2013-04-14

中町信「悪魔のような女」ケイブンシャ文庫(533・used)久し振りの中町ミステリ。ここには生身の人間は一人もゐないと言つていい。肌のぬくもりもにほひもない。手品の人体轢断で血が噴き出したら、身も蓋もないのと同じやうに。登場人物たちは舞台の上でそれぞれ割り振られた役名の行動をし、台詞を喋る。その台詞は肝心なところで観客の目を惑はせ、読み手を誤解させるために用意されたものだ。手品のやうに。だから、手際の善し悪しが出来不出来になる。ここでは最初の事件で凶器に付いてゐた指紋の照合を、一度で済んだはずなのに容疑者がかはる度に繰り返される、といふ杜撰な捜査で辛うじて切り抜ける。アクロバットだね。これがダメな人は中町ミステリは無理。これは「殺人病棟の女」を改題したもの。プロローグとエピローグの意外性も少ないし、誤読への誘導も大きく軌道を外すことがない。日付と時間が書いてあるのだが、時間のはうの意味がよくわからなかつた。

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