因んで年間50冊を密かに目安にしてたから、一安心。

2006-09-18

49.漫画の時間

いしかわじゅん・新潮Oh!文庫
読むのに時間が掛かつたのは取り上げてる作品の数が多いからで、漫画評論集と裏に書いてあるけど、それは主に最初の「漫画の読み方」だらう。これをゆつくり読みたくて買つたやうなものだのだ。漫画家になりたかつたオレにとつては目からウロコの部分もあつた。他はコラムと言ふか寸評で、知らない漫画家が多いのに驚いた。

2006-09-10

48.越後路殺人行

中町信・ケイブンシャ・ノベルズ(used)
奇しくも去年の9月8日、イオン太田の喜久屋書店で購入し、9月10日に読み終へた創元推理文庫「模倣の殺意」からちやうど1年。集め続け読み続けた中町作品もこれが最後。改訂版を含めて31冊読んだことになる。まだあと10作品くらゐは300円以内で手に入る筈だが、もうこの辺でいいかな、と。他にも読んでない本が幾つもあるから。──といふ訳で、最後になつた中町作品は題名からも解る通り多門耕作シリーズの第2作目。もう1つの「奥利根殺人行」は入手不能。お色気シーンがある、といふ風に中町信をめぐるサイトには出てゐるけど、かういふのをお色気シーンといふのかなあ。……まあ、それはいいとして、事件が一度解決したと思はせてから、些細な疑問からドンデン返しになるのは意外だけど、ぎりぎりまで犯人扱ひされてた人間の心情と言ふか気持ちのはうはどうなんだらうねえ。気の毒なんてもんぢやなく、一種の冤罪だもんなあ。犯人の読みは当たつてゐた(だつて31冊も読んでるんだから、どんなに捻つて書くのが得意でも、或る程度のパターンは見えるでせう)が、動機は外しました。

2006-09-07

47.レイクサイド

東野圭吾・文春文庫(used)
映画になつた「レイクサイド・マーダー・ケース」(監督・青山真治)のDVDを先に見てゐる。役者が揃つてゐる中に(これはいつか誰かに言ひたいと思ひつつ、なかなか機会がなかつたので、ここで敢へて言つてしまはう、この映画の中でも何度か出て来るが、台詞によつて気味の悪い口周辺の動きを見せるので嫌ひな)薬師丸ひろ子が出てゐるのが配役についての不満だが、全体にどこか食ひ足りない映画で、さうだなあ、例へば伊丹十三氏の映画を見た時に受ける感じに似てるかも知れない物足りなさ。映画に関する理屈・理論や技術、感性なども優れてゐる、秀でてゐる監督、なのだらうが、その画面から受けるものはもう一つの現実ではなくスクリーン幕みたいに薄つぺらな世界、といふ風な感じがする。かなり大胆に、生意気なことを言つてるので、そこまで言ふならお前が撮つてみろ、つて言はれるかも。──ま、映画のことは兎も角、原作を読みたいと思つたのは、まあ、そんなことからで、2軒梯子したら状態のいい古本で見付かつた。東野圭吾氏のものは一度も読んだことがない、と思ふ。別に敬遠してゐたわけでも、高村薫氏や北村薫氏(なんと2人とも「薫」ぢやあないか!)のやうに「読めない」と感じたわけでもない。幾つも書いてるみたいだから、いつでもいいや、みたいな感じだつた。──で、映画は原作とはまるで違ふ、と、これも敢へて言つてしまはう。登場人物の数や性別の変更もさうだが、この小説の中でオレが一番いいと思つた場面が映画にはないことだ。並木俊介が事件の真相を知り、車に乗り込む。p265の最後の行から描かれる場面が堪らないだらう?子どもを持つ親なら、結構ジーンと来ると思ふんだけど。最後の最後で、そのことがまた新たな意外な犯行の動機を示すことになるのは見事だけど、悲しいねえ。

2006-09-03

46.能登路殺人行

中町信・ケイブンシャノベルズ(used)
シリーズものが幾つかあるのだが、最初のシリーズが売れない推理作家・氏家周一郎もので、これは作家専業になる前年くらゐから始まつて、かなりの作品数がある。因みに11作。次に課長代理・深水文明、探偵・多門耕作が前後して始まる。深水が4作。多門が3作。そして翻訳家・和南城健もの4作、一番新しいのが浅草寿司屋の山内鬼一もの3作だ。これまで多門耕作シリーズはBookOffでは手に入らなくて、Amazonで探してもダメだつたのが「ふるほん倶楽部」で漸く見付けた。のつけから真犯人が登場してゐることがある氏の作品の中ではゆつくりめ。ダイイング・メッセージが作り過ぎてる気がするし、真相解明までにゴタゴタしてるやうに思ふが、面白く読んだ。これにも「推理作家殺人事件」みたいな男女の絡みがちよつとが出て来る。余談だが、氏の6年前の新作(と言ふか、それ以降作品が発表されてない)「錯誤のブレーキ」がAmazonで5,000円で売りに出てゐた。オレは400円で買つたけど。愈々手に入らなくなるのかなア。

2006-08-30

45.小豆島殺人事件

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
プロローグで「私」を読み違へた。それが中盤まで尾を引いた。犯人の意外性はそれほどもない。気絶してる女性を暴行する。しかも3人掛かりだ。途中で意識が戻りませんか?よりも先づ、なぜ気絶したのか。数人の酔つ払ひに襲はれ、……といふ事情だと説明があるが、相手の顔が解らないといふことがあるでせうか?後ろからいきなり襲はれ、例へば何かで殴られて気を失ひ、だから顔が見えなくつて、……なんでオレが解説しなきやならないの?テニス部の5日間の合宿が小豆島から有馬温泉へと移動して行ふといふのも不思議でしたが。

2006-08-26

44.佐渡ヶ島殺人旅情

中町信・青樹社ビッグブックス(used)
元は「佐渡金山殺人事件」。でも、これはをかしいよね。佐渡金山つて言ふけど、佐渡金山付近で死体が見つかるのは1人だし、別に佐渡金山にまつはる連続殺人といふワケでもないので、こつちの題名のはうがいいでせう。えーと、P39で浜岡ゆり子が北本さんとは面識がないのに「すれ違つた」と証言するのはなぜですか?それと写真の話からホテルの入り口にオームの彫像が、と既成事実みたいに展開するのも撹乱の一種でせうか。これは氏家シリーズの第一作なのだが、どうやらここから始まつてるらしいのは氏家早苗の思ひ込みで、どれほどそれが捜査の妨げ、読み手の推理の妨げになつてゐるか、計り知れない。疑問に思ふことがあつても、横からガチャガチャ的外れみたいな意見を言はれて、と言ふか読まされてるうちに、疑問のポイントを見失つてイライラするのだ。上手い設定だね。写真の女だ、といふメッセージも、さう。そこにゐたすべての人ではないことは、慣れると解るので特にダイナミックな展開ではありませんね、中町さん。

