2008-05-24

141.そこに薔薇があった

打海文三・中公文庫
初めて読む短篇集で、しかもアーバン・リサーチものではない。ま、アーバン・リサーチものには短篇集はない、……と思ふ。解説では片岡義男風の、と言ふけれども、村上春樹風だと感じた。村上春樹も会話を書くのが上手い。「羊をめぐる冒険」しか読んだことないけど、彼が翻訳したレイモンド・カーヴァーにも似てるかも知れない。7篇入つてゐて、ギリギリまで(気取つた感じで)平穏に進む。最後の最後で奇矯な展開になる。短篇集のはずが実は重複する人物がゐたりする。最後の第7話は、もう一度よく読み直したい。

2008-05-23

140.凶眼 EVIL EYE

打海文三・徳間文庫
帯に「追悼」とある。「残された珠玉の名作は、未来の読者をも魅了するだろう」裏に「ご生前のご功績を忍び心からご冥福をお祈り致します」殺人事件があつて、被害者は「きざはし」といふカルト集団の集団自殺後に行方不明になつた子どもたちと五億円の現金の行方を調べてゐた。誰が殺したのか。ミステリーはそれで作品が組み立てられてゐる。しかしハードボイルドはそこに人間が激しく絡んで事件そつちのけになる。メインの探偵役は武井といふ訳ありの中年男。これにも佐竹とウネ子が出て来る。大須といふ人物の残忍な行動、侮辱的な暴力行為は不快だけれども、これはオレには「時には……」の次くらゐにランクインするかな。大泉町と館林がかなり詳しく語られるので苦笑ひ。

2008-05-19

139.愛と悔恨のカーニバル

打海文三・徳間書店(used)
アーバン・リサーチもの全5作品の最終作で、このまへに読んだ「されど修羅ゆく君は」の姫子が6年後の19歳で主人公になつてゐる。「時には懺悔を」の佐竹、中野聡子、鈴木ウネ子、寺西も登場する。どうもオレはこの人物たちがお気に入りらしい。今回の事件は猟奇的な殺人で、ややグロテスクに感じるところもある。むぎぶえと翼の姉弟の謎めいた部分を翼自身が分析し解説してしまふのは不満だ。本人の理解を超えた力や衝動に突き動かされて、なら受け入れられる。いづれにしても、続けて読んだ2作は、正直言つて物足りない。

2008-05-15

138.されど修羅ゆく君は

打海文三・徳間書店(used)
アーバン・リサーチ・シリーズの第二作。「時には懺悔を」の佐竹も名前だけ登場する。鈴木ウネ子と戸川姫子、野崎などの人物が生き生きしてゐる。殺人事件があり、犯人は誰かといふ筋書きはあるけれども、そつちのはうは今一つ現実味がない。それよりも人物が素晴らしい。野菜の話が詳しく出て来るのは、暫く農業をやつてゐたといふ経歴があるからか。

2008-05-12

137.私はそうは思わない

佐野洋子・ちくま文庫(used)
まへから思つてゐたのだが、エッセイに解説は要らない。解説やあとがきから読んでしまふやうな(オレみたいな)ヤツには先入観が出来てしまふから、よくないのだ。けれども、これは解説から読まなかつた。佐野洋子の本はそんなことは考へなくていい。最初から一枚一枚読んで行けばいい。先づ、なんと言つても、このタイトル!私はさうは思はない。いい言葉だなあ。中身は私はかう思ふ、が書かれてゐる。人間はなんてこんなにバカで間抜けで傲慢で小狡く惨めで素直で下品で素晴らしいものなんだらうね、と書かれてゐる。──蛇足。佐野洋子はオートバイに乗るのである。さういふ記述がある。それに古いバイクの雑誌で見たやうな、見ないやうな。更に車で奈良まで行くのである。東京都内も車で移動するのである。さういふ記述が出て来る。行動的な人なのだ、かなり。

2008-05-05

136.ライトニング

ディーン・R・クーンツ/野村芳夫訳・文春文庫(used)
第一部の第一章を読みをはるまでは、いまひとつ乗り切れないでゐた。何度も読み直したりしながら、ゆつくりポツポツ読んでゐたのだつた。まあ、浦沢直樹のMONSTERも読んでたし、「述語集Ⅱ」も並行してたこともある。が、第二章に入るや、ローラが孤児院に引き取られてから第二部の第五章までの凡そ320頁、やめられなくなつてしまつた。トイレに立つ時間さへも惜しいくらゐ。「ストレンジャーズ」はネタバレで言つてしまふが、R.A.ハインラインの「異星の客」(Stranger in The Strange Land)を思ひ起こさせる題名からも解るとほり異星人との接触を扱つてをり、これは過去からのタイムトラベルなのだ。「宇宙家族ロビンソン」から「スタートレック」(ここはやはり「宇宙大作戦」と呼ぶべきだ)「タイムトンネル」などなど、子どもの頃にワクワクして見たり聞いたり読んだりした空想物語、SFと呼ぶにはもつと荒唐無稽な世界、それがこんなに分厚い本でみつちり真剣に書かれているのだから、途中でやめられるはずがない。──が、一つだけ。ラストシーン近くになると詠嘆調になるのがちよつと、ほんのちよつと白ける。

2008-05-02

135.述語集Ⅱ

中村雄二郎・岩波新書
200頁ちよつとの新書なのに1箇月以上も掛かつてしまつたのは、書いてあることがなかなか頭に入らなかつたせゐで、これが小説やエッセイの類ひなら文章の1つや2つ読み飛ばしてもあとで帳尻が合ふけれども、さうは問屋が卸さなかつた。それは取り上げられた述語の違ひもある。「Ⅰ」(因みに1993.10.03に読了)のはうが興味もあり耳にして気になつてゐた言葉──具体的には「アイデンティティ」「遊び」「差異」「ダブル・バインド」「通過儀礼」「トポス」「パラダイム」など──が多くて、もつとすんなり読めた気がする。とは言へ、やはり新書は物足りないものがある。内容がもつと気楽なものならよいのだが。それでも「老い」「グノーシス主義」「ヒトゲノム」「複雑系」などの項目は面白かつた。

2008-04-27

117.〜134.MONSTER 全18巻

浦沢直樹・ビッグコミックス小学館(used)
読み始めはいつだつたらう。2月の頭くらゐか。少しでも安く手に入れようと、あつちこつち捜しまはつて漸くけふ館林のBookOffで半額セールをやつてゐたので17と18を買つて来て読み終へた。読み応へは充分にあつた。凡そ二箇月かかつてるので、納得できない部分もあるんだけど、通した印象はもう一度ざつとでも読み返してからにしよう。けふは兎も角記録として。なにがMonsterだつたのか。この答へによつて、評価は変るかも知れない。──先づ、最終巻から振り返つて全体を眺めると、トルコ人街の焼き討ちとか、どこかの年寄りの町医者との話とか、省いてしまつても全体の印象はさうかはらない気がする。寄り道が多すぎないか。結末はもつと明確にヨハンの死、またはニーナの死で締め括つてほしかつた。テンマの死でもかまはない。怪物、怪物とさはがしかつた割に、怪物つてその程度なの?と疑問が湧く。

2008-04-21

116.種まく人──ヴィラデスト物語

玉村豊男・新潮文庫(used)
おしまひの章でベジタブルを読み解くところがある。生長・増殖するvegetateことが可能-able。「食用になる野草山菜のうち、人の管理下の植栽が可能なもの」をさう呼ぶ、と。農業は「人間が自然を自分の都合のよい方向にねじ曲げる行為」とも言ふ。が「実際には単に大きな自然のほんの少々のおあまりをいただくくらいのことしかできないのだ」といふ実感も語られる。長野の山奥に家を建て、農業を始めた経緯についてが語られるのだが、ところどころにかうした批評的な目が光つてゐる。「料理の四面体」もさうだつた。そこが面白い。

2008-04-17

115.高血圧の常識はウソばかり

桑島巌・朝日新書
カバーの裏にコピーして繰り返し使へる「書き込み式血圧チェックシート」が付いてゐる。それで買つたわけぢやないが。去年の10月に上が200といふ愕然とする数字を見て以来、高血圧に異常に興味を持つてしまつた。職場の健康診断のデータを調べたら5年くらゐまへまで130代だつのたが少しづつ上昇し始めたのだ。理由は解らないが、どうも尿酸値を気にして水を多く飲むやうになつたからではないか、と自己診断してゐる。生兵法は大けがの元。この本は実に読み易く、為になつた。ただ新書の宿命で物足りないのは否めない。どうすればいいのか、もつと具体的に、事例を挙げて、……なら病院で検査して貰ふのが一番だらう。

2008-04-12

114.不敵雑記 たしなみなし

佐藤愛子・集英社文庫(used)
実に愉しく読めた。途中で飽きちまふかと思つたが、最後まで面白く、特におしまひのはうの幽霊騒動。筒井康隆の「笑犬樓よりの眺望」の第一回目に佐藤愛子の「何に向かって」といふエッセイが引用されてゐたのを読んで、いづれ纏まつたものを読みたいものだと思つてゐた。たぶん氏の本を読んだのは、これが初めて。親子くらゐのトシの差があるが、佐藤氏が取り上げる懐かしさは、オレの記憶にあるものとさうかはらない。ほかのも読もう。「何に向かつて」が入つてるのを捜すか。

2008-03-17

113.おかしなことを聞くね

ローレンス・ブロック/田口俊樹・他訳・ハヤカワ文庫(used)
いつだつたか雑誌かなにかで宮部みゆきが薦めてゐた本で、偶然BookOffで見つけた。中町信の「三幕の殺意」の後で読み始めてゐたが、漸く読みをはつた。上手いねえ。タイトル作なんて7頁しかない。これも気に入つたが、好みから言ふと「我々は泥棒である」「動物収容所にて」「夜の泥棒のように」「無意味なことでも」「窓から外へ」かな。ローレンス・ブロックがシリーズで書いてる主人公が三人?出て来る。マット・スカダー、泥棒バーニィ、と後誰か。バーニィのシリーズは特に読んでみたいと思つた。斜に構へた感じの会話が面白い。マット・スカダーのはうはハード・ボイルドで、これもなかなかいい。兎に角上手い人だね。

2008-03-15

112.トマソンの罠

とり・みき・文藝春秋(used)
いしかはじゆんの「漫画の時間」でも取り上げられてた人だけど、名前のみ見たことがあり実際に読んだことはなかつた。四コマの人かと漠然と思つてたら、つげ義春みたいなんだね。8篇収録されてゐるが、表題の「トマソンの罠」は都筑道夫の「夜のオルフェウス」を思はせる。wikiでいま調べたらつげ義春や水木しげる、白土三平とは縁がないみたいだが、建物とかアップになつた人物の書き方から、ちよつとそんなことを想像したのだ。「エリート」も面白かつた。「コインランドリー」は似たやうな設定のものを別の人で呼んだやうに思ふ。或は小説だつたか、テレビ番組の世にも不思議な辺りか。「雪の宿」が一番つげ的展開かな。「帰郷」は上手いと思つた。ありがちな筋書きだけど書き方がいい。すごく短いところもいい。

2008-03-10

110.111.ストレンジャーズ 上・下

ディーン・R・クーンツ/宮脇孝雄訳・文春文庫(used)
面白かつたねえ。用事が入つて途中で本を置くのが惜しくて仕方がなかつた。名前だけは知つてたけど、ユッスー・ンドールみたい(名前を見たら、また聞きたくなつた)で読み難い名前だし、カタカナタイトルだし、表紙の絵がどれも好みぢやないし、ぶ厚いし、人がいつぱい出て来るし、面倒くさいので避けてゐた。しかし、初めて読んで驚いた。500頁を超える長さの2冊本を最後まで退屈させずに読ませるのだから凄い。細かい部分もよく書き込まれてゐるから、あり得ないやうな場面も抵抗がない。サスペンスのやうでSFのやうで、ファンタジーとも言へなくもないか。登場人物も魅力的だ。ジンジャー・ワイスをこの目で見たいし、ウィカジク神父、パーカー・フェイン、ジャック・ツイスト、リタ・ハナビィに会つてみたい。そしてリーランド・ファルカークの首根つこを摑んで考へられるだけの罵倒をしてやりたいくらゐだ。……が、文句を言へばキリがないところもある。ご都合主義的な展開だと言へば、それで終りだ。その辺りを捜して突ついたら成り立たない物語だ。大雑把な印象はハリウッド的SF映画のシナリオみたいなものだ。しかし、抜群に面白い。

2008-02-24

109.三幕の殺意

中町信・東京創元社
7年振りの新作などとしたり顔で言つても、実は05年の09月に「模倣の殺意」を文庫で初めて読み「こんなの書く人がゐるんだ」(日本にも、と解説を書いてる人たちは口を揃へるが、オレはまだクリスティの「アクロイド殺し」も読んでなかつたので)と驚きの余り蒐集を始めてまだ2年半だから、ずうつとまへから「錯誤のブレーキ」まで順番に読んで来た人みたいに、7年も待たされてはゐないのだ。それでも、もしまだ現役なら新作が読みたいと思つてたから、嬉しかつたね、実物を手にしたときは。さて、その中身は?まさに初期の中町作品だね。連続殺人でないところが、もともとは短いものだつたのかな、と思はせる。雪に閉ざされた山荘の、なんていふのは密室トリックの見本みたいなものらしいが(東野圭吾にそのまんまのタイトル小説がある)、けさ4時近くに目が覚めちまつて、風がやけにうるさいぜ、と外を見たら吹雪いてる。ホントかよ?戸沢とよさんと岡本花江さんの喋りは、この方言は上州弁かい?だらうな。「解説」にある「模倣の殺意」では「捨てトリックの小道具として使われた"ある機能"が」犯人のアリバイを鉄壁にするつて、どういふこと?

