2009-05-04

かうして矢作俊彦「ららら科學の子」文春文庫(205)読了。なんて中途半端な話なんだらう。なのに、なんて充実してるんだらう。人生の途中をそのまま切り取つてみせたら、こんな風になるしかないだらう。一度も姿を表さない志垣にしても、一体なにを生業としてゐるのかよくわからんし、妹とも電話で話したきりだし、女子高生はそもそもどう関はつてるのか、奥さんはなぜ家を出たのか、さまざまな事柄が説明不足で納得できないまま、最後まで読んでしまふのだ。つまり、これは小説だ。虚構なのだ。スカスカの、辛うじて形を保つてゐる狭くて薄暗い舞台装置の中で、顔のない人物たちがそれぞれの役割の名前をぶら下げて動いてゐる芝居のやうなもの、或は作中でも触れられるクーブックの映画「博士の異常な愛情」さながら、一人の役者が複数の役をこなしてゐるやうなものなのだ。なのに、面白い。

0 件のコメント: