2007-08-11

81.遊動亭円木

辻原登・文春文庫(used)
この人の本ははじめて読んだ。「村の名前」で芥川賞、本作で谷崎潤一郎賞。毎日新聞の連載小説が、いまはこの人と宮部みゆき。どつちも読んでないけど。噺家が主人公で、しかも盲目。円木をふくめた人間模様。ついつい語りたいところを抑へた書き方なので、余韻が残る。話の筋にも工夫があるので、一つの長篇のやうに読むことも可能だらう。谷崎の「台所太平記」、山口瞳の「居酒屋兆治」、井伏鱒二の「荻窪風土記」などを思ひ起こした。「居酒屋兆治」が近いか。もうこの年になると、この手の話は自分の人生だけで沢山だな。
──ひとつだけ余計なこと。円木の父の命日が五月十四日。第一話で相撲の夏場所見物に行く日が五月十三日。この部分の記述に翌日が父親の命日だとは一言も触れてないのは如何なものか。円木の父親の死に方は極楽往生ではないし、後に結婚することになる寧々の父親との絡みがあり、円木は忘れることはないだらうし、妹もその日が父の命日の前日である、と言葉の端にも上らないのは、この時は、と言ふのは作者が書き始めた時には父親の命日が決まつてなかつたのかも知れないが。(07.08.12追加)

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