2008-02-18

108.アルバイト探偵 調毒師を捜せ

大沢在昌・講談社文庫(used)
続篇。これも一気に読んぢまつた。この親子探偵の設定はホントに面白い。このあとで3つ長篇が書かれてゐるが、このテンポの良さは短篇のはうが楽しいのでは?ドラマにしても面白いかも知れない。第1策のはうが好きだね。今度は「痛快コメディアクション」となつてる。

107.アルバイト探偵

大沢在昌・講談社文庫(used)
一気に全4話読んでしまつた。「新宿鮫」が面白かつたので、他のを読んでみた。私立探偵親子の設定で、それもちよつと怪しいフリがあり、特に親父の涼介は一体何者だいと引つ張る。兎に角テンポが早くていい。「痛快アクションミステリー」と頭についてるけど、正にその通り、充分楽しんだ。「新宿鮫」よりも2年くらゐ前の作品。大沢在昌つて、生まれた年が同じなんだよねえ。

2008-02-16

106.笑犬樓よりの眺望

筒井康隆・新潮文庫(used)
ずゐぶん久し振りだね、筒井康隆を読んだのは。結構何冊も読んでるはずだけど、……近いところで「虚航船団」は読んでなくて、「串刺し教授」は読んだ。「エロチック街道」と「虚人たち」は読んだけど「夢の木坂分岐点」と「歌と饒舌の戦記」は読んでないよなあ。この本の中に出て来る「朝のガスパール」と「パプリカ」は間違ひなく読んでない。暫く空いてしまつたのは、なにも断筆したからではない。これは断筆宣言までの10年間(1984〜1993年まで)に「噂の真相」(読んだことない)といふ雑誌に連載されてゐたもの。マスコミに自浄作用がない、など同じやうなことを考へる人がゐるのを知ると心強いね。ビニール蛙が誰なのか解らなかつたが、ネットでそのまま検索したら解つた。

2008-02-11

105.名探偵コナン コナンからの挑戦状

青山剛昌・小学館(used)
生憎テレビのアニメは見たことがない。番組の前後でチラッと見たり、予告を見たことがある程度。勿論、原作の漫画も読んだことがなかつた。それがこないだ、たまたま車のオイル交換で立ち寄つたオートアールズの待合所にコナンが何冊も並んでゐて、読んだら意外に面白かつたのだ。そのときに読んだのがFile4。この本は事件篇と解決篇の2冊に分かれてゐる。全部で7つの事件があり、どれもなかなかよく出来てゐるが、気になるところもある。ネタバレになつちやふけど、File1椅子のうへから後ろ向きに飛ぶなんて体操選手ですか?逆に蹴る恰好になつて椅子は倒れてしまふでせう。File5将棋の話が予め出てないのはどうでせう。File6包帯を間違へて巻きますかね、それとトイレの順番は違ふんぢやないの?それに流石に人間を投げ下ろしたらドサッとか音がするでせう。便器にでも当たれば大変な音がすると思ふよ。(その後なぜ工藤新一がコナンになつちまつたのか知りたくて、コミックの第一巻をBookOffで買つてしまつた。ははは。)

2008-02-04

104.猿島館の殺人

折原一・光文社文庫(used)
「七つの棺」に登場した黒星警部もの。ポーの「モルグ街の殺人」(読んだことがあるが、よく覚えてゐない)ほか幾つかの作品を下敷きにしてゐるやうだ。パロディなんだとさ。なかなか面白かつたね。同じコンビ(黒星・葉山虹子)で「鬼面村の殺人」(旧題「鬼が来たりてホラを吹く」)が先に書かれてゐるので、そつちも見つけたら買つて置かうか。新本格推理の書き手たちとほぼ同時期に書き始めたと思ふが、あつちはいま一つ乗れない。折原一のほうが好みだな。まへに内田康夫のところで言つたが、これも年代がはつきりしないのだが、現在から遡つて例へば一つの事件がある、なんて場合にはやつぱり漠然とでも現在時を知る記述がほしい、といふ意味で言つたので、これはそんなことは気にならない。

2008-01-31

103.軽井沢殺人事件

内田康夫・光文社文庫(used)
軽井沢には20代の半ばに住んでたことがあるので読んでみようかと思つた。年代としてはオレがゐた頃より10年くらゐ後の話らしい。らしい、と言ふのは、内田康夫のミステリーは例へばそれが昭和何年、平成何年の事件かといふことが明記されてないからだ。雑誌に掲載された時点、または書き下ろしで出版された時点がその舞台なのだらう、と推測するしかない。時代背景はそんなに変らないね。モデルになつた茜屋珈琲店には二回くらゐ行つたことがあるかな。いろんなカップが壁に並んでゐて選べたやうな気がする。信濃のコロンボ・竹村岩男と浅見光彦の共演作。公安と警察の対立とか、旧華族や政財界の大物とか、裏取引とか、いろいろ扱つてるけど、ちつとも暗く感じないのは広く浅くといふ読み物としてのミステリーだからかな。トリックがどう、刑事たちの推理がどう、もう、さういふ世界ではない。読み物ですね。29日に読みおはつたけど、時間が取れなくて書けなかつた。急いで書いてるので後で修正するかも。

2008-01-27

102.伊香保殺人事件

内田康夫・光文社文庫(used)
これを読んで漸くわかつたのは、内田ミステリーはいはゆる本格ミステリーではない、といふことだ。だから、犯人が見つからないやうに工作をしても、それは「鉄壁なアリバイ」とか「見事なトリック」ではないワケなんだ、とホントに漸く納得した。さう、題名の脇に書いてあるのは「長篇推理小説」であり、「本格推理小説」ではない。どうしてそんな風に勘違ひしちまつたのだらう。鮎川哲也の評かなにかを読んだのかも知れない。それで、さう思ひ込んでたのかも。……どつちにしても、失礼しました。これまでの苦言は的外れだつたかも。普通の推理小説として読めば充分楽しめる。そのまま書いてある通りに読んで行けばいいんだから、楽。売れるワケだ。で、この「伊香保殺人事件」もさう。これは浅見光彦シリーズの一つ。最初に登場する焼死体が誰で、ロープウェーの崖下で死んだ女の目撃者は誰か、なんてことに煩はされずに、ひたすら文字を追つて行けば事件は解決する。至れり尽くせりの推理小説だ。ちよつと物足りない気もするが、石川真介の「本格推理小説」よりは数段マシだ。

2008-01-24

101.蜃気楼の殺人

折原一・光文社文庫(used)
原題は「奥能登殺人旅行」。1992年11月カッパノベルス刊。中町信の新作かな、と思ふやうなタイトル。さう、「能登路殺人行」といふのが多門耕作シリーズで、ある。1992年4月ケイブンシャノベルス刊。まあ、能登を舞台にしたミステリーは山ほどあるだらうが。終盤の種明かしで少し急いでゐる気がする。「沈黙者」がたつぷり書き込まれてゐたので、さう感じるのかも。中町信風なところが、よい。旅館に本館と別館があること、現在と過去のカラクリに注意しないといけない。

2008-01-19

100.新宿鮫

大沢在昌・光文社文庫(used)
面白かつた。シリーズを続けて読んでみたいくらゐ。晶との遣り取りとか、絡みのところは凄く面映い。犯人が最初のはうで主人公と接触する場面は自然だし、上手い。エドの扱ひも最後まで目配りしてるのが、いい。ひよつとしたら作者のネガかも。謎が、犯人は誰かが主眼ではないのに配慮されてる。どうやつて殺したのか、まで明らかにしなくてはいけないタイプの小説ではないから、勝手に想像すればよいことだ。非常に緊張感のある展開で、ハラハラさせられる。それは「スナーク狩り」にも言へるけど。
年ごとに1から始めるのは止めて通し番号にした。再読は含まない。

2008-01-17

99.スナーク狩り

宮部みゆき・光文社文庫(used)
時代物は読んでないが、この作者の作品は「火車」「レベル7」「魔術はささやく」「龍は眠る」「理由」──と挙げて来て殆ど、いや、どれもなにかの賞を取つてる!──と短篇集も読んだことがある。なにしろ「我らが隣人の犯罪」といふデビュー作を新人賞を受賞して掲載された雑誌で読んだことがあるのだ。だから、なんだと言はれればなんでもないが、縁がある、かな。なんて上手いんだらう、と読むたびに思ふ。的確なんだと思ふ、言葉の選び方が。細かい技術は知らないがイメージがはつきり伝はつて来る。……しかし、この小説ではその上手さが却つて痛々しく感じる。扱つてゐる内容が、とくに織口に関はる事件は使ひ古しのボロ雑巾だ。事件そのものは許しがたい犯罪だけど。偶然を一切排除したら小説は成り立たないが、なぜ関沼慶子は発砲しなかつたのか、織口はどうやつてクロロフォルムを手に入れたのか、神谷尚之の車が通らなかつたら、黒沢が慶子の部屋の様子を見に来なかつたら、国分が鍵を持つてなかつたら、言つたらキリがない。ただ、これは1992年の6月にカッパノベルズとして刊行されたものだが、佐倉修治は完全な酔つ払ひ運転で高速道路を走つてゐるんぢやないか。織口邦男も酔つ払ひ運転でベンツを走らせてゐるんだけど、……いいのかな。兎に角、読んでゐて緊張感はたつぷりあります。

2008-01-12

98.美濃路殺人悲愁

石川真介・光文社文庫(used)
だいぶ前に「不連続線」といふ、第2回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作を読んだことがあり、この事件は解決してませんよ、とHP「月刊彦七新聞」に書いたことがある。東大法学部出身の、いまもトヨタに勤めてゐる、──から、それがどうした、なんたけど、オレが好きな鮎川哲也が絶賛してるので読んだら、どこがそんなに凄いんだい?と正直思つた。ほかにも幾つか不満を挙げたにもかかはらず、またしても同じ作者の本を読んだわけは、BookOffで立ち読みしてゐて、プロローグがちよつと面白さうだなと思つたからで、……しかし、これは設定そのものが受け入れられない。馴染めない。趣味が悪い。メインになる探偵役が添へもの。私的な恨みをはらすために関係者を呼び集め、プレゼンテーションみたいに事件を解明しようといふのはどうか。茶番だ。第一、思ひ出したくない過去がある美濃路に、その負ひ目のために大垣を離れたとまで言ふ人間が、差出人の曖昧な誘ひに乗りますかね。ラストの殺人は衝動的過ぎて受け入れられない。その恩を考へたら、先づ迷ふでせう。大事な息子の自殺の原因が、信頼してゐた教師の暴力が引き金だとてしも、継続的な暴力にずつと耐へてゐたのなら、こいつ最悪、と思へる。でも、さうではないらしい。これはどうも答へが先にあつて、それに見合ふ筋書きを作つたとしか思へない。ミステリーとして、どうでせう。誰にも薦められない。

2008-01-07

97.北国街道殺人事件

内田康夫・徳間文庫(used)
こつちを先に買つたのだが、書かれた順番が「萩原朔太郎の亡霊」のはうが早いので順に読むことにしたのだ。やはり解決部分が物足りなく感じた。朔太郎の亡霊では頻りに所轄の警察への礼儀といふことが出て来たが、ここでは竹村警部は東京でなかり自由に捜査してゐる。第三章の終りで「被害者宅を訪ねて親戚やら知人やらを当たって、いろいろと面白い事実を聞き込むことができましたよ」と竹村警部は言つてるけれども、読み手に解つてゐるのは被害者の実家である新潟での聞き込みだけだ。それが書いてなくても、死体の摺り替へだらう、くらゐは予想がついてゐるから構はないが、ちよつと不満がある。あれほど苦労してゐた野尻湖の最初の事件は、一体どんな風に実行され、なぜ二つ目の野尻湖での事件のやうに目撃者がなかつたのか、その辺はきちんと説明してほしい。これで続けて3冊読んだわけだが、オレが期待するミステリーではないやうだ。

2008-01-05

96.「萩原朔太郎」の亡霊

内田康夫・TOKUMA NOBELS(used)
これは文庫で探したけど見つからず、渋川のBook Offで新書で漸く見つけた。主人公の岡田警部は前作「死者の木霊」にも出て来た人だ。岡田警部を中心にした刑事たちの動きや推理は実に面白いし、事件が起る地域の描写も解り易く、文章も上手いと思ふのだが、物足りない。いろんな人が出て来るから、誰が誰なのか、その発言から読み取れない推理小説もあつて白けてしまふこともあるが、けしてそんな失態はしない。しかし、後半に入つて謎解きが始まるまでの盛り上がりに比べてラストがやや尻すぼみに感じてしまふのだ。先づ、ここでは三つの殺人が起るけれど、そのうちの二つに就いてどんな風に実行されたのか最後になつても一切説明されない。犯人が巧妙だつたのなら、その説明がほしいなあ。30年まへの事件に端を発したと思はせる事件そのものの真相が解明してない。再審請求までした事件で、真犯人が有耶無耶ぢやないですか?誰が真犯人だつたのか、寧ろそつちのはうが知りたい。プロローグが解決してません。兎に角、書き方が上手いので、一気に読んでしまふけど。

2007-12-31

95.奥信濃殺人事件

中町信・FUTABA NOVELS(used)
今年も愈々押し迫り締め括りが中町信になつたのは、ただの偶然。「死者の木霊」を読んでゐて、今年はもう一冊くらゐ読めるかな、と思つたもので、朝倉のBookOffへ行く機会があつたから、内田康夫の本を探したのだが、竹村刑事シリーズ作品のメモを持つてくのを忘れてしまひ、ただ一つ覚えてゐた「萩原朔太郎の亡霊」つていふのがなく、つい「な」のところを見てゐたら、氏家シリーズなのでちよつと躊躇つたが、まだ読んでゐない(筈)のを見つけたので買つてしまつた。最後に密室トリックを持つて来てるけど、それほど鉄壁といふわけでもなく、例によつて早苗の独断的な推理が目障りだが、まあ、いつもの中町作品である。「死者の木霊」が刑事の執拗な捜査と推理だつただけに、中町作品では殆どの刑事がだらしがないのが対照的。因みにどつちも長野が舞台なのも面白い偶然。
今年はあんまり読めなかつたなあ。いつそ来年は極端に絞り込んで月一冊くらゐのペースで、中途半端になつてるのを読了しようかとも思つてゐるが、果たしてどうなるか。気分屋だからなあ、……。

2007-12-30

94.死者の木霊

内田康夫・講談社文庫(used)
一昨年の暮れに「後鳥羽伝説殺人事件」を読んで以来だ。これがデビュー作とある。「後鳥羽伝説」のはうは内容が思ひ出せないので探したけど見つからないから処分したのかも知れない。これは主人公の刑事が竹村と言つて信濃のコロンボといふシリーズになつてゐるやうだ。人物が非常に丁寧に描かれてゐるし、地形や風景なども細かく書かれてゐるから小説としては破綻がないけれども、ミステリーとしてはスリルに乏しい。なんと言つても内田康夫は浅見光彦ものが知られてゐる。確か「後鳥羽伝説」の探偵役は浅見光彦だつたやうな気がする。いづれにしても累計で1億部を超える発行部数を持つ作家の作品は、ちよつと気が引けて手が出せないが、このシリーズは幾つか読んでみたいと思つた。

2007-12-22

93.恐怖の谷

コナン・ドイル/延原謙訳・新潮文庫
ホームズの最後の長篇。4作目。二部構成で、一部二部と別のミステリーとしても読めるやうな気がする。兎に角古い文庫(1984.12.24購入と後ろ書いてある)なので活字は小さいし、インクが飛んでるのか文字が薄くて読みにくかつた。一部のトリックは予想がついてゐた。二部は意外な展開。

2007-12-11

92.バラバラの名前

清水義範・新潮文庫(used)
「配分王」が一番面白かつたが、これは東海林さだおネタだな。ここまでぢやないけど、飯を食ふとき、とくに外食とか弁当の場合、実際オレはペース配分してる。尤も、飯だけ残つちやふのが寂しいから、味気ないといふだけのことだ。「新作落語」は正にその通り。だいたい新作落語の会話で必ず出てくる「君」。そんな言ひかたはしないよ。ただねえ、新作落語を聞くとねえ、なぜかはわからんけれども、源氏鶏太の小説をちよつと連想してしまふ。それと森繁、フランキー堺の映画で駅前シリーズ。駅前シリーズそのものの原案つて、やつぱり井伏鱒二の「駅前旅館」なんだらうけど、全然別ものだよなあ。映画のはうも嫌ひぢやないけど。ほかに全部で8篇収録されてゐて、いかにも清水義範つていふ本でした。読んだあとでいつも感じてしまふのは、面白いんだけど、なんか小説を読んだつていふ気がしない、物足りなさが湧いて来るんだなあ。(蛇足だけど、絶対似てねえよ、と大方の反感を買ふかも知れないが。オレは清水義範は一時期の筒井康隆とダブるのだ)

2007-12-05

91.アメリカの鱒釣り

リチャード・ブローティガン/藤本和子・新潮文庫
とても手子摺らされた小説だつたが、読みをはつて、意味が解る、つて実はどういふことなんだらう、と考へてしまつた。答へは簡単には出せさうもない。兎に角、解説も含めてオレにはよく解らなかつた。ただ、途中で躓いてしまつた「二十世紀の市長」から(兎に角最後まで読むことだと自分に言ひ聞かせながら)ボツボツ読み進めて行くうちに、さうか、これは作者が鱒釣りをしながら考へたこと、或は鱒釣りをしたときのおもひでみたいなことを書いてるんだな、と読むことにしたら、うまく行つた(この文章はブローティガン風かも知れないぞ!)。それから「ネルソン・オルグレン宛云々」のところを読んでたら、漸くわかつた(やうな気がする)。これはナンセンスなのだらう。駄洒落とか。意味で繋がつてゐる一括りの文章として書かれてはゐないんだ、と。比喩などはシュル・レアリスム風だけど、あつちは新たな意味付け、デペイゼされたものが産み出す、これまでとは違つた意味が目的だが、ブローティガンは違ふやうだ。どつちにしても、どうにか読みをはり、なかなか面白かつたな、といふ感想。もう一冊どうですか、と聞かれたら遠慮しとくけど。

2007-11-26

90.西瓜糖の日々

リチャード・ブローティガン/藤本和子・河出文庫
「アメリカの鱒釣り」が滞つてしまつたので、こつちから読むことにした。読みをはつたのは一昨日。西瓜糖とはなにか。なんの象徴か、意図はなにか、言葉の再定義を迫つてゐるのか、と考へて込んでしまふと「鱒釣り」の二の舞だ。そこで不明なものはそのままに、解らないことはそのままにして先へ行かう、みたいな気分で読み進めることにした。さうしたら、ますむらひろしのアニメ(原作は宮澤賢治だけど)「銀河鉄道の夜」みたいに、或はムーミンみたいにこの世界を見ればいいんぢやねえの?と気づいたらスラスラと読めてしまつた。自分を含めた身のまはりにゐる人間として登場人物を捉へなくたつていいワケだ、と、まあ、ひらきなほつたやうなもんだ。動物だつて、いい。さうすりや、目のまへで自分の親を食べてゐる虎とも話が出来るだらう。──さう、結構面白く読むことができた。ただまあ、西瓜糖の世界で暮らす、といふことの意味は呑み込めないけどね。ヒッピーとかフラワーチルドレンとか、ジェーファーソン・エアプレインとか、サイケデリックとか、流行は繰り返すから。

2007-11-16

89.野獣死すべし

ニコラス・ブレイク/永井淳訳・ハヤカワ文庫
同じ題名の大藪春彦のはうは読んだことがある。内容はあまり覚えてないが、伊達邦彦とかといふ主人公だつたかな。面白かつたから、続けて何冊か大藪春彦を読んだのだ。1938年に書かれたものだから、当然こつちのはうが先。この題名は江戸川乱歩が付けたものだ、と解説で植草甚一が言つてるけど、大藪春彦も江戸川乱歩とかかはりがあるんぢやなかつたかな。それは兎も角、ニコラス・ブレイクはペンネームでセシル・デイ=ルイスといふのが本名で、詩人でもある。俳優のダニエル・デイ=ルイスは息子だとwikipediaには出てたけど、顔が思ひうかばない。この「デイ」のところを「デル」、「デル=ルイス」と、どうも読んでしまふんだな。理由は解らない。ブレイクについては植草甚一の「雨降りだからミステリーでも勉強しよう」の中で、ちやうどシムノンについて書いてあるところの少しまへで触れてゐる。この「雨降り」には実は珍しく(線を引くことも滅多にしないし、書き込みも殆どしないで読むタチなのだが)幾つも付箋が貼つてある。こんど、この本についてhiko7 newsで書いてみよう。話が逸れてしまつた。……大筋で言ふと、息子を交通事故で失つた父親フィリクス・レインが復讐するといふ話なのだが、第一部が「フィリクス・レインの日記」になつてゐて、これが入り難かつた。何度か読み始めたけど、乗れなかつた。今回は20頁くらゐ、スイスイと読めて、それからは一気だつた。ミステリーだから、とかトリック云々なんて考へないで素直に読んでも充分面白く読める。具体的には挙げられないが、凝つた表現や、人物の言ひまはしなども面白かつた。

2007-11-01

88.秘書室の殺人

中町信・徳間文庫(used)
こないだ渋川のBookOffで買つてしまつたのだ。迷つたんだけどね。酔ひどれ文さんシリーズの三作目。一つ一つを見てるとさうでもないが、探偵役は同じ会社に勤めてゐるので、そこで何度も殺人事件があるわけですからね。連続殺人が三回もある会社なんて、……。このシリーズはこれで全部読んだことになる。

