2012-06-12

高野文子「棒がいっぽん」マガジンハウス(454)。最初の「美しき町」は当然堀辰雄の「美しい村」の題名が念頭にあつたでせう。中身は勿論違ふ。最初の、ページを跨いだ4コマ、凄い、いいねえ、この人の漫画は素晴らしい、と感嘆した。小説では絶対こんなことは出来ない。映画なら可能だらうけど、見開きの本のやうに直ぐにコマ(映像ならシーン)を戻れないから、やはりこれは漫画にしか出来ないことなのだ。どの作品も見事で、読みをへるのがをしかつた。とりわけ「バスで四時に」の始めのはうでマキコちゃんがバスに乗り込みステップを上がる、まへのはうへ移動する、これが1ページに2コマで書かれてゐるのだが、この視点の角度と時間の流れ。インターネットで高野文子を検索したときに見つけたページで、なんといふ題名なのかを更に調べ、この作品集にあつたので早速これを買ふことに決めたのだ。この絵で決めたと言つてもいい。どうしても読みたい、手に取つて読みたいと思つたのだ。P68の右下の座席にすはらうとする絵の姿勢、次のやや見上げる感じて正面からマキコちゃんを書いてゐるが、その膝が綺麗だ。更にP71発車したバスの中の3コマ、最後のコマのアングルは予想もしなかつた。挙げたらキリがない。「奥村さんのお茄子」は一番長いが、これもまた吃驚(びつくり)。こんな風に過去の1シーンを切り取つて隅々まで辿れたらどんなに面白いだらう。冒頭、P138〜139への視点の寄り方にも唸つてしまつた。これが1994年の作品。この作品集の不思議なタイトルはこれを読めば納得する(納得はできないけど、根拠は示される、ポストの裏に書いてあるぢやないか!)内容もさうだが、オレは兎に角絵が凄いと思つた。他の作品もほしいが、まだ見落としてるところがあるやうな気がするので、暫くこれをときどき手に取つて眺めてゐたい。蛇足ながら、上田としこの絵に似てると思ふ。

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