2006-08-22

43.吉祥寺探偵局

いしかわじゅん・角川文庫(used)
「ロンドンで会おう」が面白かつたから、つい買つてしまたのだ。やはり、これも漫画だつた。漫画の持つアクロバットがある。羨ましい。棚に2冊あつて、初版のはうを選んだ。別に後で売ることを考へたからではない。初版でなくても高くなる本はあるし、貴重な筈が意外に出回つてることもある。この道に入つて覚えたことだ。

2006-08-20

42.推理作家殺人事件

中町信・立風ノベルズ(used)
男鹿温泉で推理作家が死ぬ。事故死か自殺か殺人か。続けて起こる女性編集者の死。更に推理作家が殺されて、……果たして犯人は誰か。主人公の女性編集者が真犯人に辿り着いたと思つた途端、どんでん返しが待つてゐる。──なんていふ解説はこれまでは省略したけど、たまには書いて見よう。後半に入り、珍しく男女の絡みの場面が出てくる。これまでに読んだ作品にはなかつたと思ふ。いや、なかつた、と断言しよう。なかなかに助平なシーンなのだ。読み終はつて、パラパラめくつてトリックの部分を再確認してたら、第4章が9月12日になつてるんだけど、これは9月13日ぢやないのかなあ。第5章が14日なんだから。

2006-08-13

41.女性編集者殺人事件

中町信・ケイブンシャノベルズ(used)
「殺戮の証明」を全篇にわたり大幅に加筆、削除、訂正したもの、と目次の前に添書きがある。かういふのを何と呼ぶのだらう。改訂版?中町氏の初期の作品にはこれが多い。題名はこつちのはうがいいかも知れないが、殺されるのは女性編集者だけではないし、……かと言つて「殺戮の証明」は相応しくない気がする。いづれにしても、初期作品の中では地味なトリックである。労働争議と絡ませてゐる点が重い雰囲気を作つてゐる。比較的オーソドックスなミステリーではないだらうか。面白かつた。

2006-08-07

40.無茶な人びと

中野翠・文春文庫(used)
中野翠氏の本は図書館で借りて何冊か読んでゐる。メディアに対するコラム、メディアを通した事件についてのコラム以外はお気に入りの芸人(古今亭志ん朝、中村勘九郎、高田文夫、浅草キッドなど)についての話。これまではそれほどでもなかつたが今回は特に、事件をめぐるコラムを読んで、ちよつとした違和感があつた。理解しよう、解釈しよう、位置付けしよう、といふ意思がある。それは事件によつては「なぜか」を強く感じるものもあるが、事件に限らず、発言の影には「解釈しよう」といふスタンスが感じられ、それが或る時は鼻に付いた。具体的に一箇所。P298の終りのはうからP299にかけて、「ことTVとマンガにかんしては私の世代はちゃっかりしてると思う。TVとマンガが一番ういういしく、イキオイがあり、激動していた頃に育った。黄金時代にいたと思う」といふ件。これは小林信彦氏の本で読んで呆れた「ヌーヴェル・バーグ以降の映画しか知らない世代は気の毒だ」(正確に覚えてないが、かういふ意味の発言だつた)と同じだね。特権階級なんだね。志ん生、文楽、円生を知らない世代は可哀相、さう言つてるのと同じだし。誰でも幾らでも言へることで、たぶん世代の差だらう、と片付けてしまはう。氏は団塊の世代らしい。だからかなあ、……。

2006-08-05

39.ロンドンで会おう

いしかわじゅん・角川文庫(used)
これは漫画だ。漫画を軽視してるのではなく、漫画が文章になつてる凄さ。モデル視されてる作家のものは一つも読んだことがない。これは偶然。「東京で会おう」も是非読みたい。

38.昔話にはウラがある

ひろさちや・新潮文庫(used)
ひろさちや。太田のほんだらけの棚で見付け、聞いたことある名前だな、と思つた時は、まどみちおと勘違ひしてたかも知れない。兎に角、表紙がよかつた。山本タカトといふ人の絵で、浦島太郎だと思ふが(海中でカメの背に乗つてるんだから他に考へやうがないだらう!)、実に怪しく美しい。これだけで買つたやうなもの。だから中身は期待してなかつたが、期待しないでよかつた。昔話の自己流の解釈で、興味深い解釈もあるが、概ね妄想と呼んだはうがいい。「アリとキリギリス」は確かに岩波文庫の「イソップ寓話集」にはないけど、仰るやうに「蝉と蟻たち」だけでなく「蟻と甲虫」といふのも参考にして作られたと思ふのです、私は。蛇足ながら。──序でに、どうせ読むなら佐野洋子の「嘘ばつか」(講談社文庫)のはうが桁違ひに面白い。06.08.13

2006-07-30

37.散歩する死者

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
改稿後の創元推理文庫から出た「天啓の殺意」を先に読んでゐるので、その感想なんかは月刊彦七新聞HP=http://www6.ocn.ne.jp/~hiko7/omako.htmlで見て下さい。比べるまで気付かなかつたが、エピローグは「天啓の殺意」のはうが親切だつた。こつちで沸いた幾つかの疑問への答へがある。どうしても混乱するのは、どこまでが実際のことか、つていふこと。疑問はそこから発生する。この疑問は疑問として正解なのか、といふ混乱さへあるくらゐだ。旅館の女は誰か、仲居の証言とか、朝江の遺体確認をしたのが旅館の主人?とか。これ以上はネタバレなしでは書けない。P75上段の「消印は三月十一日の午後十二時から……」は「九月十一日」ではありませんか。九月の話をしてんですから。誤植ですかね。雑誌名が「小説世界」(「散歩する死者」)から「推理世界」(「天啓の殺意」)になつてゐるのは恐らく、「小説世界」といふのは実在した雑誌名だからではないか。怪しい記憶で言ふと、島崎藤村だつたか、田山花袋だつたかが、さういふ名前の雑誌に発表してたやうに思ふ。題名の「散歩する死者」は理由がよく解らない。「天啓の殺意」のはうがいいかも知れない。

2006-07-23

36.鬼平犯科帳(二)

池波正太郎・文春文庫(used)
池波氏のシリーズの中では、この鬼平シリーズが気に入つてる。最初はこの鬼平、テレビドラマが面白かつたのだ。吉右衛門、今は松本幸四郎かな、の長谷川平蔵はピッタリでした。その後で梅安を読んで、それから剣客商売。池波氏のものは、その時代、江戸時代といふものを感じる。馴染めない言ひまはしもあるけど、その時代に生きる人たちの声を聞く気がする。

35.新・世界の七不思議

鯨統一郎・創元推理文庫
「邪馬台国」の姉妹篇。こつちは古本屋にはなかつた。「ノアの方舟」辺りから飽きて来た。安楽椅子探偵ものとしても、単調だ。謎解きそのものは面白い。それは前作もさう。だけど、2匹目は鮮度が落ちて感じられるのか。アトランティスやストーンヘンジ、ピラミッド、ナスカの地上絵、モアイとは何か?といふ10代の頃にワクワクしながら友だちと語り合つた謎への答へが出て来るわけだ。しかも、意外な答へが。……でもこれは小説ぢやなくてもいいんぢやないかなあ。「邪馬台国」も読みながら、ちらとさう感じた。エッセイでもいいのでは?と。それにミステリーといふ形式でなくても。他にもいろいろたくさん書いてるみたいで、森博嗣氏のやうに。……まあ、当分、ここまでのお付き合ひ、かな。

