2007-01-26

67.問ひ質したき事ども

福田恒存・新潮社
これは1982年に買つたものだ。裏に黒い万年筆でさう書き込みがある。この書き込みの習慣のために恐らく死ぬまで読む事もないだらうと思はれる本があつても棄てる以外に処分の方法が見付からず持て余してゐるのだが、……。それから続けて「知る事と行ふ事と」、「人間不在防衛論議」の2冊を購入した。この2冊は2004年に自転車事故の頃に既に読んだ。これが後になつたのは、こつちのはうが著作として新しいからだ。国防に関する記述と韓国の政治を巡るものが多い。勿論、国語、言葉に関するもの。それが目的で買つたワケだ。なにしろオレは福田氏の「私の国語教室」を読み、歴史的仮名遣ひを使用することにしたのだ。言つてみれば師匠である。

2007-01-24

66.貧乏クジ世代

香山リカ・PHP新書(used)
副題として「この時代に生まれて損をした!?」とある。なぜこの本を買ひ、かつ読んだのか、読み終へたこつちが「!?」だつた。なにが言ひたいんだらう「??」。テレビでたまに見掛ける精神科医で、名前がリカちやん人形の(たぶん)本名を借りてること、オタク擁護の本がある、などの予備知識しかないが、視点がブレてないか。と言ふか上つ面過ぎないか?70年代に生まれた世代像を分析したり、男女雇用均等法などに触れながら女性の雇用の現実などにも言及してるけど、一体何が言ひたいんだらう。生まれた時代が悪かつた、昔はよかつた、なんてことはどんな世代でも考へる、いや、若いうちはさうやつて逃げ道を見付けるワケだ。それを口にするかしないか。口にする世代、人間を相手にしてその世代の特徴はなどと考へても仕方がないだらう。敗戦、テレビの登場、家庭電化製品の氾濫、東京ディズニーランド、ファミコン、携帯電話、この辺が大きく関はつてるんだよ、この腐敗した日本の現状は。生活が変はつたんだ。それは人間の感じ方、見方、考へ方を変へる。もともと明治維新から何かが大きく変はつて、それが実は付け焼き刃だつた、といふことなんぢやないか。……明治維新に就いて、その前後の状況に就いてもつと勉強してからでないと、これ以上は言ひやうがないけど。少なくとも「バブルの崩壊」なんて関係ないよ。この言葉は既に中身がなくなつてる、幻想だよ。

2007-01-21

65.悪い食事とよい食事

丸元淑生・新潮文庫(used)
小説を読む気になれなくて漫画を続けて買つて読んだ。でも活字が読みたくて、BookOffでパラパラ捲つたら「腰痛者を作り出す食事」なんてのがあつて、続けて「高血圧を予防するカルシウム」が目に付いて買つた。読み易いのでスラスラ読んだけど、あんまり内容は覚えてない。数種類の、精製してない穀類と海藻と豆類などが何度も出て来たのは覚えてる。腰痛はカルシウムの不足。高血圧にもカルシウム。たださあ、食べ物つてのは栄養だけで考へられない、見た目とか味とか、旨い不味いがあるし、……吉田健一氏の言ふやうに、旨いと思つて食べるものが体に悪い訳はない、といふ意見、実に納得するんだよなあ、吉田氏が言ふからなんだけど。野菜とか、レタスだのピーマンだの茄子だの胡瓜だのトマトだの、急に食べたくなつたりするし、豆腐とか昆布とかもスーパーで眺めて「あ、食べたい」と思ふことがあるから、体が必要とするものは「食べたい」と思ふんぢやないのかね。そんで、それは旨いと感じるんだよ。栄養の知識はあつたはうがいいけど、それが嵩じると「あるある大辞典」みたいなことに、……ま、この本はまた後で時々パラパラと捲るかもなあ。この人は「赤い月」とかいふ小説で、むかーし芥川賞の候補になつた人でせう?違ふ?……どつちでもいいんだけど。