2007-10-30

87.外套・鼻

ゴーゴリ/平井肇訳・岩波文庫
後藤明生の「挟み撃ち」の始めのはうにゴーゴリの「外套」の話が出て来る。ゴーゴリの名前は聞いたことがあつた。後藤氏は二十歳の頃にこの「外套」と「ネフスキー大通り」を読んで「ゴーゴリ病」にかかり、早稲田露文(因みに東海林さだおも早稲田の露文で、後藤氏の卒業が1957年、東海林氏は1937年生まれで一浪後の入学なので辛うじて重なる?)の卒論は「ゴーゴリ中期の中篇小説」だつたとみづからの年譜に書いてゐる。一度、どんなものか読みたいと思つてゐた。正直なところ、ゴーゴリ病にはならないやうだ。ほかにも読みたいとは思はなかつたから。漸く手に入れた外套をその日のうちに奪はれ、病気で死んでしまつたアカーキー・アカーキエヴッチが幽霊になつて、といふ話である。鼻のはうは或る朝コワリョフといふ男の鼻が取れてしまつた、といふカフカの「変身」的なもの。内容については書かれた年代(ゴーゴリ1809-1852)を思ふと斬新かも知れないが、訳の日本語に時代差を感じる。

2007-10-20

86.夜の訪問者

プリーストリー/安藤貞雄訳・岩波文庫
簡単な25までの数字をまちがへてゐた。21の「奥利根殺人行」の次がやはり「21. 湯野上温泉殺人事件」となつてゐたことに、ついさつき気がついたのだ。なので、ひとつづつ順繰りになほした。
これはきのふ読みをへた。一昨日、殆ど読みをはつてゐたのだが、最後のドンデンがへしのところを読みなほした。題名について一言、先に書いておく。原題は an inspector calls で、警部の来訪。最初の翻訳(1951年)が「夜の来訪者」で、それが含蓄的だと解説にあるが、「警部の来訪」もまた含蓄的だと、オレは思ふんだけど。……裕福な、と説明してある四人家族と娘の婚約者が一同に介した夕食の後、とつぜん警部が訪れる。警部が伝へた家族の誰もが知らなかつた筈の若い女の自殺事件に四人の家族がしだいにかはつて行く。そして一つの解決。更にドンデンがへし、と言つてしまつたら読み手の興をそいでしまふか。一気に読ませる。短い作品なので、半日あれば読めるかも。
ホントに一箇月ぶり最後まで一冊読んだ。「アメリカの鱒釣り」と「見知らぬ乗客」が途中まで。「幕末・維新」が1/3くらゐ。「フランドルへの道」が第一章まで。「1984年」が半分くらゐ。「クリシーの静かな日々」が最初の「マドマゼル・クロード」を読んだだけ。「マルーシの巨像」が22頁まで。中途半端なのはそれだけかな。やつぱキチンと最後まで読まないと。途中、ちよつと忘れたり、大事なところを読み飛ばしたりしたとしても。

2007-09-17

笑われる理由(再読)

立川志の輔・祥伝社NON BOOK
もう十年以上まへに読んだもの。最初のページに志の輔師匠のサインと角印を頂いてをります。しばらく「鋼の錬金術師」にはまつてゐたから、文を読むのは久し振り。ま、これは落語のと言ふよりもタレント本。どうしてわたしは噺家になつたのか、といふ経緯やテレビやラジオの裏側が書いてある。そして勿論、師匠談志のこと。ちよつとしか触れてないけど、実はこれが読みたいんだな。弟子から見た談志の話が読みたいワケさ。

2007-08-24

85.四国周遊殺人連鎖

中町信・ケイブンシャ文庫(used)
期待してたワケではないが、もしかたら、とは思つてゐた。こないだ高崎のほんだらけで2冊見つけたから、なにげに朝倉のBookOffに入つたら、あつた。あと10冊くらゐなので、集めてしまはうか、とも思ふが。──これは氏家シリーズの3作目。この前に佐渡金山、阿寒湖と書かれていることは、この中で氏家たち自らが語つてゐる。娘が誘拐されてるのに四国に旅行する親つてのは、話の中でも不自然だと言つてるけど、不自然だよ。そのことに目を瞑れば、面白い。氏家シリーズは氏家たちの視線で常に推理が展開して行くから、惑はされるけれども、それは寧ろ計算で、作者の仕掛けなのかも知れない。

2007-08-18

84.人事課長殺し

中町信・TOKUMA NOVELS(USED)
これも酔ひどれ文さんシリーズで、こつちは4作目。「湯野上温泉」同様プロローグとエピローグに挟まれてる。プロローグをどう読み取るかで本篇の面白さも違つて来る。ちよつとした誤解で推理が進むといふパターンはお馴染みだ。探偵役がどこでそれに気づくかによつて、白けてしまつたりもする。ここでのダイイング・メッセージも無理があると思ふ。

2007-08-17

83.湯野上温泉殺人事件

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
酔ひどれ文さんシリーズの2作目。1作目は「社内殺人」で、太田のほんだらけで200円で見つけた。これはやはり中町信の文さんシリーズの一つ「人事課長殺し」と一緒に並んで高崎のほんだらけにあつたものだ。大ドンデン返しが予想されるので最初から「まさかなあ」の人物を犯人ではないか、と読んでしまつた。写真を使つたダイイング・メッセージには無理がある。だつて、この写真のことが出た時、段ボール抱へてる人は誰だらう、と思つたのに、最後の最後で取り上げられる、つてのは、どうでせう。ダイイング・メッセージについては見事だ、と思つたものがない。でも面白いスね。氏家シリーズがあまり好ましくないのだよ。

2007-08-12

82.奥利根殺人行

中町信・ケイブンシャノベルズ(used)
偶然、Book Offで見つけた。もう近所のBook Offやほんだらけでは手元にない中町信は手に入らないと思つてゐた。
これはなかなかよく出来てるんぢやないかなあ。多門耕作シリーズの3作目で、これ以降多門耕作シリーズは書かれてゐない。このシリーズは気に入つてゐるので残念だ。特に多門の推理の仕方が、他の中町作品と微妙に違ふやうに思へる。犯人を絞つて行く時にあまり飛躍しない。と言ふか、判断保留、可能性もある、といふ姿勢でゐることがある。そのはうが自然だと思ふので気に入つてる。相棒の堀田晴代が典型的な中町的な素人探偵かな。中町作品ではお馴染みの、読み手が勝手に勘違ひして推理するやうに書かれてゐるが、プロローグを注意して(先入観を捨てて)読めば犯人は当て易いし、トリックも解り易い。蛇足ながら、多門耕作は渋川の出身で、渋川高校のOBなのださうだ。

2007-08-11

81.遊動亭円木

辻原登・文春文庫(used)
この人の本ははじめて読んだ。「村の名前」で芥川賞、本作で谷崎潤一郎賞。毎日新聞の連載小説が、いまはこの人と宮部みゆき。どつちも読んでないけど。噺家が主人公で、しかも盲目。円木をふくめた人間模様。ついつい語りたいところを抑へた書き方なので、余韻が残る。話の筋にも工夫があるので、一つの長篇のやうに読むことも可能だらう。谷崎の「台所太平記」、山口瞳の「居酒屋兆治」、井伏鱒二の「荻窪風土記」などを思ひ起こした。「居酒屋兆治」が近いか。もうこの年になると、この手の話は自分の人生だけで沢山だな。
──ひとつだけ余計なこと。円木の父の命日が五月十四日。第一話で相撲の夏場所見物に行く日が五月十三日。この部分の記述に翌日が父親の命日だとは一言も触れてないのは如何なものか。円木の父親の死に方は極楽往生ではないし、後に結婚することになる寧々の父親との絡みがあり、円木は忘れることはないだらうし、妹もその日が父の命日の前日である、と言葉の端にも上らないのは、この時は、と言ふのは作者が書き始めた時には父親の命日が決まつてなかつたのかも知れないが。(07.08.12追加)

2007-07-30

80.ガイアの科学 地球生命圏

J.E.ラブロック/スワミ・ブレム・プラブッタ訳・工作舎
ガイアとは生きてゐる地球、生命体としての地球──さういふ意味だと漠然と思つてゐたが、P36に「地球の生命圏、大気圏、海洋、そして土壌を含んだひとつの複合体」と定義されてゐるし、ガイア仮説とは、地球、大気、海洋の物理的化学的条件がかつても今も生命自体の原則によつて積極的に生命に相応しい快適なものに保たれてゐる、とする仮説だと巻末の用語定義にある。つまり、生命と惑星(この地球)の条件は別々に進化したわけではなく、生命の存在と大きく関はつてゐると言ふ。地球に生命がなければ、この惑星は火星や金星になつてゐた、とも。大気汚染などにも触れてをり、オゾンの破壊──減少についてはかなり楽観的だ。化学の説明が覚えられなくて、意味がよく解らないところもあつたが、概ねそんなところだ。予想してゐたほど難しくはなかつた。シェルドレイクの「生命のニューサイエンス」のはうが、よつぽど厄介だつた。

2007-07-22

79.国家の品格

藤原正彦・新潮新書(used)
「バカの壁」ほどではないが、読まなくても一向に差し支へない。現在、世界が陥つてゐる精神面での荒廃は、論理性や合理性の尊重・偏重が原因であり、修復するには先づ「武士道精神」を復活させるべきだ、といふ意味のことが書いてある。論理だけでなく、情緒と形を重んじろ、その尤も端的なものが武士道精神である、と。しかし、この武士道は新渡戸稲造の武士道解釈に基づいてゐるさうだ。武士道は素晴らしいものであり、なにしろ武士は貧しかつたが、農民(町民だつたかな?)から尊敬されてゐたのだ、と書かれてゐたのがどこだつたか、探したけど見つからないのだが、後半に入つて読むのにかなり違和感があつた。よつぽど暇だつたら、読んでみるのもいいかも知れない。

2007-07-17

模倣の殺意(再読)

中町信・創元推理文庫
これはやつぱり面白い。二度目、この前の状態の「新人文学賞殺人事件」も読んだから三度目になるわけだが、面白い。センテンスが短く、東海林さだおみたいに行替へが早いから、スラスラ読めてしまふ。「とか」はあんまり気にならなくなつた。この仕掛けはホントに意外だつた。そんなのありかよ、と思ふけど、あり得ないとは言へない。まだここでは「あの人が犯人だ」と登場人物が激しく独断的に(読者のはうが寧ろ「おいおい、そこまで言つて大丈夫かい?」と心配するほど)思ひ込み、刑事さながら問ひ詰める、といふ展開は表に出てないけど、柳沢邦夫を疑ふ津久見伸助にはその兆候がある。

2007-07-13

飛騨路殺人事件(再読)

中町信・TOKUMA NOVELS
二年くらゐ前に読んだから、殆ど忘れてゐたけれども、登場人物の会話を中心に推理が進むといふ、中町信の定石。だから後半で真犯人は誰かといふ辺りで、強引な推理と言ふか、さう決め付けるのはまだ早いでせうに、とか、あの腕時計のことはどうなつたの、とか、どうやつて南条美雪を突き落としたのか説明がな〜い、とか、殺人犯を別人と思ひ込んでた強盗犯人が、なんで脅迫状の下書きの一行目の頭に新田多岐子と書いたのか、など、疑問が残るのだ。前に読んだ時の感想はどうだつたのか。かういふところが中町信の魅力でもあるのだが。作家専業になる前、1988年以前のはうが充実してる、といふ折原一の意見に賛成。「模倣の殺意」でも読み返すか。

2007-07-08

78.迷宮の美術史 名画贋作

岡部昌幸(監修)・青春新書INTETLLIGECE
明治維新に関する新書を読んでゐたけど、途中で人名や用語、事実関係が頭に入らなくなつて、これが手に入つたので読み始めた。贋作には興味があつた。特にこれにはフェルメールの贋作で知られたメーヘレンの話が出てるので半分くらゐ一気に読み進んだ。フェルメールは大好きで、中央公論から出てゐる「フェルメール全作品」(25年ほど前で43,000円!よく買つたよなあ、今は絶版)も持つてゐるし、国外持ち出しが最後だと言はれた「青いターバンの娘」の実物を家族連れで大阪まで見に行つたものだ(懐かしいなあ)。勿論、スカーレット・ヨハンソンが出てゐた映画「青いターバンの娘」もDVDで見た。HPでその感想は書いてるから繰り返さないけど。メーヘレンだけでなく、贋作の実作家や贋作を画策したり販売した画商の話、世界中の美術館に贋作が真作として展示されてゐる可能性もある、とは面白い。国立西洋美術館だつて騙されちやふんだから、素人なんて一捻りだらう。偽物か本物か、有名か無名か、どつちが偉いか、貴重か、さういふ基準で絵を見たら、さうなるよな。なかなか面白かつたけど、もう少し詳しく、また図版での比較ももつとあつたらいいのだが、新書では限界ですかね。