2006-07-18

山陰路ツアー殺人事件(再読)

中町信・ゲイブンシャ文庫
この前の「阿寒湖殺人事件」を読みながら、似たやうな設定があつた気がして、特に旅行先での夫婦交換はあつた筈だと探したら、これだつた。どんな話だつたか忘れてたので読み返した。さうさう地震で旅館が崩れて、4階の部屋が3階に落ちてしまふのだ。誰がどの部屋にゐたのか、発見された部屋と実際にゐた部屋は同じか?といふ謎が二転三転し、そこに夫婦交換の謎、誰と誰か?が加はる。殺人の動機はなにか?殺されたり、陵辱されて自殺した、過去の事件の復讐。復讐が一番納得し易いといふことでせう。とは言へ、昔、祭りの日の雑踏の中で足を踏まれて(オレのこと)、例へばそれを根に持つて相手を捜し出して復讐する、なんて話があつたら、動機が弱い、なんて批評をされるだらう、恐らく……。再読を数に入れるか迷つたけれども、読み終へたものは数に入れることにした。だから読み終はつてない「フランドルへの道」は番号から外した。

2006-07-16

34.阿寒湖殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
去年の暮れが今年の初めに渋川のBookOffで見付けて、100円(税込105円)だつたから迷つたけど、こないだ実家に寄つた時に行つてみたらまだあつたので買つた。初期の、と言ふか専業になる前の氏家シリーズ第2作。かう言つては失礼だ(もうずゐぶん失礼なことは言つて来た)が、「下北の殺人者」(平成元年=1989年12月刊)から専業になつてるんだけど、どつちかと言ふと専業になる前の作品のはうが好きだね。真犯人は人物紹介の辺りでちよつと予想されるんだけど、三箇月前の道南ツアーへの参加つてところで思ひ込みがあつたし、早苗情報を深読みし過ぎてゐたから最後のドンデン返しは読み応へがあつた。……でも、コロポックルの人形は北海道のどこでも手に入る、つてこと?道南でも道東でも?どうなん?やつぱ阿寒湖、アイヌつて構図でせう。違ふ?道南つてのは函館とか小樽とかだよねえ。道南土産のコロポックル?栄町奈緒は車で連れ出されてどういふ経緯?確かに旅行中といふ設定だから凡てに納得の行く説明をするのは無理があるけど、……兎に角思ひ込みは要注意だよ。

33.獄門島

横溝正史・角川文庫
都筑道夫氏が「黄色い部屋はいかに改装されたか?」の中で横溝氏の最高傑作と太鼓判を押してゐるから読んでみるかな、と思つた、といふ話は、ひよつとしたら「本陣殺人事件」のところで言つてるかも知れない。20代の頃、……さう、その頃横溝作品はたて続けに映画になつてゐたのだよ。それで原作も、と幾つか読んだのだらう。「犬神家の一族」「悪魔の手鞠唄」「八ツ墓村」(これは贔屓のショーケンがタツヤ役で、確か「ワル」を書いてた影丸譲也がマガジンだかに連載してたなあ、といふことも思ひ出したぞ!それと序でに知つたかぶりすると「ワル」の主人公の名前が氷室京介だつてことは、みんな知つてるのかなあ?)「悪魔が来たりて笛を吹く」と「恐るべき四月馬鹿」(表題作は横溝氏が19くらゐで書いた処女作ではなかつたか?)ともう一つの短篇集を読んでゐる、と、これも「本陣」の時に言つたかな。「本陣」の時は気付かなかつたけど、落語とか芝居のダイアローグを思はせる場面が多いんだよねえ。金田一耕助と床屋の清公との掛け合ひなんかは落語のやうだし、最高傑作かどうかは措くとして、面白く読んだ。

2006-07-09

32.邪馬台国はどこですか?

鯨統一郎・創元推理文庫(used)
これは面白い。ミステリーとして読んだら物足りないけど、まあ、これも謎があつて解決があるわけだから。釈迦は悟りを開いたのか、邪馬台国はどこか、聖徳太子は誰か、明智光秀はなぜ謀叛したか、明治維新はなぜ起つたか、イエスの奇蹟は本当か、など学校で習つた物凄く詰まらない(ひたすら年号暗記の)歴史とはまるで違ふ。まともにもう一度日本史を勉強したくなつた。ひと先づ、姉妹篇「新・世界の七不思議」を古本で見付けなくちや。

2006-07-03

31.新人文学賞殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
氏の小説を読み始めるキッカケになつた「模倣の殺意」の改稿前のもの。題名の変遷を辿ると、「そして死が訪れる」で第17回江戸川乱歩賞に応募。翌年1972年に雑誌「推理」に3回に分けて掲載された時には「模倣の殺意」。それが「新人賞殺人事件」で翌年双葉社から出版され、14年後の1987年「新人文学賞殺人事件」で徳間文庫。これがそれで、オレが前に読んだのは2004年に「模倣の殺意」で創元推理文庫から出たもの。中田秋子と津久見伸助の2人の名前で交互に章が作られてゐるのは同じだが、「新人文学賞殺人事件」では章の始めに日付と曜日が書かれてゐるが創元版「模倣の殺意」には曜日はない。構成も、徳間版では〈プロローグ・第1部 事件・第2部 事件を追って・エピローグ〉といふあつさりしたものになつてゐるが、創元版は〈プロローグ・第1部 事件・第2部 追求・第3部 展開・第4部 真相(この扉に「あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください」といふメッセージがある)・エピローグ〉。気付いたのは坂井のアパートが地上25m(徳間)から10m(創元)、「父の一周忌」が「父の法事」、坂井の原稿リライト料が創元では400字詰原稿用紙1枚50円と明記されてゐることくらゐかな。他にもあるかも知れないが、中田秋子が坂井の死を知り課長に出かけてくると言ひ、行つた先はやはり書かれてゐない。当然だよなあ。そのアパートについて一切書かないワケには行かないからなあ。トリックは知つてゐても充分面白く、一気に読めた。これと「天啓の殺意」(旧「散歩する死者」)がベストかもなあ。「散歩する死者」も探して読んでみるか。

