2006-02-24

5.下北の殺人者

中町信・講談社文庫(used)
これは氏がサラリーマンを辞め、二足の草蛙を脱いだ年に書かれたものだと解説にある。この解説は鮎川哲也の「西南西に進路を取れ」の解説も書いてゐる山前譲といふ人で他でも何度か見たことがある気がするけれども、ミステリーの評論をやつてるだけなのか自分でも書くのか、その辺はよく解らないが、なんとこれで氏の作品を10冊も読んでしまつた。更にこないだ仕入れて来て、都合15冊になるだらう。氏の作品の魅力は読み易いこと。それと仕掛けの面白さ。全体に仕掛けがあるのは「模倣の殺意」とか「天啓の殺意」で、これは読み終へて唸つてしまつたが、登場人物の会話や推理に引き回されてゐるうちに容疑者が殺されて行くといふ仕掛けのパターンが、実は癖になる。この「下北の殺人者」はそれだけでなく、叙述の仕方にも仕掛けがあるが、それはもう予想が付いた。ただ犯人が外れてしまつた。なぜその人物が犯人か、といふ裏付けはきつちり解つてなくても、大抵のミステリーは予測出来ることが多い。が、この登場人物の会話や推理に振り回されて解らなくなつてしまふのだ、氏の作品は。例へば、或る人物が犯人ではないか、と主人公が推理する。すると、いや別の誰かではないか、といふ人物が現れて尤もらしい予測が語られ、そつちが容疑者らしいまま進展して行く、といふのがある。読んでるこつちには、別の誰かだといふ根拠が弱いと感じてゐることが多い。だから、人物の視線で話が進むから、ドンデン返しの連続みたいだけど、そもそもの推理が甘いだけで、余計な死者が出る、といふ印象にもなる。
でも、なぜか氏の作品を探してしまふんだよなあ。絶版が多いからかなあ。

0 件のコメント: