2012-11-30

ヒラリー・ウォー/山本恭子訳「失踪当時の服装は」創元推理文庫(500・used)エド・マクベインの87分署シリーズよりもまへに書かれた警察小説。1952年の作。章立てではなく、日を追ふ形で進む。行方不明になつた女子大生を調べる警察の動きがドキュメンタリーのやうに書かれて行く。署長のフォードとバートン巡査部長とのやり取りはちよつと聞き苦しいところもあるが、誰が真犯人なのか、女子大生はどうなつたのかなどの謎解きの部分もあり、名探偵が一気に解決する本格物とは違つて現実味があつて面白い。真犯人を捕まへに行くところで終るのが、ちよつと残念だつた。amazonでヒラリー・ウォーの本を調べたら絶版が多くて3冊中古を纏めて購入したうちの1冊。状態はかなり焼けてゐるけれど、まあまあ。P312、フォード署長の長い台詞の中に「柔道なんてものは、空手で三秒間に人が殺せる」といふ発言があり、柔道と空手がごつちやになつてる。当時のアメリカ人にとつては、そんな認識だつたのだらう。

2012-11-27

エド・マクベイン/井上一夫訳「警官嫌い」ハヤカワ文庫(499)まへから読んでみたいと思つてゐた87分署シリーズで、しかし本屋で探すとなかなか見つからない。amazonで購入。1956年に出版されたものだが、古臭くは感じない。トリックは最近読んだクリスティの作品に似たのがあつた。どつちが先かは、どつちでもいい。本格ものではないので、トリックや真犯人(ここでは実行犯のこと)の登場の仕方などは緩い。次が読みたいとは思はなかつた。鬼平犯科帳をちよつと思ひ出した。鬼平、読みたくなつた。

2012-11-24

佐藤秀峰「新ブラックジャックによろしく」1〜9小学館(490〜498・used)最終巻がなかなか手に入らず半年くらゐ手つかずだつた。前作の続きといふことで期待して一気に読んだが、腎移植に関する物語なのだつた。確かに表紙をよく見れば、巻数の左に【移植編】と書いてある。エゴの塊、斉藤英二郎が多くの人たち(恋人、家族)を巻き込んで大暴れする。実際暴れるワケぢやないけど、本人は苦しんだり悩んだりしてると思つてるやうだが、実際、腎臓を一つ赤木──この人もかなりのエゴイストで曲者だが──に差し出したくらゐで、なに一つ傷つくこともなくやりたいことをやり通したのは大暴れと言つてもいいだらう。読後にいろいろ思ふところ、感じるところもあり、具体的には纏まらないので、後でもう一度読んだらはつきりするかもしれない。何れにしても、その世界に引き込む力は凄いね。絵も緻密だし。

2012-11-21

望月峯太郎「お茶の間」1〜3講談社ミスターマガジンKC(487〜489・used)。バタアシの続き。柔らかい線と固いぎこちない線が同居してる。全体に画面が白つぽくなつてる気がする。これを読むとバタアシ金魚がどういふ話だつたのか解るやうな気がする。

2012-11-20

望月峯太郎「バタアシ金魚」1〜6講談社ヤンマガKCスペシャル(481〜486・used)望月峯太郎のデビュー作。、amazon経由でセットで買つた。先づ、絵がうまい。バイクなどの機械もうまい。座敷女や鮫肌男、ドラゴンヘッドから読み始めたので、比べるとずゐぶん描線が柔らかいな、と思つた。手早くササッと描いたやうな印象を与へる。話の内容は今ひとつ解らない。

2012-11-10

黒川博行「蒼煌」文春文庫(480・used)日本画壇の内部が描かれてゐる。金と名誉に突き動かされる老齢の画家たち。取り巻く弟子、画商など。芸術院会員を狙ふ室生を中心に描かれる。室生は果して会員になれるのか、といふのがミステリ的な要素と言へるかも知れないが、敢てミステリと呼ばなくても充分楽しめる。人物が生きてゐる。室生の師匠の妻・船山淑、夏栖堂の殿山、弟子の大村、対抗するライバル稲山とその家族など、見事だと思ふ。表紙は奥さんの黒川雅子。

2012-11-06

黒川博行「ドアの向こうに」創元推理文庫(479・used)大阪府警捜査一課もの。警察小説でありながら本格、謎解きでもある。フロストに似てるかも知れない。兎に角、読み始めたら止められない。

2012-11-03

ジョルジュ・シムノン/秘田余四郎訳「リコ兄弟」ハヤカワ・ミステリ(478)ギャングの世界に生きる3人兄弟の話で、一番下のトニィが結婚して堅気にならうとして行方を眩ます、長男でその世界にどつぷりつかりそれなりの地位にあるエディがさらに上の親分からの命令で弟を探す。日本の任侠映画みたいな設定なんだけど、娯楽の要素がないので重苦しい。しかもシムノンは人物の行動について答へを出さない。例へば始めのはうでエディ(殆どエディの目を通して語られるのだ)が彼の親分であるボストン・フィル(オーケストラにかけた洒落かと思つたが違ふみたいだ)からの電話で、どうしてフィルは何の意味もない沈黙を挟むのだらう、と疑問に思ふのだが、なぜかは語られない。ほかにも幾つもの箇所で、彼はかう思つてゐるのだらうか、これはかういふことなのか、とエディは自問するけれど答へはない。だから最後にトニィはどうなつたのか、一切書かれない。予想はつくけれども。