2006-06-29

30.「心の旅路」連続殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
もとは「殺された女」だつたと解説にも奥付にも出てゐるが、オレが調べた資料では「空白の近景」となつてゐた。題名はまア、どつちでもいいんだけど、「空白の近景」といふ題で第十八回の江戸川乱歩賞に応募し最終候補に残つてゐる。出版された際に「殺された女」になつたやうだ。Amazonで検索して手に入れたのだが、解説は中島河太郎氏で,氏は創元推理文庫で復刻された「高校野球殺人事件」の改稿決定版「空白の殺意」の解説(折原一氏)によれば、中町氏のデビュー作「新人賞殺人事件(創元推理文庫で復刻された時は「模倣の殺意」)の江戸川乱歩賞の選評で「フェアではない。あと味がよくない」と高木彬光氏と共に否定したと書かれてゐる。モラルとかないんでせうね、この人。この作品は第二作です。前作(「模倣の殺意」)と「散歩する死者」(「天啓の殺意」)が圧倒的なので、どつちかといふと控へめだが、面白く読んだ。この辺から既に旅行とミステリーが絡んで来るんだねえ。水上温泉と沼田署が出て来る辺りも。

2006-06-25

29.時には懺悔を

打海文三・角川文庫
どうしてこんなにスラスラと文章が頭に入つて行くのか。この前に「ハルピン・カフェ」といふ本を手に取つて見た。聞いたことがあるやうな、ないやうなタイトル。太田イオンの喜久屋だ。いま中古以外は殆んどここで買つてゐる。「ハルピン・カフェ」は厚い本だつた。パラパラと捲り、読みたい気分だつた。が、ここのところ活字を追ふ気力がどうにも続かないから、後で荷物になつても困る。戻す序でに隣にあつたこつちを捲つた。冒頭からスラスラと頭に入る。立ち読みしながらグイグイその世界に入り込んでしまひさうだつた。これは買ふしかない。……で、やつぱり読み始めたら一気だつた。この濃密なハートボイルド的世界はなんだ?この情緒的な、抒情的なハードボイルドな気分つて、どこか矛盾してないか?兎に角,なかなか緊迫感と爽快感があつてよかつた。続けてもう一度読み返した。面白い。こみ上げて来るものがある。題材が重過ぎるよ。ただ一つ(出たぞ)、米本が殺された動機。一言説明が欲しかつた。佐竹が自分に準へて、深く入り込まないけれども。例へ小説であつても、理由のない死は悲しい。救はれない。貴志祐介の「黒い家」の時にも書いたけど、あの保険外交員が無惨な殺され方をするのがイヤなんだよ。米本はなぜ殺されたのか?なぜ殺されなければならなかつたのか?尤もらしい理由が欲しい。それが唯一の不満。

2006-06-21

28.妙な塩梅

えのきどいちろう・中公文庫(used)
たぶんビックリハウスか宝島で氏の名前は知つてゐた。本になつたものを読んだのは初めてかも知れない。角度がいい。ものを見る体勢が好ましい。ワハハではなく、ククッと笑へる。短いエッセイが36篇。それぞれのタイトルが既に面白い。

2006-05-28

27.チョコレートゲーム

岡嶋二人・講談社文庫(used)
一気に読んだ。次から次へと頁を捲つてしまふ。氏の作品は幾つか読んでる。「おかしな二人」も読んだ。井上夢人ひとりになつてからの作品も読んでる、確か。日本推理作家協会賞受賞作。1985年、いまから20年前の作品。こんなことはあり得ないよ、だつて相手は中学生だらう、とは言へない世の中になつてしまつたのだ、いつのまにか。テレビが登場してから、ファミコンが出てから、東京ディズニーランドが出来てから、……と諸説あるけれど、それも勿論あるでせう、でもオレはもともと儒教的な道徳観が日本人には合はないからぢやないか、つて思つてるんだけどねえ。付け焼き刃だつたんぢやないか、と。話が逸れてしまつたけど。

2006-05-23

26.沈黙者

折原一・文春文庫(used)
BookOffで中町信を物色してた時に見付けたのだが、氏が書いた中町信の「空白の殺意」の解説を読んでたから買ふ気になつたので、えーと、あの、落語家が出て来るミステリー、思ひ出せないけど、あの作者とよく混同して避けてゐた。なんとか薫つて言ふんだけど、……さう、北村薫だ。この人はダメなんだねえ。なんとかの蝉(全然違ふかも知れない)とかいふのを図書館で借りて読まうとして一頁目から先に行けない。入れないんだね。拒絶反応。「マークスの山」(?)とおんなじ。兎に角驚きました、このトリック、と言ふか、作り方。正直な話がP325(全体でP383)の高山一家の登場まで「もしかしたら、かういふことか?」と思はなかつた。殺人事件のカラクリよりも「沈黙者」は誰かに気を取られてしまつた。かなり集中しないと面白さが存分に味はへないかも知れない。もう一度続けて読んでもいいかな、と思つたほどだが、難を言へば、……小姑みたいで気が引けるのは、文句の付けやうがないくらゐ丹念に書かれてゐるからだが、一言二言。「わが生涯最大の事件」の作者が67〜68才と推察されるのだが、年齢と言ひ回しに違和感がある。P284の「君は後悔の「航海」に旅立つ。駄洒落を言つても仕方ないんだけれどもね。」とか、P311「それでおしまい。ジ・エンド。」つていふ言ひ回しが相応しいかどうか。と、P379で「沈黙者」を「私」が調べてゐることを本人が知つたといふ風に書いてあるけど、確か「私」は声をかけてない筈なので、躊躇つた筈だから、どういふ経緯でそれが「沈黙者」に知れたのか、明確ではない。なんとなく、さうかも、では済まない重要なことだ。「沈黙者」が気付かなければ、接点がなければ起こらなかつた事件だから。20代後半から50近い年齢まで世間とは没交渉だつたわけだからねえ。最後に,息子の靴を履くのは尋常ではない、と感じました。

2006-05-20

25.ステップフォードの妻たち

アイラ・レヴィン/平尾圭吾訳・早川文庫(used)
これは面白いねえ。解説に「読む人によってさまざまに解釈が分かれたユニークな作品」なんて書いてあるけど、そんなに幾通りもないだらうに。だつたらなんでP79でマージ・マコーミックの洗濯物を洗つてゐるといふキット・サンダーセンの説明「彼女、なにかのウィルスにやられて、今日は動くこともできない」なんて書いてあるの?更にP186でコーネル夫人が棚を掃除してて「背後でガラスが、ちゃりん、と音を立てた」となつてゐるのは、もし違ふ解釈が出来るとしたら、却つてかういふ書き方はズルいでせう。SFみたいだけど、ほかに解釈のしやうがない。それも実に自然に受け入れられるし、あり得ねえ、なんて言ふ気にならないくらゐ丁寧に書いてあるよ。その後で彼女はどうなつたのか、つていふ怖さはあるけど。作者のアイラ・レヴィンは「ローズマリーの赤ちやん」を書いた人で、映画もテレビとビデオで見たし、原作も読んだ。デビュー作の「死の接吻」も読んでる。内容は思ひ出せない。でも、もう一度読みたいと思つてるから、たぶん処分してない、どつちも。これはニコール・キッドマン主演で映画になつてるので、それも見たいんだけど、ニコール・キッドマンは、どつちかと言ふと嫌ひだから、顔が。と、ピーター・ストラウヴつて人の解説がよく意味が解らない。何が言ひたいたんだらう、小難しい言ひ回しは鬱陶しいよ。簡潔でスラスラ読めるのが名作の条件だ、みたいに言つてる本人の文章が、ちと難解なのはジョークですか?

