赤川次郎がクリスティの「そして誰もいなくなつた」の解説で名前を挙げてゐたP・D・ジェイムズ「女には向かない職業」小泉喜美子訳・ハヤカワ文庫(220)を読んだ。amazonのレビューでも評価が高いし、幾つかのミステリーのサイトでも褒めてるし、解説はもちろんだ。が、しかし、コーデリア・グレイといふ女探偵が一応は主人公だが、これは別の、例へばアダム・ダルグリッシュ警視シリーズの外伝、オマケのエピソードみたいなものではないか。描写が細かいのと言ひまはしに凝つてると言ふか、ハードボイルド的な読み易さはない。始めのはうで何箇所か意味が取れない記述があつた。例へば、P26の3行目「年配の人々というのは、どんなにひねくれた、あるいは衝撃的な意見でも受け入れるだけの能力を持っているように見えるのに、単純な真実を聞かされて気を悪くしてしまうのでは、包容力などはどうなっているのだろうとまたもや首をかしげた。」いま写しながら読んでも意味がよく解らない。尤も、この意味が解らなくても、ストーリーには関係ないのだが。それと漢字を敢へて平仮名表記にしてるのがあつて、逆に読み難い。題名は内容にぴつたりで、上手いと思ふ。話は面白いし、赤川氏の言ふやうに文学的かも知れない。でも、他の作品を読みたいとは思はなかつた。凝つた文章は意味が解り難いし、細かい描写は鬱陶しく感じるタチなのだ。さう、ケンブリッジの町並みなんか丁寧に描写されても、オレのイメージは文字を追ふ速度に着いて行けないのだ。
蛇足ながら、訳者は生島治郎のまへの奥さんで推理小説も書いてる人だ(確信がなかつたので、wikiで確認済)。
2009-09-20
なにごとにつけ、反対意見には耳を貸すようにしたいものだ。タバコはホントに有害なのか。それで以前「タバコ有害論に意義あり!」といふ本を読んだわけだが、今回は「スポーツは体にわるい」加藤邦彦・光文社カッパサイエンス(219・used)。ワイルドワンズの加瀬邦彦と一字違ひ!副題に「酸素毒とストレスの生物学」とあつて、まあ、要するに運動すると活性酸素が体内に多量に発生する──それにはビタミンC とE、βカロチンがいいさうだ──し、運動はストレスのもとである、といふことだ。成人病予防に運動療法なんてナンセンスだ、と。スポーツ選手は寿命が短いといふ例を出す。しかし、スポーツをするのと運動選手になるのとは同じぢやない。短いと言つたつて5〜6年の話だ。適度な運動といふ曖昧な、個体差のある話を寿命といふ基準で推し量るのが適当だと言へるのかどうか。目が覚めるほど新鮮な、コペルニクス的展開はなかつたが、一つだけ、人間の体内時計は25時間周期のリズムになつてゐる(P230)といふのは初耳だつた。かつての地球は自転にそれだけ時間が掛かつたからださうだ。
2009-09-16
R・D・ウィングフィールド/芹澤恵訳「クリスマスのフロスト」創元推理文庫(218)は抜群に面白かつた。帯にいろいろ書いてあつて、「英国ミステリの傑作フロスト・シリーズ」だとか、「このミステリーがすごい!」「週刊文春」ミステリーベスト10全作第1位」だとか、ゴタゴタ。かういふ風に書いてあるのは嫌ひなんだ。却つて敬遠してしまふんだなあ。これは性分だから仕方あるまい。もつと早く読みたかつた。フロストは全部読もうと決心したほどだ。P66でフロストが登場してからが特に面白い。なので、か、どうか、最初に出て来るパウエルの名前を忘れてゐた。辻褄なんかどうでもいいくらゐ、どつぷり話に浸かつて楽しんだ。正にフロスト気分、フロストになりたい気分だね。
2009-09-07
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