2006-10-25

53.名探偵の掟

東野圭吾・講談社文庫(used)
どうして東野圭吾氏の本は105円のものが置いてないのだらう。これも300円。みんなそのくらゐだ。それでも売れるつてことか。まあ、状態がいいのが多いけど。これは折原一氏の「七つの棺」みたいなもので、あつちは全部密室だつけな。ちよつと調べて来るか。よつこらしよ、と。……さうだね。「密室殺人が多すぎる」つてタイトルの上にある。……おつと読み返してたらスリープするところだつたぜ。折原氏と違ふのは扱つてるのが密室だけぢやなく、推理小説のいろいろなパターンであることと「白夜行」とはまるで違ふのが面白い。

2006-10-17

空白の殺意(再読)

中町信・創元推理文庫
カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読み終へて直ぐ一気に再読したものの、コメントを書くのが億劫だつたので暫く「下書きとして保存」してゐた。いきなりこの記事が登場するので驚かれるかも知れない。最初に読んだ時はこんな風に書いてる。──氏が触発されてこれを書いたと言ふディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読んでみたい。書き方に登場人物たちや読み手の錯覚を促すといふ方法はここでも使はれてゐる。でも、それほどケレン味はないです。だから、なんでかうなの?つていふのもないです。──登場人物たちが錯覚を促してるわけぢやあないでせうに、何言つてんだろ。人物の言動が読者ををかしな方向に導くのだよ。これは群馬県高崎市が舞台で、オレには殆ど関心がない高校野球の話が結構重要なポイントになつてゐる。もともと「高校野球殺人事件」といふ題名だつたからなのは、前にも書いた。トリックの部分は確かにカーのそれと同様に作者に誘導された思ひ違ひなのだが、つまり注意深く読めば疑問として残るから、オレみたいに「やられた」とは思はないだらうが、カーのはうは主人公が犯人として疑はれてるので少し違ふなあ。どうして館林なの?つてのも残る。太田や足利ではダメなのか。

2006-10-14

52.皇帝のかぎ煙草入れ

ディクスン・カー/井上一夫訳・創元推理文庫(used)
中町信氏の「空白の殺意」(=「高校野球殺人事件」)のあとがきに、この作品みたいなものが書きたかつた、と出てゐて、ディクスン・カー(=カーター・ディクスン)は1冊も読んだことがなく、いづれ本屋で思ひ出したら買つて読まう、みたいなことを4月の「空白の殺意」のところで書いてる。太田のほんだらけで見付けて300円だつたけど、状態がすごくよかつた。始めはどうにも読み難くて、例のダメなタイプの文章ではないんだけど、言動以外の記述に癖があつて慣れるまでに20〜30頁必要だつた。読んでくうちに思ふツボ。ロウズ家の誰かに違ひないと考へたワケだ。ところが、……肝心のところを読み返し、確かにさう書いてあるぢやアないか。確かにこれは中町的だ。次はもう一度「空白の殺意」を読み返すことにしよう。

2006-10-06

51.白夜行

東野圭吾・集英社文庫(used)
この分厚さに先づ挑みたかつた。2冊、3冊と分かれたものでもいいのだが、出来れば1冊で分厚いのがよかつた。それと「レイクサイド」が面白かつたし、裏に書かれた粗筋で読んでみたくなつた。半分くらゐまでは淡々と進むので、それぞれの章ごとに本を置くことが出来たけれども、探偵の今枝が登場する第十章からは早く先を知りたくて止まらなくなつてしまふ。最初の殺人から残されてゐる謎に、主人公2人の成長に併せて燻つてゐた疑問がちやうど飽和点に達するからか、探偵の謎解きが始まつて一気に爆発するのかも知れない。この分厚さに匹敵する読み応へがある。まるで登場人物たちの19年間に付き合つた気がして、本を置いてホッと溜息をついたほどだ。この主人公2人の人物像が生半可なものではないので、オレには最終章の中程で起こる美佳への仕打ちは行き過ぎだと感じてしまふ。それだけオレが甘いのだらう。つまりこの2人は魂を売つてゐる。優しさや弱さは死を意味する、と信じてゐるのだらう。最後の最後で、雪穂はキッパリ桐原を知らないと言ひ切つて、この暗く重たい小説は終る。──もう一度ざつと読み返したいところがあるので、そしたらまた書き加へるかも知れない。
↑ 気になつてゐたことを箇条書きにしてみると、1.質屋の主人、桐原洋介を殺した凶器はなにか。2.パソコン・ゲームのデータが流出した経路は。3.倉橋香苗への疑惑はどうなつたか。4.雪穂の鈴つきのカギについて本人が漏らしてゐた筈だが、……で、該当するところを読み返して得た答へは、1.は恐く鋏だらうと予想してゐて、亮介の胸に刺さつてゐるのを見た笹垣が「彼の人生を変えた鋏だ」と言つてゐるから間違ひないだらう。2.は推測の域を出ないが雪穂には可能だつたらう。3.はすつきりしないままだ。篠塚の個人的な経緯から気が重いから問ひ質さない、といふことらしいが、部費の一部が部長である篠塚の知らないうちに引き出されてゐるのだから、警察に届けるかどうかは別にしても、ダンス部の部長として当人と話すくらゐはしないとをかしくないか。使途不明金なんだから、聞けるはずだ。尤も、さうなればそこで物語は少し違ふ展開になるだらう。4.は探すのに一番苦労した箇所。第四章の終りに出て来る。ここでもし中道がこの事件に更に興味を抱いて調べたら、田川はその鈴の音が気になつてゐたのだから、そのことを漏らすだらう。さうなるとまた違ふ展開になつたかも知れないのは、この時点ではまだ質屋殺しの事件は時効になつてはゐないからで、……(06.10.07)