2016-07-15

赤蛙

島木健作。さうさう、序でに書いておくと、まへに読んだ「黒猫」の中にかういふ場面がある(P316下段)。捕まへた黒猫をどうするか、「私」と「その妻」の会話。「お母さんはどうするつもりなんだ?」「無論殺すつもりでせう。若いものは見るものではないといつて、わたしを寄せつけないやうになさるんです。」いま、かういふ話し方の出来る女の人がゐるだらうかといふ話ではない。猫を殺すところを、猫ら限らないかも知れないが、昔は殺生をするとき、若いもの、特に女の人には見せない、さういふ仕来り、風潮があつたんだなあ、と思つた。なぜか。それは知りません。
で、この「赤蛙」。志賀直哉の短篇みたいな感じがした。「城の崎にて」がこんな感じの短篇ではなかつたか。手元にないし、調べるのも億劫なので、そのままにする。
修善寺へ療養がてら出掛けるが、一人客なので悪い部屋を当てられる。不機嫌になつて散歩に出る。桂川の所で休んでゐると頻りに川を渡らうとしては失敗してゐる赤蛙を見つける。蛙は本能的に、もつと楽に渡れるコースが解るはずなのに、敢てその難しいコースに挑んでゐるのではないか。軈て力尽きて流されて行く蛙を見て、力の限り戦ひ最後に運命を受け入れた姿に「私」は打たれる。そして自然界の神秘、宇宙といふものを考へる。
なかなか面白い短篇だつた。もう一つ、やはり短いもので「ジガ蜂」といふのがあるので、それも読んでみよう。

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