2007-01-18

64.鮫肌男と桃尻女

望月峯太郎・講談社ミスターマガジン(used)
一緒に「バイクメ〜ン」も買つて読んだけど第1巻だけなんで触れない。こつちは一応1巻完結なので。序でに言ふと、吉田戦車氏の「伝染るんです」の2と3、業田良家氏の「ヨシイエ童話6 LOVE男」も読んだ。望月氏は「バタアシ金魚」と「ドラゴンヘッド」だつけかな。どつちも読んでない。絵は好きだね。好きになれない絵つてのは、あるから。植田まさし氏は結構買つて読んだけど絵そのものは好きになれない。桃尻娘つてのがある。橋本治氏の小説だつたか。こつちは女だけど、桃尻つてところが頂いてるよな。鮫肌だつて、ビックリハウスだかの周辺に鮫肌文殊といふ人がゐなかつたか?ダメだよ、頂き物ばかりぢや。特別話に工夫があるとは思へなかつたけど、……。

2007-01-17

62.63.源さん刑事 上・下

業田良家・竹書房文庫(used)
「ヨシイエ童話」の1つで、去年読んだ「世直し源さん」もさうだつた。業田氏は「執念の刑事」といふのを読んだことがある。館林で一人暮らしをしてた頃だ。もう20年も前だなあ。あの頃よりもずゐぶん絵が、線が巧みになつてると思ふ。

2007-01-08

61.氾濫

伊藤整・新潮文庫(used)
今年最初に読み終へたこの本はAmazonで手に入れたもので送料別で500円。昭和39年版で頁もすつかり焼けてゐる、だけでなく文字がたまに抜けてたり判読し難かつたり、現代仮名遣ひの中に凡そ十数箇所「いふ」などの仮名遣ひが紛れてゐたり、「來」「眞」などの正字が幾つかあつたりと、なかなか古本らしくて面白かつたが、作者である伊藤整氏の作品はいまは殆ど書店に並んでゐないといふことをご存知だらうか。古本屋にも、ない。少なくとも「若い詩人の肖像」とか「火の鳥」とか「鳴海仙吉」、この「氾濫」(ベストセラーになつたこともある!)は置いてない。「女性のための十二章」とかいふのがあるくらゐ。ま、そんな事情はどうでもいい。兎に角、伊藤整氏は現在忘れられた小説家であるらしい。それを残念なことである、とは実は思はないのである。なのに、わざわざ探して340円の送料を払つて手に入れたか。──それは、若い頃、このブログを始めた頃に書いた、本を読み始めた10代の中頃に「若い詩人の肖像」(棚にある文庫を見ると1972年11月6日に読み始め同月16日に読み終へたと鉛筆で書いてある)を読み、感銘を受けた記憶。そして知識として、この「氾濫」は中年の、確か50代の男女の絡みや性的なものも含めた恋愛を扱つた小説だと知つてゐたこと。更にこれを第1作とした三部作と呼ばれるものの残りの2作「発掘」、「変容」が入つた伊藤整全集の1巻を高校時代からの友人田中氏から貰つてゐて、次になに読むかなあ、と本棚を眺めてゐた時に手に取り、たまたまパラパラと捲つて、ちよつと面白さうだ、と感じたこと。これらがどういふ風に作用した知らないが、Amazonでパトリシア・ハイスミスの作品を検索してる時に伊藤整の「氾濫」が頭に浮かんだのだ、たぶん。でもまあ、迷つたね。高いもの。500円。当時の定価が裏にあつて、180円だから。ほんだらけとBookOffを回つたけど、ない。さうなると急にほしくなるんだ。中町信の時もさうだつたし、パトリシア・ハイスミスもさう。で手に入れて、といふ長い経緯はここでお終ひにして、どんな小説なのか。海外でも名前を知られた学者であり企業の重役でもある人物を中心にその家族、妻と娘の身から出た錆的ゴタゴタ、対称的な人物で旧華族の友人の俗物ぶりや女漁り、大学の実情、学閥、飲み屋のホステスさん事情、若い功名心の強い大学助手などが描かれ、人生の一部に付き合はされるワケだ。長篇はみんなそんな風に人物たちと一緒に時を過ごすやうに読みたいもので、これはさう読めた。けれども、どうにも欲・欲・欲の世界であつて、主人公の痛みは自業自得だとしか映らず、また中年男女の閨房描写もなんだか薄汚く感じる。ラストで主人公は自分のネガみたいな若い助手に復讐されるやうな形で娘を奪はれる、嫁に出すのだが、この辺が急ぎ足気味で畳み込んでる気がしないでもなく、また振り返ると結末から組み立てられたやうにも思へる。