2007-06-25

77.忘れられた日本人

宮本常一・岩波文庫
これは網野善彦の本で知り、すぐに手に入れ(探し始めた初日にヨークベニマルのくまざは書店で見つけた)ずつと、ゆつくり読んでた。この本の題名を含めた著作が網野善彦にはある。ここには確かに忘れられた日本人がゐて、それはオレの祖父や親父の代までは当たり前の人たちだつたのだ。同じだとは言はないけれども、繋がつてゐたのが解る。民俗学は馴染めなかつたが、これは面白く読めた。次から次へとページを捲らずにはゐられない面白さとは質が違ふが。中の「土佐源氏」は確かに創作だと思ふ人もゐよう。田中小実昌の小説を思ひ出した。もう一度ゆつくり読まうと思つてゐる。それは網野善彦の本もさう。実際コメント出来るほど解つてないから。これは凄いことが書いてあるぞ、つてのを感じるだけだから。

2007-06-11

76.日本の歴史をよみなおす(全)

網野善彦・ちくま学芸文庫
ヨークベニマルの本屋で立ち読みしてゐて、ワクワクした。十四世紀、中世の日本で大きな転換期があつた、と言ふ。つまり、明治維新から現代へ、といふ繋がりではない、十五世紀から現代までは一繋がりだと言ふワケだ。なぜさうなのか。それがこれには書かれてゐる。まだ読み終へたばかりで頭の中のあちこちに散らばつてるから説明出来ないけれども、先づ、これだけは書いて置かう。百姓=農民ではない、といふこと。水呑は田畑を持たない小作以下の農民だけを指すのではない。飢饉は農民の少ない土地で起つた。それを知つただけでも1,260円(税込)は安い。ほかにもたくさん、これこそ正に目からウロコが落ちる。網野善彦をもつと知りたい。……続けて二冊読んで、要するに小説が読めなかつたんだ、と漸く気がついた。去年、食べ過ぎたかもなあ。

2007-06-09

75.タバコ有害論に意義あり!

名取春彦、上杉正幸・洋泉社新書
統計やグラフなどのデータを見る時は、鼻から疑つて掛かる、と言ふか、そこに出てゐる数字をあんまり信用しないやうにしてゐる。だいぶ前にチラと見た、たぶん大泉図書館で借りたか、立ち読みしたか、タバコが肺癌の原因であるといふのは捏造か、都合の良い統計結果に過ぎない、と書いた本があつて、それが頭にあつたからベニマルの本屋でこれを見つけてパラパラと捲るうち買ふ気になつたのだらう。通称「タバコ白書」(「喫煙と健康──喫煙と健康問題に関する報告書」1987)のデータが実はご都合主義の産物だ、と告発してゐるのだ。要は「白書」を中心になつて纏めた平山雄つて学者が掲げたデータへの言及で、うんうん、さうさう、と納得する。前半の名取氏の部分が特に面白い。タバコの煙は水蒸気やタールの粒子だから肺に蓄積することはなく、肺が真つ黒になるなんてウソだとか、死亡率や発ガン率の根拠になつてゐるグラフや表の杜撰な解釈にも言及してゐて、小気味いい。もちろん害がないワケはないけど、肺癌よりも喉頭癌で、受動喫煙なんて根拠がないし、吸はない人に不快な思ひをさせないやう注意を払へばいいのだ。ほぼ一日で一気に読んでしまつた。

2007-06-01

74.目からウロコの近現代史

河合敦・PHP文庫
やはり、もとに戻すことにした。前の形に慣れてしまつたせゐか自分が読み難いので。
特に目からウロコは落ちなかつたが、兎に角いま読んでるところのエピソードが時代の流れでどの辺になるのか解り難くて往生した。取り上げる話題で前後するのは仕方ないが、これぢやあ摑めないやね。意外性なんかよりも、かう、歴史がどう動いてゐたか、動いて来たか、だ。時々入つて来る個人的な感想、私的な記述は邪魔。解釈が読みたいのではなく、歴史の事実を知りたいんだから。「数学の広場」のはうはまだ単位で躓いて「分数と小数」に行けない。練習問題で「なんで?」が解決しない。

2007-05-26

ここまでやつて来て、なんの前触れもなく書き方を変へることにした。タイトルに番号と書名、記事の冒頭に著者名といふのはどうも、このブログのタイトルと合はないなあ、とずゐぶん前(と言ふか始めて直ぐくらゐ)から思つてゐたのだ。ときどき読書日記なんだから、番号付けて何冊読んで、つてのは違ふな。──といふわけで、ここから、けふからときどき、読んでる本について書いて行く形を採ることにした。
さて、いま「目からウロコの近現代史」河合敦/PHP文庫(本については書名は鍵括弧付き、続けて著者──敬称略で、今後は凡てさうする──名、出版社名を記入し、次に再読は再、古本はU、再読古本は再Uといふ風にする)を、さうだなあ、かれこれ五日間くらゐ、ちびちび読んでゐるのだが、殆どがエピソードなので、歴史のお勉強としては頼りない。いま5分の2ほど読み進んだ。明治のところ。維新に動いて行く江戸末期から知りたかつたのだが、まあ手頃な入門篇のつもりだつたのだから、文句は言ふまい。著者は1965年生まれの現役の教師である旨、後ろの経歴に記されてゐる。これと「フランドルへの道」クロード・シモン/白水社は第二部の頭のところで滞つてるけど、たまにペラペラと始めから読み直したりしてゐる。あと一つ「数学の広場1数の生いたち」遠山啓/ほるぷ出版もバリンジャーの次に読み始めてゐて、いま第2章連続量のところが間もなく終る51頁で、次は第3章分数と小数。実はほかにヘンリ・ミラーの「クリシーの静かな日々」「マルーシの巨像」を読みかけてゐる。だから現在ほぼ同時進行的に5冊読んでゐることになる。滅茶苦茶だね。

2007-05-13

日常の極楽(再読)

玉村豊男・中公文庫
館林の図書館で単行本を借りて読んだのが最初で、その頃は「料理の四面体」を読んで玉村氏にハマつてゐた。続けて借りては読んでゐた。買へなかつたねえ、本が。CDもだけど(だからブランクがあるんだなあ)。これは古本屋で買つたもの。ハレとケ、特にハレガレの話は面白い。それと制ガン剤の副作用で羊の毛を刈るといふ話は、非常に象徴的な日本の現状、日本人の狂気、エゴを示してゐる。これに比べれば、給食費を払はない親がゐるなんて当たり前でせう。

2007-05-09

73.煙で描いた肖像画

ビル・S・バリンジャー/矢口誠訳・創元推理文庫
これは1950年に刊行されたもので、古典と読んでいいかどうか、ベストテン式に挙げられるミステリー作品はこの頃に書かれたものが多い。或はポオとか、ホームズものなど、もつと古くなる。逆にここ10年くらゐのあひだに書かれた海外のミステリーを読む機会のはうが少ないワケだ。翻訳する人がゐないと読めない。あれだ、パトリシア・コーンウェルなんかは最近の人だ。確か、オレと同い年くらゐの筈。……ま、そんなことはどうでもいい。主人公のクラッシーが17才で手にする美人コンテストの賞金が100ドル。その賞金を作るために地方新聞社の経営者が処分した車の代金が75ドル。クラッシーの婚約者バッカムが抱へたカード負債額1,200ドル。2007年5月の為替レートだと1ドル=120円かな。賞金12,000円、車が7,500円、負債144,000円。しかし、1950年代の物価はどうだつたか、ちよつと調べた。凡そ10分の1。大卒の初任給(公務員)が10,000円に満たない。とすると、賞金120,000円→公務員給料1年分、負債1,440,000円→これは10年分ぢやないか。ちよつと実感があるかな。内容と関係ない話をしてるが、主人公のダニーとクラッシー、この二人の行動が交互に描かれ、最後に一つになる。そこで(後から考へればそれほど意外ではない)クラッシーの行動がダニーを窮地に追ひ込む。事件は解決してないが、ここで終つてほしい。

2007-05-04

72.サミング・アップ

モーム/行方昭夫訳・岩波文庫
これは「要約すると」といふ題名で既に翻訳されてゐたものだと解説にある。「要約すると」が「サミング・アップ」だと知つたのはいつだらう。新潮社の出版カタログにあつたモーム全集のところに「要約すると」があつたのは覚えてゐる。その頃は、恐らく高校を出て直ぐか二十歳ちよつと過ぎくらゐの生意気な盛りだから、通俗的だとかなんとか、なにを通俗的と呼ぶのかすら考へたこともない癖に偉さうにモームは通俗作家だから、と敬遠してゐたものだ。若さとは未熟さだ。吉田氏の言ふ通りだよ。当時はしかし「月と六ペンス」は読んでゐた筈だ。ゴーギャンをモデルにしてるといふことで読んだのだが、主人公の生き方への興味はあつたけれどもモームについては惹かれるものがなかつた。それが「お菓子と麦酒」で一気にオレにとつて重要な作家になつた。それから「コスモポリタンズ」「アー・キン」「女ごころ(丘の上の別荘)」と集めて読んで来たわけだが、そこで漸く「要約すると」=「サミング・アップ」が新訳で出るといふ新聞広告を見て注文したのだつた。読み始めて、意外に手子摺つた。小説では気にならなかつた言ひ回しの灰汁みたいなものを感じてすんなり頭に入らない。訳者の違ひか。簡単な日常英会話すら出来ない癖に、こんなことを言ふのは気が引けるが、例へば「お菓子と麦酒」には「序」があつて、これがなかなか読ませるのだが、ちつとも抵抗なく頭に入る。続く小説の冒頭も、癖のある言ひ回しでストレートに語り始めてはゐないから、ここで躓く人がゐてもをかしくない。さういふ特徴とは違ふものがある。例を挙げよう。著作権に引つ掛かるかな。なるべく短く。要は大抵の人は人生設計が決められてゐて自由がない、と言ひ、かう続く。「こういう設計が、誰かが自分で描こうとした設計図と同じように完全でないという理由はないと思う。」──オレにはこの言葉の意味が呑み込めない。意味不明。読解力がないのか。いや、これは日本語になつてないでせう。英語の正しい翻訳かも知れないが。かういふ文章が何箇所かある。新潮社の全集は中野好夫氏の訳だ。確か「月と六ペンス」も。そつちも読んでみたいが、手に入るかどうか。とても示唆にとんだ内容なので、要再読。この人の新訳で岩波は「人間の絆」上中下を出した。新潮も上下二巻にして出した。モーム、シムノン、グリーン、ハイスミスは重要なのだよ。

2007-04-16

榛名湖殺人事件(再読)

中町信・TOKUMA NOVELS
中町氏のコレクションの中から敢へてこれを選んだワケは勿論タイトルで、榛名湖、伊香保、前橋などの地名が出てくるし、刑事はなんと渋川署だ。豊田商事事件の頃に書かれたものか、開堂商事といふ名前の似たやうな悪徳商法の会社が出てくるのはいいのだが、この会社は倒産してから三年近くたつ、と主人公の有馬(これも渋川の地名で存在する)悦子と入院してゐる病院の婦長との会話の中で話してゐるのに、開堂商事主催の伊香保旅行が二年前、更にそこに有馬が努めてゐたのが一年半前だと書かれてゐるのは、一体どう解釈すればいいのだらう。倒産した会社に勤めるなんてことが出来るのか。今回読み返して気になつたのはそこだけど、前に読んだ時には気づかなかつたのかなあ。幾つか伏線らしき部分、引つ掛けの部分には騙されなかつたから真犯人は解つたけど、トリックは完全には解けなかつた。

2007-04-12

71.殺人交差点

フレッド・カサック/平岡敦訳・創元推理文庫
最後の最後で、ホントに最後のページで真相が知らされる。さうだつたのか、やられた、と思つた。表題作のほかに「連鎖反応」といふのも入つてゐる。どつちもなかなか面白い。

