2014-10-30

584.偽りの群像

中町信・光文社文庫。ずつと読んでみたいと思つてゐた中町信の「急行しろやま」と「偽りの群像」を読むことができた。どつちも鮎川哲也のアンソロジーには収録されてゐるさうだが、氏名義の作品集の形では出版されてゐなかつたものだ。「急行しろやま」は第4回双葉推理賞を受賞した作品。これは期待通り、面白かつた。「偽りの群像」は処女作である。これも良かつた。ただ題名がピンと来ない。この本にはもう一つ「愛と死の映像」といふ双葉推理賞受賞後第一作も収録されてゐる。これは懸け離れた場所と事件が実は一つの犯罪である、といふ意外な展開なのだが、ちよつと強引な感じがした。
蛇足ながら、「愛と死の映像」のP218に「坂口刑事は半分ほど食い散らした天丼の汁を、音をたててすすっていた」といふ記述がある。天丼の汁だよなあ、音をたててすするほど汁があるんだらうか、と思つた。天丼だよなあ。麺類ぢやない、ご飯もの、カツ丼や親子丼と同じ類ひの丼物だよなあ。割烹料理屋の丼はさうなのか、金沢の丼はさうなのか。と、P215には「刑事たちは一番安いどんぶり物を注文した」つて書いてある。天丼つて、丼物で一番安い部類ぢやないと思ふんだけど。玉子丼とか、親子丼とか、カツ丼のはうが天丼よりも安い店のはうが多くないか?ま、たいしたことぢやないんだけど、かういふ詰まらないことが気になるんだなあ、どうでもいいやうなことが。

2014-10-22

583.おたのしみ弁当

吉田健一・講談社文芸文庫。買つたのが今年の3月で、イオン太田の喜久屋書店でだつた。恐らく直ぐに読み始めてゐるはずだから、半年以上掛かつてしまつたワケだ。まあ、その間、他の本も読んでゐるから掛かりきりではなかつたけれども。著作集などに未収録のエッセイを集めたものだが、ほかにもう一冊、やはり講談社文芸文庫に「ロンドンの味」といふのがあり、解説を読むと他にも見つかつて「英国の青年」といふ題で出るらしい。余計なことだが、吉田健一は全集のやうな書簡や未完成の下書きのやうなものまで集める形式を好まなかつたのではなかつたか。だから氏の意を汲んで著作集や集成といふ、本として出版したものだけを選んでゐるのだらう。集英社の著作集には補巻として死後に出版されたものや単行本に未収録のものを幾つか収めてはゐるけれども、かういふ未収録のものを集めて出すといふのはどうなんだらう、読むはうは興味があるから読みたいけど。序でに言ふと、まへにも書いたけど講談社文芸文庫つて、なんでこんなに高いんだらう。これ1,400円(税別)だよ。単行本並みだよなあ。

2014-10-07

582.暗闇の殺意

中町信・光文社文庫。全部で7篇収められてゐる。そのうち3篇は「Sの悲劇」といふ新書版の短篇集にもあつて読んだことがあるのだが、一通り最初から最後まで読んだ。久し振りの中町信で楽しめた。最後の「動く密室」や「自動車教習所殺人事件」(いまは創元推理文庫で「追憶の殺意」として復刊)みたいに自動車教習所を舞台にしたミステリつて他にあるんだらうか。今度調べてみたい。