2006-05-19

24.殺人投影図

結城恭介・祥伝社NON NOVEL(used)
Book Off の棚で見付けて、読んでみるかな、と思つたわけはタイトルに「新探偵小説」と添へられてゐるからではなくて、氏の名前を知つてゐたからで、それはデビュー作で第一回小説新潮新人賞受賞作「美琴姫様騒動始末」を読んだことがあるからだ。当時は筒井康隆が絶賛で文庫の解説も書いてたやうに思ふ。それで読まうかと思つたわけだが、どこが「新」探偵小説なんだか、解りませんでした。先づ、あの、非常に中に入りづらかつた。頁が進まないんだね、言葉の問題で。面倒だから読まないでBook Off に出しちやはう、と何度か思つた。突然、池波正太郎みたいな言ひ回し(池波正太郎のそれがイヤだといふ意味ではないのです)が出て来るのは意図してやつてるのか、意図してるなら読み難くなるだけで、失敗してる。今から12年前に書かれたものだが、携帯電話も出て来るし、当時の風俗や言葉遣ひが扱はれてる中に、「困った愛想笑いを返すさやかである。」(説明するまでもないでせうが、さやかは名前です)なんて書き方が混つてるのは変だよ。馴染めないねえ、オレは。作者と出版社が狙ふ「新」は、少なくともオレには感じなかつた。ミステリーとしても、どうでせう。

2006-05-10

23.Sの悲劇

中町信・青樹社ビッグブックス(used)
Amazonで購入。実にいい状態でした。Amazonでusedを買ふと送料が掛かる。340円かな。だから、本自体は「1円」なんてのもある。これも「1円」。中町信の唯一の短編集だ。氏が双葉推理賞を受賞した「急行しろやま」が入つてるのかなあ、と思つてたけど、違つた。でも、8つの短篇が入つてる。表題作は、まあまあ面白い。中町信の作品を読んだことがあるかないか、その辺で評価の分れるところだね。「著者あとがき」があるから余計な話はしないはうがいいかな。確かに「サンチョパンサは笑う」のトリックは「あれあれ?どこかで読んだぞ、これ」つて思つたし、「312号室の女」はそのまんまだね。最後の「動く密室」は確かに氏の言ふやうに、惜しい。「自動車教習所殺人事件」があるからね、似たやうなシチュエーションで。ただ、ほしかつたんだよね、唯一の短編集だつて、知つてから。すつかり肩入れしてコレクション(?)を始めてからは、外せない、と。本の状態がよかつたから、より一層満足。中身も、ね。氏に興味のない人には勧めません。先づ「模倣の殺意」ですね。もと「新人文学賞殺人事件」を読んで見て下さい。それを読んでどう思ふか。追記:余計なことなんだけど、誤植を見付けた。「裸の密室」の中のP79の下段2行目「佐美江が臆面もなく言ってのけた(略)」となつてゐるが、これは「美佐江」の筈。

2006-05-03

22.裁判官が日本を滅ぼす

門田隆将・新潮文庫(used)
日頃から新聞記事の中に裁判結果が報じられているのを目にして時折、勿論法律の専門家ではないけれども社会人として長く生活してゐれば或る程度の判断が出来るやうな事件の判決に耳を疑ふ、と言ふか目を疑ふことがあつたが、これを読んで氷解した。先づ、民事事件について日本の裁判官は一般常識がない。銀行に騙されてローンを組まれた事件について、判決は被害者に鞭を打つ。集団リンチ殺人事件の犯人である少年が仮名で報じられたのを名誉毀損で訴へた裁判も最高裁まで争はれる始末。殺人を犯して名誉毀損とは、どういふ神経なのかと訝る。山形で起きた「マット死事件」の犯人たちの供述は子どもを持つ親には読むに耐へないものだ。この事件は最高裁で有罪が確定したが、元少年たちは再審請求をしてゐるといふ付記を読み、絶句する。交通事故から奇跡的に命は取り留め、脳挫傷で重体だつた少年が必死の努力でリハビリを続け、定時制高校から全日制に合格した矢先に殺された事件など、犯人たちをぶツ殺してやりたい、と思ふに違ひない。犯人の少年たちは少年法のもとに庇護され、無期懲役や死刑の判決を受けることはない。ここに登場する裁判官たちは人間としてをかしい、狂つてゐる。判決だけでなく、法廷内での言動など、正気の沙汰ではないよ。

2006-04-27

21.バカの壁

養老孟司・新潮新書(used)
どのくらゐ売れたのか知らないけど、大ベストセラーだつた本。どうでもよかつたんだけど、中町信を中心にしたミステリーや小説が続いてるから違ふものが読みたかつた。自ら提起した問題への回答は断定的だけど、それまでの思考の経緯が説明不足で曖昧だから、よく意味が解らない。頭のいい年寄りの繰り言?編集部がインタビューするみたいな格好での聞き書きだ、と始めにあつてガッカリした。なぜ?の答へは、ない。

2006-04-25

20.十四年目の復讐

中町信・講談社NOVELS(used)
新たにAmazon経由で手に入れたものの一つ。近場では氏の作品が手に入らなくなつて来た。実に800枚超の長い小説だけど、それほど苦もなく読み通すことが出来る。例へば休みの日で、まはりの人たちが寛大、もしくは無関心であれば一日で読める。いま目の前で推理されてることを中心に書くといふ、得意のパターンで、これが意外と病み付きになるのだが、殊に展開の中心が会話なのも相変はらずだ。2つのシリーズの主人公である和南城健と山内鬼一が登場し協力して事件を解決する。ダイイング・メッセージものは苦手、と言ふよりあんまり好まない。これにも出て来るが、十四年前の遺書の読み解きは強引だよ。「こしが」のはうは面白いけどね。

2006-04-23

19.黒い家

貴志祐介・角川ホラー文庫(used)
作者が京大出身の人だから、ではないけれども、非常に頭脳明晰な人がコツコツと丁寧に作り上げた小説だなあ、といふのが全体への感想。内容は生命保険に絡む犯罪。ミステリーの要素もあり、一気に読ませる。読み応へは充分だし、面白かつた。但し、最後のはうで高倉嘉子といふ保険外務員が登場するが、これは余計ではないか。それだけのために出て来た人物になつてゐないか。若槻を会社に留める方法はほかになかつたらうか。黒沢恵の猫の一件から、読んでるこつちにも充分予想出来ることに若槻が思ひ至らないのにも無理があると思ふ。金石はなんで殺されたのかの説明も足りない。三善はまあ、解るけど。もともとは森田芳光監督の映画のはうが見たかつた。DVDを一度借りて来たけど、結局見られなくて返す羽目になつた。原作から読んで見るか、映像よりも怖くないだらう、と。やつぱりグロテスクだよねえ、ホラーものは。残酷だし。氏の他の作品も読んで見たいとは思ふ。