2007-03-07

70.九つの殺人メルヘン

鯨統一郎・光文社文庫(used)
去年「邪馬台国はどこですか?」と「新・世界の七不思議」を続けて読んだ。どつちも面白く読んだけれども、2冊とも事件(或は犯罪)があつて、それがどうやつて行はれ解決されたか、といふ推理ではなかつた。設定は同じく安楽椅子探偵といふ形式だけれども、これは事件(或は犯罪)を扱つてゐる。この形式は会話を中心に進むので入り易く読み易い。都筑道夫氏の「退職刑事シリーズ」もさうだし、鮎川哲也氏の「三番館シリーズ」もさうだ。アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」が有名らしい。これもずゐぶん昔に読んでゐる。──で、更にこれはメルヘンの新解釈を織り込んで、それを謎解きのヒントにしてゐるところが一工夫だらうか。まあ、メルヘンの新解釈は以前読んだ「昔話にはウラがある」みたいに、ちよつと強引なものがあるけれど、これはそれほどには感じなかつた。最後の1話を除いてアリバイ崩し。最後のは小人の靴屋の話を使つたワケがピンと来ない。上記の2作ではカクテルだつたのが日本酒に代はつて、やはり料理を含めた蘊蓄も語られるのだが、実は作者は料理や酒に余り興味がないのではないか、といふ気がして仕方がない。思ひ入れのやうなものが伝はつて来ない。意図してそこそこで切り上げてゐるのだ、と好意的に解釈しよう。充分に面白いけどスリルは物足りない。

2007-02-09

69.超能力の世界

宮城音弥・岩波新書(used)
もとは「神秘の世界」で、これは改訂版だといふ。それでも兎に角、古い。使はれてる写真も輪郭のはつきりしないものだし、取り上げてゐる事例も20世紀初頭のものばかり。科学的に検証する云々といふところが、hiko7 newsとかぶつてるのは偶然。勿論、意味のある偶然の一致だ。それなりに面白く読んだが、新書つてのは、なんか食ひ足りないね。

2007-02-05

68.感じない男

森岡正博・ちくま新書(used)
これには困つた。香山リカに続いてハヅレだ。なにが言ひたいんだらう。男の不感症についてだ、といふことは始めに書いてある。しかし、ここに出て来る仮説はオレには牽強付会、我田引水にしか見えない。筆者は大学教授ださうだが、かういふ人がものを教へる時代なんだと思ふと怖いね。(自らの思春期の告白を読む限り)精神的にキズを持つてるやうだし、キズがあつてはイカンとは言はないが、その癒え方が微妙に捩じれてゐるのではないか。心の中を、と言ふか頭の中を探つて行けばどうにでも解釈出来る無意識部分の説明は強引だし、如何にも紋切り型で単純な推理だよ。さうでないものは受け入れられない屁理屈だ。その都度否定する偏見と性犯罪傾向は、レトリックなのか知らないが、氏自身は自覚してゐないだけで、犯罪資質は充分に備へてゐると思ふし、偏見もずゐぶん持つてるやうに感じる。

2007-01-26

67.問ひ質したき事ども

福田恒存・新潮社
これは1982年に買つたものだ。裏に黒い万年筆でさう書き込みがある。この書き込みの習慣のために恐らく死ぬまで読む事もないだらうと思はれる本があつても棄てる以外に処分の方法が見付からず持て余してゐるのだが、……。それから続けて「知る事と行ふ事と」、「人間不在防衛論議」の2冊を購入した。この2冊は2004年に自転車事故の頃に既に読んだ。これが後になつたのは、こつちのはうが著作として新しいからだ。国防に関する記述と韓国の政治を巡るものが多い。勿論、国語、言葉に関するもの。それが目的で買つたワケだ。なにしろオレは福田氏の「私の国語教室」を読み、歴史的仮名遣ひを使用することにしたのだ。言つてみれば師匠である。

2007-01-24

66.貧乏クジ世代

香山リカ・PHP新書(used)
副題として「この時代に生まれて損をした!?」とある。なぜこの本を買ひ、かつ読んだのか、読み終へたこつちが「!?」だつた。なにが言ひたいんだらう「??」。テレビでたまに見掛ける精神科医で、名前がリカちやん人形の(たぶん)本名を借りてること、オタク擁護の本がある、などの予備知識しかないが、視点がブレてないか。と言ふか上つ面過ぎないか?70年代に生まれた世代像を分析したり、男女雇用均等法などに触れながら女性の雇用の現実などにも言及してるけど、一体何が言ひたいんだらう。生まれた時代が悪かつた、昔はよかつた、なんてことはどんな世代でも考へる、いや、若いうちはさうやつて逃げ道を見付けるワケだ。それを口にするかしないか。口にする世代、人間を相手にしてその世代の特徴はなどと考へても仕方がないだらう。敗戦、テレビの登場、家庭電化製品の氾濫、東京ディズニーランド、ファミコン、携帯電話、この辺が大きく関はつてるんだよ、この腐敗した日本の現状は。生活が変はつたんだ。それは人間の感じ方、見方、考へ方を変へる。もともと明治維新から何かが大きく変はつて、それが実は付け焼き刃だつた、といふことなんぢやないか。……明治維新に就いて、その前後の状況に就いてもつと勉強してからでないと、これ以上は言ひやうがないけど。少なくとも「バブルの崩壊」なんて関係ないよ。この言葉は既に中身がなくなつてる、幻想だよ。

2007-01-21

65.悪い食事とよい食事

丸元淑生・新潮文庫(used)
小説を読む気になれなくて漫画を続けて買つて読んだ。でも活字が読みたくて、BookOffでパラパラ捲つたら「腰痛者を作り出す食事」なんてのがあつて、続けて「高血圧を予防するカルシウム」が目に付いて買つた。読み易いのでスラスラ読んだけど、あんまり内容は覚えてない。数種類の、精製してない穀類と海藻と豆類などが何度も出て来たのは覚えてる。腰痛はカルシウムの不足。高血圧にもカルシウム。たださあ、食べ物つてのは栄養だけで考へられない、見た目とか味とか、旨い不味いがあるし、……吉田健一氏の言ふやうに、旨いと思つて食べるものが体に悪い訳はない、といふ意見、実に納得するんだよなあ、吉田氏が言ふからなんだけど。野菜とか、レタスだのピーマンだの茄子だの胡瓜だのトマトだの、急に食べたくなつたりするし、豆腐とか昆布とかもスーパーで眺めて「あ、食べたい」と思ふことがあるから、体が必要とするものは「食べたい」と思ふんぢやないのかね。そんで、それは旨いと感じるんだよ。栄養の知識はあつたはうがいいけど、それが嵩じると「あるある大辞典」みたいなことに、……ま、この本はまた後で時々パラパラと捲るかもなあ。この人は「赤い月」とかいふ小説で、むかーし芥川賞の候補になつた人でせう?違ふ?……どつちでもいいんだけど。

2007-01-18

64.鮫肌男と桃尻女

望月峯太郎・講談社ミスターマガジン(used)
一緒に「バイクメ〜ン」も買つて読んだけど第1巻だけなんで触れない。こつちは一応1巻完結なので。序でに言ふと、吉田戦車氏の「伝染るんです」の2と3、業田良家氏の「ヨシイエ童話6 LOVE男」も読んだ。望月氏は「バタアシ金魚」と「ドラゴンヘッド」だつけかな。どつちも読んでない。絵は好きだね。好きになれない絵つてのは、あるから。植田まさし氏は結構買つて読んだけど絵そのものは好きになれない。桃尻娘つてのがある。橋本治氏の小説だつたか。こつちは女だけど、桃尻つてところが頂いてるよな。鮫肌だつて、ビックリハウスだかの周辺に鮫肌文殊といふ人がゐなかつたか?ダメだよ、頂き物ばかりぢや。特別話に工夫があるとは思へなかつたけど、……。

2007-01-17

62.63.源さん刑事 上・下

業田良家・竹書房文庫(used)
「ヨシイエ童話」の1つで、去年読んだ「世直し源さん」もさうだつた。業田氏は「執念の刑事」といふのを読んだことがある。館林で一人暮らしをしてた頃だ。もう20年も前だなあ。あの頃よりもずゐぶん絵が、線が巧みになつてると思ふ。

2007-01-08

61.氾濫

伊藤整・新潮文庫(used)
今年最初に読み終へたこの本はAmazonで手に入れたもので送料別で500円。昭和39年版で頁もすつかり焼けてゐる、だけでなく文字がたまに抜けてたり判読し難かつたり、現代仮名遣ひの中に凡そ十数箇所「いふ」などの仮名遣ひが紛れてゐたり、「來」「眞」などの正字が幾つかあつたりと、なかなか古本らしくて面白かつたが、作者である伊藤整氏の作品はいまは殆ど書店に並んでゐないといふことをご存知だらうか。古本屋にも、ない。少なくとも「若い詩人の肖像」とか「火の鳥」とか「鳴海仙吉」、この「氾濫」(ベストセラーになつたこともある!)は置いてない。「女性のための十二章」とかいふのがあるくらゐ。ま、そんな事情はどうでもいい。兎に角、伊藤整氏は現在忘れられた小説家であるらしい。それを残念なことである、とは実は思はないのである。なのに、わざわざ探して340円の送料を払つて手に入れたか。──それは、若い頃、このブログを始めた頃に書いた、本を読み始めた10代の中頃に「若い詩人の肖像」(棚にある文庫を見ると1972年11月6日に読み始め同月16日に読み終へたと鉛筆で書いてある)を読み、感銘を受けた記憶。そして知識として、この「氾濫」は中年の、確か50代の男女の絡みや性的なものも含めた恋愛を扱つた小説だと知つてゐたこと。更にこれを第1作とした三部作と呼ばれるものの残りの2作「発掘」、「変容」が入つた伊藤整全集の1巻を高校時代からの友人田中氏から貰つてゐて、次になに読むかなあ、と本棚を眺めてゐた時に手に取り、たまたまパラパラと捲つて、ちよつと面白さうだ、と感じたこと。これらがどういふ風に作用した知らないが、Amazonでパトリシア・ハイスミスの作品を検索してる時に伊藤整の「氾濫」が頭に浮かんだのだ、たぶん。でもまあ、迷つたね。高いもの。500円。当時の定価が裏にあつて、180円だから。ほんだらけとBookOffを回つたけど、ない。さうなると急にほしくなるんだ。中町信の時もさうだつたし、パトリシア・ハイスミスもさう。で手に入れて、といふ長い経緯はここでお終ひにして、どんな小説なのか。海外でも名前を知られた学者であり企業の重役でもある人物を中心にその家族、妻と娘の身から出た錆的ゴタゴタ、対称的な人物で旧華族の友人の俗物ぶりや女漁り、大学の実情、学閥、飲み屋のホステスさん事情、若い功名心の強い大学助手などが描かれ、人生の一部に付き合はされるワケだ。長篇はみんなそんな風に人物たちと一緒に時を過ごすやうに読みたいもので、これはさう読めた。けれども、どうにも欲・欲・欲の世界であつて、主人公の痛みは自業自得だとしか映らず、また中年男女の閨房描写もなんだか薄汚く感じる。ラストで主人公は自分のネガみたいな若い助手に復讐されるやうな形で娘を奪はれる、嫁に出すのだが、この辺が急ぎ足気味で畳み込んでる気がしないでもなく、また振り返ると結末から組み立てられたやうにも思へる。

