2014-07-07

572.硝子のハンマー

貴志祐介・角川文庫。一箇月半振りに漸く一冊読み終へた。あれから、山中恒のあとで吉田健一の単行本未収録のエッセイ集と淀川さんの映画の本がそれぞれ半分くらゐ読んで滞つてしまつた。この硝子のハンマーは淀川さんの本と一緒にWonderGooで買つたものだ。ミステリは犯罪小説でもルポルタージュでもないから、有り得ないやうなトリックで殺人が行はれることがある。このトリックは密室。確かによく考へられたトリックだと思ふ。もともと読みながらトリックを破つてみせるぞ、なんて読み方はしないので、ただ普通の小説と同じやうに読んで行くワケだが、ちよつと違和感があつた。特に後半。後半は犯人サイドからの倒叙形式になるんだけど、この犯人が前半の探偵役の男と間違ふほどよく似た書き方になつてゐること、それと動機を作り過ぎてる感じがした。これでもか、と痛めつける。P509で高校の後輩の女の子が警察か弁護士に相談すればよい、と言ふけれども、正にその通りではないか。逃げるしかない、と思はせる書き方をしてゐるが、先づ警察ではなかつたか。父親の借金を子どもが払ふ義務があるのかどうか、法的なことは知らない。少なくとも生活費以外の借金、つまり遊興費であれば妻であつても支払ふ義務はない、と聞いたことがある。株取引による借金が遊興費と言へるかどうか解らないが、生活費ではないだらう。尤も、警察に相談したら展開はまつたく変つてしまふだらう。それと何度も下調べのためにビルに侵入してるけれども、目的のものが見つかつた時点で盗んでしまへばいいのに。だつて、誰にも不審に思はれずに出入りできたんだから。さうすれば殺人なんかしなくて済むでせう。この密室トリックは殺人のためのトリックなんで、なんか釈然としないものが残る。面白かつたんだよ、一気に読んだくらゐだから。でもねえ、ちよつとそこが引つ掛かる。

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