2006-04-16

18.グリム童話

鈴木晶・講談社現代新書(used)
副題は「メルヘンの深層」。グリム童話が、実はドイツの田舎の老人たちから聞いた昔話を纏めたものではない、とは意外だつた。グリム兄弟の主に弟のはうが元の話に手を入れたり書き換へたりしてゐたこと、いろんな国の昔話や書物からの引用もあるといふ話は、まつたく知らなかつた。「グリム童話集」は新潮文庫で2冊読んだ記憶がある。「カエルの王様」と「ヘンゼルとグレーテル」がお気に入りなのだが、「カエルの王様」はグリム童話集の正式タイトル「子どもと家庭の童話」の一番最初に載つてゐるさうだ。「赤ずきん」や「白雪姫」や「シンデレラ」はもともとはペロー童話、とは知りませんでした。「赤ずきん」の赤いずきんと「シンデレラ」のガラスの靴はペローのアレンジだ、つてのも初耳でした。ペロー童話は、このBlogの最初に書いた気がするが「三銃士」「ああ無情」と一緒に、子ども向けの世界文学全集のうちの1巻(この全集を揃へてゐたわけではなく、この1巻しかなかつた)に入つてゐて読んだ筈だが、中身は覚えてゐない。「赤ずきん」が狼の腹からお婆さんを助け出し、代りに石を詰めるといふストーリーはやつぱり「オオカミと7匹の子ヤギ」だよねえ。あれ?「3匹の子ブタ」だつけ?兎に角、童話つてのは、純粋な口伝ての昔話なんかではなく、いろんな人が手を加へたものだから、似たやうな結末があつたりするわけだ。ふむふむ。

2006-04-13

17.考えるヒット

近田晴夫・文春文庫(used)
近田晴夫はハルヲフォンで「Come on Let's Go」と「電撃的東京」を持つてゐた。遠藤賢司の「東京ワッショイ」の頃、ムーンライダーズの「青空百景」の頃かな。和物は殆ど聞いてなかつたけど、ハルヲフォンはよかつたね。遠藤賢司も、勿論ムーンライダーズもだけど、特にハルヲフォンには歌謡曲の面白さを改めて教へて貰つた気がする。ここには1997年を中心にした日本のポップスについて屈託のない意見が書かれてゐる。好みが近いですね。ただ「はつぴいえんど」はオレにはフォークぢやなかつた。日曜日の昼頃のラジオでライヴを聞かしてた番組があつて、RCサクセションの「ぼくの好きな先生」(生ギターでやつてたバージョン)も聞いたし、「はつぴいえんど」の「春らんまん」も聞いた。これが結構へヴィーなライヴだつたね。オレもフォークはあんまりね。泉谷しげるはロックだらうな。RCサクセションはフォーク寄りだよね。曲よりも歌詞や歌ひ方が。この本には専門的な用語がかなり出て来る。一気に読んだけど、その辺がよく意味解んなかつた。楽器やる人は解ると思ふ。

2006-04-10

16.死者の贈物

中町信・講談社NOVELS(used)
愈々ストックも終り、残すは「模倣の殺意」の前身「新人文学賞殺人事件」だけ。40数冊ある氏の著作の半分近くを読んだことになる。月刊彦七新聞HPでも書いたことがあるけれども、展開に綱渡りみたいなところがあつて、二転三転してゐるやうに見えるが、それは登場人物たちの思ひ込みに過ぎない、とか。集中的に読んで思ふのは、そこが魅力でもあるな、といふこと。この「死者の贈物」にも危なつかしいところがある。それはたぶん説明不足なんだらうな。氏を巡るサイトの中で見たのかも知れないが、兎に角ストーリー展開の中心は叙述や描写でなく会話だから、例へば殺人事件があつて、それが復讐であつても、かう、気持ちが入らないと言ふか、作品の人物の思ひに入り込めてないから、素通りしてしまふやうな、さういふ面がありますね。ゲーム的、RPGゲームみたいなところがある。全体に仕掛けたトリックなども、やはりゲーム的なセンスだと思ふし、叙述の中にトリックがある、といふミステリーのスタイルは、遊び心がないと出来ないでせう。それをミステリーとしてダメだ、と見る人もゐて、フェアぢやない、などの理由から氏は江戸川乱歩賞を逃して来た。でも、もつと読まれていい作家だと思ふ。勿体ない。

2006-04-08

15.自動車教習所殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
中町作品としては実に地味な作品。最初の事件があつて、続いて密室での殺人が起こつて、しかし容疑者にはアリバイが、……といふ。ちよつと物足りない。これぢや普通のミステリーだよ。破綻もないけど荒技もないわけで、その辺が中町氏の真骨頂だから。癖になつちまふんだなあ。終りのはうに、なんと渋川の阿久津に住んでる人が沼田の自動車教習所に通ふといふ設定があつて驚いた。さうだねえ、渋川と沼田までは前橋までと同じくらゐだらうから15〜20km離れてると思ふ。ま、近場で言へば足利から桐生に通ふやうなもんでせう。30〜40分は見ないと行けないわけだ。これを遠いと見るか近いと見るかは人それぞれだらうが、市内に2箇所(小説の設定年代当時)ある教習所ではなく、敢へて沼田に通ふことにした理由が解りません。中町氏は沼田の出身だから沼田を贔屓してるのかなあ。高校に通ふとか、通勤でならは解るけど、運転免許でせう。近いところに通ふと思ふけどねえ。それに、どうも冬らしいんだよねえ、教習所通ひが。それだけぢやなく、大学四年の女の子が信州のスキー場でアルバイトするから、と言はれて一箇月間、連絡も取られないでゐる親がゐるかなあ。渋川はこの辺の人が思つてるほど雪は降らないけど、沼田は降るよ。積もるよ。どうして沼田にしたの?知りたい。

2006-04-03

14.空白の殺意

中町信・創元推理文庫
もとは「高校野球殺人事件」と言ひ、江戸川乱歩賞の最終候補に残つたものの受賞できなかつた「教習所殺人事件」(その後「自動車教習所殺人事件」)が刊行された年の暮れに出たものだと、折原一氏の解説にある。題名はどうだらうなあ。折原氏はセンスがないと言ふけど「高校野球殺人事件」つて、センス云々よりも中身がそのままだからねえ。矢鱈と殺人事件を付けるのは如何なものかと仰る向きもあるけれども、だつて殺人事件だろ?なんとかの殺意が三つ続くのはセンスはあるかも知れないが逆に芸がなくないかい?中町氏が触発されてこれを書いたと言ふディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読んでみたい。書き方に登場人物たちや読み手の錯覚を促すといふ方法はここでも使はれてゐる。でも、それほどケレン味はないです。だから、なんでかうなの?つていふのもないです。

