2013-10-25

557.鬼平犯科帳(五)

池波正太郎・文春文庫(used)。これは(四)と一緒に買つたのだが、正解だつた。次が読みたくて堪らなくなるのだ。因みにこれも新装版。「深川・千鳥橋」でも万三に金を渡してお元と一緒に籠で送り出すところなんか涙が出さうになる。男気といふのですかねえ、「狂賊」の九平とのやり取りとか、それから(四)で配下の佐々木新助への心遣ひとか、実にカッコいいのだよ、鬼平は。あー、ビデオで見たい、それも最初の、ほら八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)がやつてたのが見たい。二代目中村吉右衛門でもいいんだけど、……。

2013-10-20

556.鬼平犯科帳(四)

池波正太郎・文春文庫(387・used)。このシリーズの(一)だけ活字が小さい。続く(二)、(三)は運良く新装版で、これも新装版なので活字が少し大きくなつてゐる。年には勝てなくて、昔の活字サイズは読み難い。しかし、これは読み始めたら、途中でやめられない。例へば「5年目の客」の最後で平蔵がお基地をお目溢しにするところ、「血闘でおまさを独りで救出するところ、「夜鷹殺し」の最後で粂八たちに労をねぎらうふところなど、全くもつて鬼平はカッコいいのだよ。

2013-10-15

555.鏡の国のスパイ 灰姫

打海文三・角川書店(used)。手に入らないもの、と半ば諦めてゐたから探す気にもならなかつたが、amazonで検索したら古本が見つかつた。送料を含めても定価より少し安いので思ひ切つて買つた。状態はとても良かつたが、なかなか読めない。入つて行けない。最初のはう、P18くらゐまでで何度も挫折。誰が主人公だかわかんないし、符牒が飛び交ふ。読み難い。北朝鮮絡みのスパイ活動や情報作戦などの記述がちつとも頭に入らない。これは横溝正史賞の優秀作に選ばれた打海氏のデビュー作で、最後に作者のあとがきと選評が載つてゐる。強く推してゐるのは夏樹静子で、批判的なのは先日亡くなつた佐野洋。「はいひめ」と読んでしまふが「キム・チエヒ」と本文中にルビがある。灰姫はシンデレラかと思ふが、どう繋がるのか、無関係なのか、わからない。人物の関係も判り難いので、主人公に寄り添ふ恰好で物語に入れない。この次に「時には懺悔を」が書かれたワケだ、と思ふと、その後の作品を読んでゐるものにとつては貴重だ。

2013-10-09

554.愚行録

貫井徳郎・創元推理文庫(used)。どうしても「慟哭」と比較してしまふ。やりきれない部分は同じやうにあるんだけど、厭な感じがある。当然、冒頭の新聞記事と、扱はれる殺人事件の被害者をめぐるインタビューはどこかで交錯するんだらう、といふ予想はある。その収まり方が不快だ。解説もなんか的外れな気がする。証言者たちの発言は確かに愚かと呼ばれても仕方あるまい。それはまだ人々が愚かといふ貴い徳を持つてゐて、は谷崎だけど。作者はこの殺人事件も含めて愚行と言つてるやうに取れる。小説の中であつても、殺人を愚行で括るのは不遜だらう。「慟哭」に感服したので、貫井作品はついつい読んでしまふが、わたしにとつては未だに超えるものに出会はへない。