2016-05-16

647.刑事の墓場

首藤瓜於・講談社文庫(used)。なかなか面白かつた。作者の名前は知つてゐた。珍しい名前で、苗字は兎も角、瓜於が本名かどうか知らないが、江戸川乱歩賞を受賞した「脳男」といふのを本屋で文庫を見たことがある。カバーの絵が気味が悪く、土屋隆夫の「影の告発」に迫るものがあつて、見送り。
これは刑事物で、基本的に警察小説、刑事物は好きなので購入。一気に読んだ。刑事の墓場と呼ばれる動坂署が舞台。この動坂署が始め愛宕市にあるのかと思つてゐたら、そこから電車で少し離れた吉備津市にあるのだつた。愛宕といふ地名が出て来るのだが、これは「おたぎ」と読む。どうも架空の地名らしいのでどう読んでも構はないのだらうが、ちつとも覚えられなくて、出て来る度に「あたご」と読んでしまひ、あれ、違ふんだ、なんだつけと最初にフリガナがある頁に付箋を貼る始末。人物名も風変りなのが多く、被害届を出す若い女は小須田里香といふ。「こすだりか」。コスタリカか。その相手は相磯均で「あいそひとし」と読む。鹿内と書いて「しかない」、蝶堂(ちようどう)、鶴丸、主人公は雨森。意図的にをかしな名前にしてゐるのだらう。
前半は男女の些細な痴話喧嘩のすゑの傷害事件と人物紹介やらでのんびり展開する。最初の傷害事件が後で殺人事件になつて、上辺だけなぞつてゐた刑事たちの経歴等も書き込まれ、ペースが上がる。
以前書いたことがあるが、一体いつの話なんだ、といふのが矢鱈に気になるタチで、P19の最後から2行目「外に出ると、二月の寒さが身に沁みた」で解るのだが動坂署に赴任して一箇月といふ始まり方なので、5月頃かと思つてゐたら、P13に「底冷えのする当直室で」といふで混乱したり、ほかにも幾つか気になることはあるのだが、それでも面白く読んだ。
気になることを挙げると長くなるんだけど、P21で動坂署の署長桐山がパンをたくさん買つたらしいのだが、この後で一切言及されない。P259捜査会議で鮎川(県警本部の管理官)に雨森は散々絞られた後で、夜食をとらうとするのだが、鮎川に散々絞られるのはこの後、P280〜286までだ。P458最後のところで豪華な調度や大量の書物で埋まつた書架、高価な陶磁器、剥製のある部屋(この部屋の詳しい説明はP165にある)で雨森は「なぜか同じ光景を前にも一度どこかで見たような気がした」と書いてある。ええ、読み落としたか、と何度もパラパラ捲つて探したけど、その部屋には雨森はそれまで一度も入つたことはないし、似たやうな部屋が誰かの家にもあつたかと探したけれども見つからない。動坂署の刑事課全員が集まる場面は(最後の場面を除いて)2回あるがP259は刑事部屋だし、P297も刑事部屋と書いてある。それからこれはネタばらしになるかも知れないが、地下に温泉が湧き出してゐる敷地にある建物で「底冷えのする当直室」はないんぢやないか。
この気になる箇所の確認だけで半日潰れてしまつたけれども、それでもまあ、面白い小説だつたね。

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