2006-12-31

60.太陽がいっぱい

パトリシア・ハイスミス/佐宗鈴夫訳・河出文庫
それほど厚くもないのに時間が掛かつてしまつた。探すのにも、読むのにも。「11の物語」を読み終へてから探したが、太田イオンの喜久屋で見付けた。これか「見知らぬ乗客」を読みたいと思つてゐたのだが、「見知らぬ乗客」は今のところどこにも置いてないやうだ。古本屋にもない。──ルネ・クレマンはこれを原作にして映画を撮つたワケだが、最後のシーンくらゐしか思ひ出せないから映画をもう一度見ないと比べようがない。少なくとも主人公トム・リプリーは、アラン・ドロンとは違ふ。なぜディッキーを殺すのか。フレディは殺さなければならないだらう。捕まりたくなければ。トムには金持ちの息子に対する羨望、それと友情よりも寧ろホモ・セクシュアルな気分といふか、さういふのがあるんぢやないか。友情だけで友だちのスーツを着たり靴を(!)履いたりはしない。いづれにしても氏の小説は普通の、と言ふのもをかしいが、これまで読んで来たミステリーとは違ふ。アガサ・クリスティもコナン・ドイルも読んだことがないのださうだ。短篇と初期の代表的な長篇を続けて読んだことになるが、氏の言ふやうに、短篇と長篇の違ひは時間の長さと空間の広がりだけかも知れない。オレは短篇のはうが好きだね。こつちも読み応へがあつたし、読み終へてやつぱり溜息が出たけど、「11の物語」のはうが面白かつた。──今年はこれでお終ひ。「フランドルへの道」が年越しになつてしまふが、仕方ないだらう。

2006-12-15

59.11の物語

パトリシア・ハイスミス/小倉多加志訳・早川文庫
ずつと興味があつた人で、なにしろヒッチコックの「見知らぬ乗客」やルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」の原作者である。しかも、どこでさういふ話を読んだり聞いたりしたのかは覚えてないけど、映画よりもスゴイ、といふ風にインプットされてたから、なにがどうスゴイかはよく解らなかつたが、そんなにスゴイんぢやア是非原作を読みたいものだ、と思つてゐて、それが漸く「何読むかなあ」つていふ時に本屋の棚でふと見付ける、といふ具合にタイミングよく叶つたワケだ。……確かにスゴイなあ。溜息が出ちまふ。唸つてしまふ。きつと「太陽がいつぱい」の原作「リプリー」はものスゴイんだらう、と推測する。……が、これはハイスミス氏(女性の場合は嬢なのかね──と気になつて岩波の国語辞典で「氏」を調べたら、──岩波はさういふ点で便利なんだ、漢和辞典みたいにも使へるからね、──「日本で、人の氏名の下に添える敬称」だから間違ひではない)──の、デビュー作と解説に出てゐる「ヒロイン」を含む11の短篇集に就いて書くのだつた。サマセット・モームの「お菓子と麦酒」、ジョルジュ・シムノンの「仕立て屋の恋(原題は「イール氏の婚約」)」、グレアム・グリーンの「情事の終り」を読んだ時と同じくらゐ、こんなに密度の濃い、生身の人間を書く小説家がゐるのか、と圧倒された。ほかの人は長篇で、これは短篇集なので氏の長篇を是非とも読んでみたいものだと強く感じたが、序文でグリーンが「モビールに艦隊が入港したとき」を薦めてゐて確かにこれは素晴らしい。うーん、と言ふより悲しい。いや、一言では言へないね。いろんな思ひが絡みあつて唸つてしまふのだ。3つ続けて読むと疲れてしまふ。人生、と言ふか生きてる人間の厚み、深さみたいなものがズシーンと来るから。特徴的なのは、最後に読者は放り出されてしまふ、といふこと。オチがない。メデタシメデタシは、ない。少なくとも作者は「それからどうなつたか」のヒントさへ与へてくれないから、最後の一句を読んでから「どうなるのか」と考へてしまふのだ。1945年に書かれた「すつぽん」なんて今の新聞記事にあつても可笑しくないね。この少年と母親の心の動きの微妙さ、残酷さ。この本は後藤明生氏の「笑坂」と同じくらゐ読み終へたくない本でした。

2006-12-03

58.探偵ガリレオ

東野圭吾・文春文庫(used)
面白かつた。これは現代風のホームズかな。草薙がワトソンで湯川がホームズといふ役回りで、種明かしが物理。伏線はどこか、とか、トリックはなにか、なんて余計なことは考へないで付いて行くだけで充分楽しめる。全部で5篇。最後の「離脱(ぬけ)る」でお好み焼き屋のおばさんが赤いミニクーパーとBMWを間違ふといふのは、……。車に全く関心がなければそんなものかなあ。

2006-11-27

57.ある閉ざされた雪の山荘で

東野圭吾・講談社文庫(used)
なんとも気が塞いでゐたり、何か読みたいけど気持ちが続かない、といふ時にミステリーは大いに助かる。ちよつと前まで中町信氏の恩恵に預かつてゐたが、最近は東野圭吾氏だ。先づ文章が読み易いから、どんどん作品の中に入つて行ける。これも一日で読み終へてしまつた。限定された場所に集まつた人たちが次々に殺されて行くといふ、オーソドックスな、古典的な設定。引き合ひに出されるクリスティの「そして誰もいなくなつた」は読んでないし、映画にもなつたやうたが生憎見てゐない。犯人は半分くらゐ読んで指摘出来たけれども、動機や殺人の手口については解らず、最後に二転三転。込み入つた作りになつてゐる。大枠で叙述のトリックがある。それで「独白」があるわけだ。

2006-11-13

56.STILL A PUNK

ジョン・ライドン/竹林正子訳・ロッキング・オン
ずうつと首を長くして待つてゐた。(←いきなりこんなこと言つても解らないよね。実は2箇月くらゐ前に頼んだら再版中とかで期間が掛かつてしまつたのだが、Amazonには「在庫あり」だつたから、そつちに頼んだはうが早かつたかなあ、と後悔したけど、それが)漸く9日に届いて、以来暇があれば読み続けた。先づイギリスの労働者階級の家庭がどんなものか、正直知らなかつた。オレが子どもの頃より貧しいよ、たぶん。これでは階級制度への反発があるのは当然。その根の深さと言ふか、激しさは、日本のパンク、いやアメリカのバンドでも敵はない。マルコムとの確執とかアメリカ・ツアーの内情とか、そもそもセックス・ピストルズが出来上がつて行く過程とか、当時の音楽情報紙、レコードのライナー・ノーツ、或は新聞報道(そんなもんあつたか?)から得た噂や情報とは随分違ふなあ。ジョニー・ロットンのロットンなんて辞書で調べもしなかつたけど、「腐つた、腐敗した」つていふ意味なんだね、知らなかつた。それと奥さんつて15才も年上だつたんだ。なんか、さすがにジョン・ライドンだな。

2006-11-04

55.インディヴィジュアル・プロジェクション

阿部和重・新潮社(used)
カバーが気に入つてたので単行本でほしかつた、中身は二の次で。阿部和重氏は「アメリカの夜」を読んだことがあり、なかなか面白かつたし、これもハードバイルド風な書き方で読み易い。individual projection ねえ、どういふ意味だい?個々の、個人の投影?日本語になんねえな。意味はどうでも、途中からミステリーのつもりになつてしまつたから、日記体の使用は巧みだと思つたし、それで主人公は一体誰だ?的状況から大ドンデン返しが待つてるかと思ひきや、……ラストは、……最後は文学するんだね。中身より断然カバーがいいね。

2006-11-01

54.不連続殺人事件

坂口安吾・双葉文庫(used)
日本推理作家協会賞受賞作全集の中の1冊で、前に角川文庫だかで出てゐたのを持つてたけど、読まないうちに処分したか売つたかしたのだ。たぶん映画になつたと思ふ。カバーが映画のシーンだつたやうな、……記憶違ひかな。坂口安吾氏は「外套と青空」つていふのを読んだ覚えがあるが中身は覚えてない。どつちかと言ふと苦手だ。ただ推理小説は好きなんで偶然見付けて状態がよく安かつたので買つたのだが、これが存外にお荷物になつた。7月に買つたけど、いざ読み始めると鬱陶しくて頓挫してた。登場人物が多いのと、それがぜんぶ曲者だらけで、オマケに文章が読み難い。ああ、戦後つぽいなあ、と言つても具体的にどこがどうとは言へない。推理小説の面白さは感じなかつた。先づ疲れちまふんだよね、文章が頭に入らなくて。雑誌に連載して懸賞出したと出てるけど、トリックもアリバイ云々もどうでもいい感じ。ちよつとした試練でした。オレにはわからん、面白さが。

2006-10-25

53.名探偵の掟

東野圭吾・講談社文庫(used)
どうして東野圭吾氏の本は105円のものが置いてないのだらう。これも300円。みんなそのくらゐだ。それでも売れるつてことか。まあ、状態がいいのが多いけど。これは折原一氏の「七つの棺」みたいなもので、あつちは全部密室だつけな。ちよつと調べて来るか。よつこらしよ、と。……さうだね。「密室殺人が多すぎる」つてタイトルの上にある。……おつと読み返してたらスリープするところだつたぜ。折原氏と違ふのは扱つてるのが密室だけぢやなく、推理小説のいろいろなパターンであることと「白夜行」とはまるで違ふのが面白い。

2006-10-17

空白の殺意(再読)

中町信・創元推理文庫
カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読み終へて直ぐ一気に再読したものの、コメントを書くのが億劫だつたので暫く「下書きとして保存」してゐた。いきなりこの記事が登場するので驚かれるかも知れない。最初に読んだ時はこんな風に書いてる。──氏が触発されてこれを書いたと言ふディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を読んでみたい。書き方に登場人物たちや読み手の錯覚を促すといふ方法はここでも使はれてゐる。でも、それほどケレン味はないです。だから、なんでかうなの?つていふのもないです。──登場人物たちが錯覚を促してるわけぢやあないでせうに、何言つてんだろ。人物の言動が読者ををかしな方向に導くのだよ。これは群馬県高崎市が舞台で、オレには殆ど関心がない高校野球の話が結構重要なポイントになつてゐる。もともと「高校野球殺人事件」といふ題名だつたからなのは、前にも書いた。トリックの部分は確かにカーのそれと同様に作者に誘導された思ひ違ひなのだが、つまり注意深く読めば疑問として残るから、オレみたいに「やられた」とは思はないだらうが、カーのはうは主人公が犯人として疑はれてるので少し違ふなあ。どうして館林なの?つてのも残る。太田や足利ではダメなのか。

2006-10-14

52.皇帝のかぎ煙草入れ

ディクスン・カー/井上一夫訳・創元推理文庫(used)
中町信氏の「空白の殺意」(=「高校野球殺人事件」)のあとがきに、この作品みたいなものが書きたかつた、と出てゐて、ディクスン・カー(=カーター・ディクスン)は1冊も読んだことがなく、いづれ本屋で思ひ出したら買つて読まう、みたいなことを4月の「空白の殺意」のところで書いてる。太田のほんだらけで見付けて300円だつたけど、状態がすごくよかつた。始めはどうにも読み難くて、例のダメなタイプの文章ではないんだけど、言動以外の記述に癖があつて慣れるまでに20〜30頁必要だつた。読んでくうちに思ふツボ。ロウズ家の誰かに違ひないと考へたワケだ。ところが、……肝心のところを読み返し、確かにさう書いてあるぢやアないか。確かにこれは中町的だ。次はもう一度「空白の殺意」を読み返すことにしよう。

