2009-03-23

トマス・ハリス/小倉多加志訳「レッド・ドラゴン[決定版]」上下・ハヤカワ文庫(201.202・used)を読み終へた。期待をしすぎたのか下巻がそれほど面白くなかつた。事件は解決し、最後のドンデン返し──ちよつとは予想し期待もしてゐた意外な展開──はあるのだが、読んでゐていまひとつ盛り上がらなかつた。その最大の原因は、ジャコビ家とリーズ家の家族たちがどんな風に殺害され、その魅力的な主婦たちがどんな陵辱を受けたのかといふ曖昧な部分が放置されてしまふからだらう。確かにあまり具体的になるのは下品かも知れないね。時間を掛けて丁寧に書いたんだらうなあ、といふことは伝はる。そして恐らく実際には倍くらゐ書いたものを相当削つて、絞り込んでゐるのだらう。犯人の境遇についても、心理分析みたいな真似をしないところはいい。これは犯罪そのもののミステリよりも、推理し、捜査する側のミステリのはうが複雑だらう。ハンニバル・レクター博士といふ存在を受け入れ、ウィル・グレアムといふ人物の存在を疑はないことで成立してゐる。どんな小説もさうだ、と言へばさうなのかも知れない。が、これほど特異な人物が2人も登場するわけで、しかもこの設定は奇妙なのだよ、実は。過去に逮捕し、瀕死の重傷を負はされもした異常犯罪者に現在探してゐる連続殺人事件の犯人像を聞きに行くなんてことは現実にはしないだらう。読んでるあひだは、ちつとも不自然には感じないんだけど。レクターに聞きに行かなくても、グレアムは犯人を特定できたのではないだらうか。普通のミステリとしては、それで充分。

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