2007-07-30

80.ガイアの科学 地球生命圏

J.E.ラブロック/スワミ・ブレム・プラブッタ訳・工作舎
ガイアとは生きてゐる地球、生命体としての地球──さういふ意味だと漠然と思つてゐたが、P36に「地球の生命圏、大気圏、海洋、そして土壌を含んだひとつの複合体」と定義されてゐるし、ガイア仮説とは、地球、大気、海洋の物理的化学的条件がかつても今も生命自体の原則によつて積極的に生命に相応しい快適なものに保たれてゐる、とする仮説だと巻末の用語定義にある。つまり、生命と惑星(この地球)の条件は別々に進化したわけではなく、生命の存在と大きく関はつてゐると言ふ。地球に生命がなければ、この惑星は火星や金星になつてゐた、とも。大気汚染などにも触れてをり、オゾンの破壊──減少についてはかなり楽観的だ。化学の説明が覚えられなくて、意味がよく解らないところもあつたが、概ねそんなところだ。予想してゐたほど難しくはなかつた。シェルドレイクの「生命のニューサイエンス」のはうが、よつぽど厄介だつた。

2007-07-22

79.国家の品格

藤原正彦・新潮新書(used)
「バカの壁」ほどではないが、読まなくても一向に差し支へない。現在、世界が陥つてゐる精神面での荒廃は、論理性や合理性の尊重・偏重が原因であり、修復するには先づ「武士道精神」を復活させるべきだ、といふ意味のことが書いてある。論理だけでなく、情緒と形を重んじろ、その尤も端的なものが武士道精神である、と。しかし、この武士道は新渡戸稲造の武士道解釈に基づいてゐるさうだ。武士道は素晴らしいものであり、なにしろ武士は貧しかつたが、農民(町民だつたかな?)から尊敬されてゐたのだ、と書かれてゐたのがどこだつたか、探したけど見つからないのだが、後半に入つて読むのにかなり違和感があつた。よつぽど暇だつたら、読んでみるのもいいかも知れない。

2007-07-17

模倣の殺意(再読)

中町信・創元推理文庫
これはやつぱり面白い。二度目、この前の状態の「新人文学賞殺人事件」も読んだから三度目になるわけだが、面白い。センテンスが短く、東海林さだおみたいに行替へが早いから、スラスラ読めてしまふ。「とか」はあんまり気にならなくなつた。この仕掛けはホントに意外だつた。そんなのありかよ、と思ふけど、あり得ないとは言へない。まだここでは「あの人が犯人だ」と登場人物が激しく独断的に(読者のはうが寧ろ「おいおい、そこまで言つて大丈夫かい?」と心配するほど)思ひ込み、刑事さながら問ひ詰める、といふ展開は表に出てないけど、柳沢邦夫を疑ふ津久見伸助にはその兆候がある。

2007-07-13

飛騨路殺人事件(再読)

中町信・TOKUMA NOVELS
二年くらゐ前に読んだから、殆ど忘れてゐたけれども、登場人物の会話を中心に推理が進むといふ、中町信の定石。だから後半で真犯人は誰かといふ辺りで、強引な推理と言ふか、さう決め付けるのはまだ早いでせうに、とか、あの腕時計のことはどうなつたの、とか、どうやつて南条美雪を突き落としたのか説明がな〜い、とか、殺人犯を別人と思ひ込んでた強盗犯人が、なんで脅迫状の下書きの一行目の頭に新田多岐子と書いたのか、など、疑問が残るのだ。前に読んだ時の感想はどうだつたのか。かういふところが中町信の魅力でもあるのだが。作家専業になる前、1988年以前のはうが充実してる、といふ折原一の意見に賛成。「模倣の殺意」でも読み返すか。

2007-07-08

78.迷宮の美術史 名画贋作

岡部昌幸(監修)・青春新書INTETLLIGECE
明治維新に関する新書を読んでゐたけど、途中で人名や用語、事実関係が頭に入らなくなつて、これが手に入つたので読み始めた。贋作には興味があつた。特にこれにはフェルメールの贋作で知られたメーヘレンの話が出てるので半分くらゐ一気に読み進んだ。フェルメールは大好きで、中央公論から出てゐる「フェルメール全作品」(25年ほど前で43,000円!よく買つたよなあ、今は絶版)も持つてゐるし、国外持ち出しが最後だと言はれた「青いターバンの娘」の実物を家族連れで大阪まで見に行つたものだ(懐かしいなあ)。勿論、スカーレット・ヨハンソンが出てゐた映画「青いターバンの娘」もDVDで見た。HPでその感想は書いてるから繰り返さないけど。メーヘレンだけでなく、贋作の実作家や贋作を画策したり販売した画商の話、世界中の美術館に贋作が真作として展示されてゐる可能性もある、とは面白い。国立西洋美術館だつて騙されちやふんだから、素人なんて一捻りだらう。偽物か本物か、有名か無名か、どつちが偉いか、貴重か、さういふ基準で絵を見たら、さうなるよな。なかなか面白かつたけど、もう少し詳しく、また図版での比較ももつとあつたらいいのだが、新書では限界ですかね。