2018-02-28

はだか川心中、その他

少しでも現実から離れたいと思ふのに本の文字を追ふことで別の世界に入つて行くことにもためらひといふか、落ち着かない感じがあつた。手元にある本はどれも読む気になれない。頁を開いても目が泳いでしまふ。どうにか気を紛らせるものはないか探してゐたら、都筑道夫の「十七人目の死神」(角川文庫)といふ短篇集を見つけて幾つか続けて読んだ。短い小説なのに一日に一篇読むのがやつとだつた。
実家にはhiko8さんが置いたままにしてある本がたくさんあつて、例へばhiko8さんが得意だつた理系の、数学や物理の、題名を見ても何が書いてあるのか想像もできないものや、哲学書などが本棚一つ分あるのと、かつて祖父が寝起きしてゐた部屋にある本棚にも文庫が十数冊あつて、これはその一つ。
都筑道夫と言へば「夜のオルフェウス」といふ傑作があつて、その見事さ、素晴らしさを教へてくれたのはhiko8さんだつたが、そもそも都筑道夫を読み始めたのはオレのはうが先だつたのだ。ショート・ショートに興味があつた頃で、だから二十歳前かなあ、高校生だつたかもしれない。「阿蘭陀すてれん」とか「悪魔はあくまで悪魔である」とか「黒い招き猫」とか、山藤章二の独特のイラストが添へられた角川文庫を買つて読んだものだ。
でも、この「十七人目の死神」は持つてゐなかつたと思ふ。
古ぼけた丸善のカバーがついてゐるから、きつと東京で買つたのだ。奥付を見ると昭和五十二年一月三十日再版発行と書いてあるから、hiko8さんが十七、八歳の頃だらう。
今回読んだのは、全部で十一篇収録してあるうちの、中でも更に短いもので「不快指数」、「はだか川心中」、「父子像」、「風見鶏」の四篇。たぶんhiko8さんは「風見鶏」が好みだらう。次に「不快指数」かな。オレは「はだか川心中」。次が「父子像」。要はオレのはうが見た目が単純な展開で意外な結末を好む、といふことだらうな。そんな話をすることも、もはやできない。

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