2006-03-26

13.田沢湖殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
16冊目の中町信だ。これは終盤に入つてからの逆転に「さう来たか、やつぱり」と唸り、該当すると思はれる部分をもう一度読み返し、一応納得はしたけれども、再読だね、一応ストック分の中町作品を読み終へたら。と言ふのは、主に秋葉ちか子に関することで、立ち会へない立会人に関して秋葉はなぜ一言も触れないのか、それと手紙をどこまで読んでたか、で湖畔での対面はかなり違つて来る筈だし、いきなり北海道に行くのも、ピンク電話の番号も作為が見えてしまふ。どつちにしても、こんだけ続けて読む気になるんだから、面白いんだよなあ。

2006-03-23

12.七つの棺

折原一・文春文庫
太田イオンの喜久屋で図書カードで購入。(たぶん解説の立ち読みや誰かの批評の読み違ひ?の)先入観で綾辻行人氏の傾向なのかと思ひ込んでゐたが、少なくともこれは違ふ。密室殺人の茶化しで、痘痕も靨的に、ここがダメでイヤなんだけど好き、といふ茶化し。折原氏の作品は初めて読んだ。ディクスン・カーの名前が頻繁に出て来るけれども、恐らく1冊も読んだことはない。F.W.クロフツだつて最近だから。ディクスン・カーとヴァン・ダインは1冊も読んでない筈だ(変な自慢をするな!)。氏は北村薫氏の高校の後輩なんだとさ。北村薫氏の「空飛ぶ馬」かな、あれは図書館で借りたけど読まないで返した。なんか入つて行けないんだね。惹かれないものがある、としか言ひやうがない。薫序でに言ふと高村薫氏の作品は1頁読めない。最初の1行から先に行けない。頭に入らない。全く違ふ言語みたいだ。読んだことない序でに言ふと、司馬遼太郎と山本周五郎は1冊も読んだことないし、今後も読まないだらう。須田さんには悪いけど、立原正秋もたぶんオレは読まないよ。話が逸れたが、七つは多いね。元は「五つの棺」ださうで、そのくらゐの分量のはうが後味がいいかも。満腹。軽い笑ひの面白さと本格物的な密室の両方が味はへる。

2006-03-19

11.湯煙りの密室

中町信・講談社文庫(used)
「下北の殺人者」「津和野の殺人者」に続くもの。シリーズなのか連作なのか知らないが、他の2作のどつちかの解説にそんな風に出てゐた。なかなか面白かつた。この前に読んだ「社内殺人」よりも気合がはいつた。そのせゐか、残念なところが幾つか見付かつてしまつた。フェアぢやないよ、と思ふ所もあつた。その1.英彦は牛島に高校2年からギターを習つてゐた、と。で、三浪にならうとしてゐるわけだから、丸四年の付き合ひがある。なら、顔見知りでせう。なのに、気付かないのはをかしい。英彦は「近眼」で「風呂に入る時に眼鏡を外す習慣があつた」とは、どこにも書かれてゐない。つまり露天風呂の湯煙の中でも人違ひはしないだらう。まして脱衣室で。これがすつきりしないぞ。その2.同様に、牛島の妹だつて知つてる筈。交際してた、と書いてあるのに、まるで知らない受験生みたいに姉に言ひ、あんな悪戯するか?その3.胸が見えて女だと思ふのはいい。でもバスタオルを巻いてたら見えないし、従業員なら注意するんぢやなの?その4.最後に英彦の置手紙は、確かに後で正直に話す、と言つてるから、曖昧なのは仕方ないけど、これはフェアーぢやないよ。……などと言ひつつ、結構面白く読んだし、性懲りも無くこれからも続けて読むんだからなあ。

2006-03-18

10.社内殺人

中町信・徳間文庫(used)
慣れて来たとは言へ、ちよつとその推理は違ふんぢやなか、と思ふが「これだ」といふ決め手がないから、又しても登場人物の言説に振り回され、いつものやうにその時点で最も有力な容疑者が殺されて、……。仕掛けは最後まで読めないけど、事件そのものが一連のもではない、といふアクロバットや思ひ違ひの騙しが案外癖になる。

2006-03-16

9. 不可解な使者

佐野洋・光文社文庫(used)
「約束」をテーマにした連作短篇集。雑誌連載時は「約束の果て」といふタイトルだつた、と解説にある。一つ読み終へる度に思はず唸つてしまふ。上手いなあ。約束絡みの事件や犯罪に読み手を導いて行く、その持つて行き方が上手い。それと最後の解決の仕方も、よく作られてゐるのに作為を感じない。爽快なミステリーだね。20代の頃、軽井沢で別荘の管理人をしてゐた頃に矢鱈とミステリーを読み漁つてゐて、かなり佐野洋と結城昌治を読んだけど、貴重な酒をチビチビ飲むみたいに読みました。蛇足だが、解説に「当を得ていてかつ洒落ている」と書かれてましたが、「的を射て」ではありませんか?

2006-03-15

8. 飛騨路殺人事件

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
これは意外。仕掛けが読めなかつた。「とか」もずゐぶん減りました。中町氏の蓄へはまだまだあるので、がんがん読むぞ。BookOffだけで見付けてたけど(渋川のBookOffが穴場で状態のいいのが置いてある!)、太田の「ほんだらけ」で3冊見付けた。

2006-03-03

7.津和野の殺人者

中町信・講談社文庫(used)
「下北の殺人者」の次に書かれたもので、こつちのはうが面白かつた。中町作品を手に入れられるだけ集めるつもりになつた。長篇が43作品くらゐあつて、絶版ぢやないのは10作品ないのでは?集めるの大変だぞお!尤も全部読まう、つてワケぢやないから。せめて半分。シリーズものは一応そのうちの一つくらゐは読んで他のと比べたい。因みにこれはシリーズではない。

2006-02-28

6.浅草殺人案内

中町信・徳間文庫(used)
続いてるなあ、中町信。ちよつと中毒かなあ。絶版だらけで重版予定なしだから、あちこち探すし、見付けると買つて直ぐに読む、この繰り返し。無意識にコレクションしてるのかも知れない。つまり最近めつきりレンタル・ビデオを見なくなつたし、新人のCD探しも下火になつてる個人的な状況を考へると、いまは中町信に凝つてゐる、といふことか。沼田出身の人なんだ、つて書いたことあるかなあ。それもあるかもなあ。……で、これは「模倣の殺意」の解説にある作品一覧で見た時に、読んでみたいと思つたものの一つなんだけど、浅草の寿司屋が探偵役で、本の終ひのはうに、モデルとされる人は氏の友人の寿司屋です、といふ意味のお礼の書き込みがある、……のだが、この主人公・山内鬼一さん、寿司屋なのに一度もネタの仕入れに行かないのはなぜ?浅草の寿司屋はさうなの?どこからネタを仕入れるのだらう。注文すると配達してくれるのでせうか。ネタも見ないで?それと、途中「花や」で山内が飲む時、P111「今夜は水割りにしようか。……」と言つてるのに、P114「新しいビールを山内のグラスに注いだ」なんてことが書いてあるのは、……まあ、単純なミスとして無視するか。
これは徳間文庫の書き下ろしださうです。

