2012-12-05

横山秀夫「陰の季節」文春文庫(503・used)これも警察小説の一つ。但し、警察内部の、直接捜査をしない部署を扱つてゐる点で新しい。殺人だけがミステリぢやない。そんなことは当り前なんだけど。謎があつて、謎を解く、その過程の面白さは充分ある。天下りの部署にしがみ付く元幹部はなぜ居座らうとするのか。これが「陰の季節」といふ短篇で、これで松本清張賞を受賞してゐる。兎に角、文章が気になる。馴染めない言ひまはしがあちこちにあるのだ。そこのところを書きたいが、なら自分で書いてみろ、と言はれさうなのでいまは触れない。→やつぱり気になつて仕方がないので書いてしまはう。取り敢へず「陰の季節」の冒頭3行。そのまま引用する(著作権に引つ掛かるかな)。
春も間近の風音も、この部屋までは聞こえてこない。窓は閉め切られ、隙間なく引かれたカーテンにも厚みがある。空調は働いているようだが、耳障りな音の割りに効いていないことは、ここで半時もパソコンを叩いていればわかる。」
先づ書き出しの「春も間近の風音」の意味が解らなかつた。春を知らせる風の音といふことかな、と気づいたのは全部読み終はつてから。続く「隙間なく引かれたカーテンにも厚みがある。」なら、カーテンの素材や色を書けばいいのではないか。或は、厚手の黒い(例へば)天鵞絨のカーテンが隙間なく引かれてゐる、ではダメなのか。最後の「耳障りな音」で空調が働いてゐることは半時以上そこにゐる人物には充分解つてゐるのになぜ断定しないで「空調は働いているようだが」と曖昧にするのか。
その数行後で、D県警本部の警務課別室を警務課員以外の警察署員は「人事部屋」と揶揄する、と書かれてゐるんだけど、それが揶揄してる呼び方とは受け取れない。警察内ではさうなのか。もつと他にもあるんだけど、長くなるので止めるが、「馬鹿殿よろしく大抜擢を乱発する本部長が」の馬鹿殿つて、志村けんの馬鹿殿のことかと思つてしまつたが、この例へが必要だらうか。(2012.12.31)

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