2008-05-27

142.死亡推定時刻

朔立木・光文社文庫(used)
先づカバーデザインが目を引いて、長尾みのるといふ人かと思つたら、違つた。作者の名前が読み難いのも記憶に残つたし、裏返して「現役の法律家が描くスリリングな冤罪ドラマの傑作」。冤罪であれば読まねばならない。さう思ひつつ、時々書名を忘れたりしながら半年、漸くBookOffで105円で非常に状態のいいのが手に入つた。それが先月の初め。細かい文章の好みは省いて中身について。冤罪がなぜ起るかと言へば、刑事、取調をする人間の先入観、見込みによる自白の強要、自白偏重の裁判だ。殴られて脅されて自白したと言ふ被告がゐて、それを証人喚問で否定する警官がゐると、警官の主張を疑はず採る裁判官や検事がゐるのだから仕方あるまい。ただ、これが小説であるなら、こんな司法の実態の中でせめて一審死刑判決から控訴審一審差戻しから無罪を勝ち取るまで書いてくれなかつたのか。ドキュメンタリーならやむを得ないが、倍の長さになつても容疑者の無実を晴らしてほしかつた。読み物としては面白いが、死刑判決を受けた容疑者の苦悩、弁護士の苦悩も十分に書かれてゐない。誘拐事件としての緊張感も足りない。でも充分面白く読める。

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