2006-02-24

5.下北の殺人者

中町信・講談社文庫(used)
これは氏がサラリーマンを辞め、二足の草蛙を脱いだ年に書かれたものだと解説にある。この解説は鮎川哲也の「西南西に進路を取れ」の解説も書いてゐる山前譲といふ人で他でも何度か見たことがある気がするけれども、ミステリーの評論をやつてるだけなのか自分でも書くのか、その辺はよく解らないが、なんとこれで氏の作品を10冊も読んでしまつた。更にこないだ仕入れて来て、都合15冊になるだらう。氏の作品の魅力は読み易いこと。それと仕掛けの面白さ。全体に仕掛けがあるのは「模倣の殺意」とか「天啓の殺意」で、これは読み終へて唸つてしまつたが、登場人物の会話や推理に引き回されてゐるうちに容疑者が殺されて行くといふ仕掛けのパターンが、実は癖になる。この「下北の殺人者」はそれだけでなく、叙述の仕方にも仕掛けがあるが、それはもう予想が付いた。ただ犯人が外れてしまつた。なぜその人物が犯人か、といふ裏付けはきつちり解つてなくても、大抵のミステリーは予測出来ることが多い。が、この登場人物の会話や推理に振り回されて解らなくなつてしまふのだ、氏の作品は。例へば、或る人物が犯人ではないか、と主人公が推理する。すると、いや別の誰かではないか、といふ人物が現れて尤もらしい予測が語られ、そつちが容疑者らしいまま進展して行く、といふのがある。読んでるこつちには、別の誰かだといふ根拠が弱いと感じてゐることが多い。だから、人物の視線で話が進むから、ドンデン返しの連続みたいだけど、そもそもの推理が甘いだけで、余計な死者が出る、といふ印象にもなる。
でも、なぜか氏の作品を探してしまふんだよなあ。絶版が多いからかなあ。

2006-02-16

4.錯誤のブレーキ

中町信・講談社NOVELS(used)
BookOffで立ち読みしてたら目に入つた。ホントに探してたわけではありません。勿論、直ぐ後に西村京太郎氏のコーナーが、だあーッと続いてるから、氏の名前を知らない人は気付かないだらう。しかし、確実に読んでゐる人がゐるのだ。しかも著作は殆ど絶版の筈だから、ミステリィ、それも本格もののファンがオレの生活圏の中にゐる、つてことなんだなあ。会つて話がしてみたいくらゐだ。
ところで、これは氏の最も新しい作品(2000年)である。大筋で展開が読めた。狙ひどころとか。なかなか面白かつたが、解決の部分になつて、意外な犯人にこだはり過ぎではないか、といふ気がして来た。幾つかの作品で矢鱈に容疑者が殺される印象があるが、それは読み手の裏をかく、どんでん返しを見せないといけないんだ、といふ使命感のやうなものがあるからぢやないか。連続殺人でなくてもいいんだし、ミステリーだから殺人だ、でなくてもいいし、謎があつて、それが解明されるまでのサスペンス、どうなるんだ、どうしてかうなつたんだ、があれば充分なのだ。それが最後に「なるほど、それはあり得るなあ」と思はせてくれれば満足なのだ。
「フランドルへの道」はどうなるんだ!第二部の頭がもうチンプンカンプンだぜ!

2006-02-08

3.本陣殺人事件

横溝正史・角川文庫(used)
横溝氏の本も幾つか読んでる。「八つ墓村」「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「悪魔が来りて笛を吹く」、それと「恐ろしき四月馬鹿」つていふデビュー作の入つた短篇集とか。角川映画で取り上げられてた頃かなあ。ただ、あんまり好きぢやなかつたのは、道具立てといふか、おどろおどろしい作りが鬱陶しかつた。別に論理的なのがいいとか、都会的な、現代風なのが好き、とかいふ意味ではなくて道具立てに凝り過ぎた感じがするのがイヤなのだ。凝るのはいいけど、それが見えてしまつたら野暮だ。この「本陣殺人事件」は都筑道夫の「黄色い部屋はいかに改装されたか?」つていふ本で取り上げられてたから、いつか読んでみよう、と頭の隅にあつたのだ。これまで読んだ氏の作品の印象と違つてたのは、他の作品の内容を殆ど忘れてゐるせゐか。でも、いつのまにかゐなくなつた金田一さんが、読んでるこつちには一切知らされないところで何か調べて来て「実は」つてやる、それはなかつた。勿論、奇怪な雰囲気はあるんだけど、ずうつと論理的な印象。これには他に二篇入つてゐて、それもなかなか面白く読んだけれども、「本陣」が一番面白かつた。いまだにメインのトリック、どうやつて殺したかはよく飲み込めないけど。次はいづれ「獄門島」を読まうと思つてる。

2006-02-02

2.剣客商売

池波正太郎・新潮文庫(used)
これで氏の三つのシリーズ凡て第1冊目を読んだことになる。「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」「鬼平犯科帳」。好みは「鬼平」かなあ。死ぬまでには全シリーズ読破出来るでせう。

2006-01-26

1.西南西に進路を取れ

鮎川哲也・集英社文庫(used)
これは22日には読み終へてゐた。「フランドルへの道」とほぼ平行して読んでゐたもので、ほかにも幾つか読みかけがある。
氏の短篇集の一つなんだけど、もしかしたら読んだことがあるかも知れない。と言ふのは、20代の後半に氏のミステリィを読み漁り、文庫で手に入るもの(「死びとの座」は単行本)は長篇から短篇までほぼ凡てを読んでゐる、と頭のどこかに書いてあるからだが、中身をすつかり忘れてゐたので新鮮に読めた。吉田健一が大衆文藝時評で何度も氏を取り上げてゐる。だから鮎川哲也を贔屓にする、と言ふわけではなくて、それは寧ろ後で吉田氏の時評を読んで気付いたこと。ミステリィだなんだと言ふ前に、普通に小説として読めるもので、その小説の中でたまたま殺人事件が起こるに過ぎない、といふ風な説明だつたかな。

2006-01-11

フランドルへの道 (1)

クロード・シモン/平岡篤頼訳・白水社
さて、なにから書けばいいのか、……取り敢へず始めよう。始めの5、6頁を読んだ辺りで、いつも「ああ、もつとゆつくり読める時間がほしい、」と思ひつつ果たせないまま返却日を迎へてしまふ。これを何度繰り返したことだらう。館林の図書館でも4回、いや5回、大泉の図書館でも2回は繰り返してゐる気がする。久しく絶版のままだつたが、遂に去年の秋、白水社が漸く重い腰を上げ、手に入れることが出来た。立て続けに復刻が出て、シモンの本は4冊揃へることが出来た(が、実はもう1冊「アカシア」といふのがほしいのだが、復刻の見込みがない)。そのうち、もつとも早く書かれたのが、この「フランドルへの道」で、きのふどうにか第一部を読み終へたのだ。正直、頭が草臥れた。どんどん頭が悪くなつてゐるなあ。