2006-10-06

51.白夜行

東野圭吾・集英社文庫(used)
この分厚さに先づ挑みたかつた。2冊、3冊と分かれたものでもいいのだが、出来れば1冊で分厚いのがよかつた。それと「レイクサイド」が面白かつたし、裏に書かれた粗筋で読んでみたくなつた。半分くらゐまでは淡々と進むので、それぞれの章ごとに本を置くことが出来たけれども、探偵の今枝が登場する第十章からは早く先を知りたくて止まらなくなつてしまふ。最初の殺人から残されてゐる謎に、主人公2人の成長に併せて燻つてゐた疑問がちやうど飽和点に達するからか、探偵の謎解きが始まつて一気に爆発するのかも知れない。この分厚さに匹敵する読み応へがある。まるで登場人物たちの19年間に付き合つた気がして、本を置いてホッと溜息をついたほどだ。この主人公2人の人物像が生半可なものではないので、オレには最終章の中程で起こる美佳への仕打ちは行き過ぎだと感じてしまふ。それだけオレが甘いのだらう。つまりこの2人は魂を売つてゐる。優しさや弱さは死を意味する、と信じてゐるのだらう。最後の最後で、雪穂はキッパリ桐原を知らないと言ひ切つて、この暗く重たい小説は終る。──もう一度ざつと読み返したいところがあるので、そしたらまた書き加へるかも知れない。
↑ 気になつてゐたことを箇条書きにしてみると、1.質屋の主人、桐原洋介を殺した凶器はなにか。2.パソコン・ゲームのデータが流出した経路は。3.倉橋香苗への疑惑はどうなつたか。4.雪穂の鈴つきのカギについて本人が漏らしてゐた筈だが、……で、該当するところを読み返して得た答へは、1.は恐く鋏だらうと予想してゐて、亮介の胸に刺さつてゐるのを見た笹垣が「彼の人生を変えた鋏だ」と言つてゐるから間違ひないだらう。2.は推測の域を出ないが雪穂には可能だつたらう。3.はすつきりしないままだ。篠塚の個人的な経緯から気が重いから問ひ質さない、といふことらしいが、部費の一部が部長である篠塚の知らないうちに引き出されてゐるのだから、警察に届けるかどうかは別にしても、ダンス部の部長として当人と話すくらゐはしないとをかしくないか。使途不明金なんだから、聞けるはずだ。尤も、さうなればそこで物語は少し違ふ展開になるだらう。4.は探すのに一番苦労した箇所。第四章の終りに出て来る。ここでもし中道がこの事件に更に興味を抱いて調べたら、田川はその鈴の音が気になつてゐたのだから、そのことを漏らすだらう。さうなるとまた違ふ展開になつたかも知れないのは、この時点ではまだ質屋殺しの事件は時効になつてはゐないからで、……(06.10.07)

2006-09-26

50.99.9%は仮説

竹内薫・光文社新書
さうだねえ、ツカミの「最先端の科学でも飛行機がなぜ飛ぶのか解つてない」で買つてしまつた。と言ふか、立ち読みしてゐるうちに、ここで読んでるなら買つちまつて最後まで読まう、と思つたからだ。本屋で本を買ふ時つて、大抵さうなんだけど、……。後半で触れられるホーキング氏の「実証論」が一番面白かつたかな。ホーキング氏関係をちよつと読んでみたくなつた。難しい、と脅してるから、うんと解り易いものから。竹内氏の著書はもう1冊、「ペンローズのねじれた四次元」(講談社ブルーバックス)といふのを読んだことがあるが、それに比べたらこつちは随分解り易い。砕けてゐると言へば聞こえがいいが、(笑)なんてのが挟んであるのは、ちよつと巫山戯すぎだらう。……これでちやうど50冊。Blogタイトルに因んで年間50冊を密かに目安にしてたから、一安心。

2006-09-18

49.漫画の時間

いしかわじゅん・新潮Oh!文庫
読むのに時間が掛かつたのは取り上げてる作品の数が多いからで、漫画評論集と裏に書いてあるけど、それは主に最初の「漫画の読み方」だらう。これをゆつくり読みたくて買つたやうなものだのだ。漫画家になりたかつたオレにとつては目からウロコの部分もあつた。他はコラムと言ふか寸評で、知らない漫画家が多いのに驚いた。

2006-09-10

48.越後路殺人行

中町信・ケイブンシャ・ノベルズ(used)
奇しくも去年の9月8日、イオン太田の喜久屋書店で購入し、9月10日に読み終へた創元推理文庫「模倣の殺意」からちやうど1年。集め続け読み続けた中町作品もこれが最後。改訂版を含めて31冊読んだことになる。まだあと10作品くらゐは300円以内で手に入る筈だが、もうこの辺でいいかな、と。他にも読んでない本が幾つもあるから。──といふ訳で、最後になつた中町作品は題名からも解る通り多門耕作シリーズの第2作目。もう1つの「奥利根殺人行」は入手不能。お色気シーンがある、といふ風に中町信をめぐるサイトには出てゐるけど、かういふのをお色気シーンといふのかなあ。……まあ、それはいいとして、事件が一度解決したと思はせてから、些細な疑問からドンデン返しになるのは意外だけど、ぎりぎりまで犯人扱ひされてた人間の心情と言ふか気持ちのはうはどうなんだらうねえ。気の毒なんてもんぢやなく、一種の冤罪だもんなあ。犯人の読みは当たつてゐた(だつて31冊も読んでるんだから、どんなに捻つて書くのが得意でも、或る程度のパターンは見えるでせう)が、動機は外しました。

2006-09-07

47.レイクサイド

東野圭吾・文春文庫(used)
映画になつた「レイクサイド・マーダー・ケース」(監督・青山真治)のDVDを先に見てゐる。役者が揃つてゐる中に(これはいつか誰かに言ひたいと思ひつつ、なかなか機会がなかつたので、ここで敢へて言つてしまはう、この映画の中でも何度か出て来るが、台詞によつて気味の悪い口周辺の動きを見せるので嫌ひな)薬師丸ひろ子が出てゐるのが配役についての不満だが、全体にどこか食ひ足りない映画で、さうだなあ、例へば伊丹十三氏の映画を見た時に受ける感じに似てるかも知れない物足りなさ。映画に関する理屈・理論や技術、感性なども優れてゐる、秀でてゐる監督、なのだらうが、その画面から受けるものはもう一つの現実ではなくスクリーン幕みたいに薄つぺらな世界、といふ風な感じがする。かなり大胆に、生意気なことを言つてるので、そこまで言ふならお前が撮つてみろ、つて言はれるかも。──ま、映画のことは兎も角、原作を読みたいと思つたのは、まあ、そんなことからで、2軒梯子したら状態のいい古本で見付かつた。東野圭吾氏のものは一度も読んだことがない、と思ふ。別に敬遠してゐたわけでも、高村薫氏や北村薫氏(なんと2人とも「薫」ぢやあないか!)のやうに「読めない」と感じたわけでもない。幾つも書いてるみたいだから、いつでもいいや、みたいな感じだつた。──で、映画は原作とはまるで違ふ、と、これも敢へて言つてしまはう。登場人物の数や性別の変更もさうだが、この小説の中でオレが一番いいと思つた場面が映画にはないことだ。並木俊介が事件の真相を知り、車に乗り込む。p265の最後の行から描かれる場面が堪らないだらう?子どもを持つ親なら、結構ジーンと来ると思ふんだけど。最後の最後で、そのことがまた新たな意外な犯行の動機を示すことになるのは見事だけど、悲しいねえ。

2006-09-03

46.能登路殺人行

中町信・ケイブンシャノベルズ(used)
シリーズものが幾つかあるのだが、最初のシリーズが売れない推理作家・氏家周一郎もので、これは作家専業になる前年くらゐから始まつて、かなりの作品数がある。因みに11作。次に課長代理・深水文明、探偵・多門耕作が前後して始まる。深水が4作。多門が3作。そして翻訳家・和南城健もの4作、一番新しいのが浅草寿司屋の山内鬼一もの3作だ。これまで多門耕作シリーズはBookOffでは手に入らなくて、Amazonで探してもダメだつたのが「ふるほん倶楽部」で漸く見付けた。のつけから真犯人が登場してゐることがある氏の作品の中ではゆつくりめ。ダイイング・メッセージが作り過ぎてる気がするし、真相解明までにゴタゴタしてるやうに思ふが、面白く読んだ。これにも「推理作家殺人事件」みたいな男女の絡みがちよつとが出て来る。余談だが、氏の6年前の新作(と言ふか、それ以降作品が発表されてない)「錯誤のブレーキ」がAmazonで5,000円で売りに出てゐた。オレは400円で買つたけど。愈々手に入らなくなるのかなア。

2006-08-30

45.小豆島殺人事件

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
プロローグで「私」を読み違へた。それが中盤まで尾を引いた。犯人の意外性はそれほどもない。気絶してる女性を暴行する。しかも3人掛かりだ。途中で意識が戻りませんか?よりも先づ、なぜ気絶したのか。数人の酔つ払ひに襲はれ、……といふ事情だと説明があるが、相手の顔が解らないといふことがあるでせうか?後ろからいきなり襲はれ、例へば何かで殴られて気を失ひ、だから顔が見えなくつて、……なんでオレが解説しなきやならないの?テニス部の5日間の合宿が小豆島から有馬温泉へと移動して行ふといふのも不思議でしたが。

2006-08-26

44.佐渡ヶ島殺人旅情

中町信・青樹社ビッグブックス(used)
元は「佐渡金山殺人事件」。でも、これはをかしいよね。佐渡金山つて言ふけど、佐渡金山付近で死体が見つかるのは1人だし、別に佐渡金山にまつはる連続殺人といふワケでもないので、こつちの題名のはうがいいでせう。えーと、P39で浜岡ゆり子が北本さんとは面識がないのに「すれ違つた」と証言するのはなぜですか?それと写真の話からホテルの入り口にオームの彫像が、と既成事実みたいに展開するのも撹乱の一種でせうか。これは氏家シリーズの第一作なのだが、どうやらここから始まつてるらしいのは氏家早苗の思ひ込みで、どれほどそれが捜査の妨げ、読み手の推理の妨げになつてゐるか、計り知れない。疑問に思ふことがあつても、横からガチャガチャ的外れみたいな意見を言はれて、と言ふか読まされてるうちに、疑問のポイントを見失つてイライラするのだ。上手い設定だね。写真の女だ、といふメッセージも、さう。そこにゐたすべての人ではないことは、慣れると解るので特にダイナミックな展開ではありませんね、中町さん。

2006-08-22

43.吉祥寺探偵局

いしかわじゅん・角川文庫(used)
「ロンドンで会おう」が面白かつたから、つい買つてしまたのだ。やはり、これも漫画だつた。漫画の持つアクロバットがある。羨ましい。棚に2冊あつて、初版のはうを選んだ。別に後で売ることを考へたからではない。初版でなくても高くなる本はあるし、貴重な筈が意外に出回つてることもある。この道に入つて覚えたことだ。

2006-08-20

42.推理作家殺人事件

中町信・立風ノベルズ(used)
男鹿温泉で推理作家が死ぬ。事故死か自殺か殺人か。続けて起こる女性編集者の死。更に推理作家が殺されて、……果たして犯人は誰か。主人公の女性編集者が真犯人に辿り着いたと思つた途端、どんでん返しが待つてゐる。──なんていふ解説はこれまでは省略したけど、たまには書いて見よう。後半に入り、珍しく男女の絡みの場面が出てくる。これまでに読んだ作品にはなかつたと思ふ。いや、なかつた、と断言しよう。なかなかに助平なシーンなのだ。読み終はつて、パラパラめくつてトリックの部分を再確認してたら、第4章が9月12日になつてるんだけど、これは9月13日ぢやないのかなあ。第5章が14日なんだから。

2006-08-13

41.女性編集者殺人事件

中町信・ケイブンシャノベルズ(used)
「殺戮の証明」を全篇にわたり大幅に加筆、削除、訂正したもの、と目次の前に添書きがある。かういふのを何と呼ぶのだらう。改訂版?中町氏の初期の作品にはこれが多い。題名はこつちのはうがいいかも知れないが、殺されるのは女性編集者だけではないし、……かと言つて「殺戮の証明」は相応しくない気がする。いづれにしても、初期作品の中では地味なトリックである。労働争議と絡ませてゐる点が重い雰囲気を作つてゐる。比較的オーソドックスなミステリーではないだらうか。面白かつた。

2006-08-07

40.無茶な人びと

中野翠・文春文庫(used)
中野翠氏の本は図書館で借りて何冊か読んでゐる。メディアに対するコラム、メディアを通した事件についてのコラム以外はお気に入りの芸人(古今亭志ん朝、中村勘九郎、高田文夫、浅草キッドなど)についての話。これまではそれほどでもなかつたが今回は特に、事件をめぐるコラムを読んで、ちよつとした違和感があつた。理解しよう、解釈しよう、位置付けしよう、といふ意思がある。それは事件によつては「なぜか」を強く感じるものもあるが、事件に限らず、発言の影には「解釈しよう」といふスタンスが感じられ、それが或る時は鼻に付いた。具体的に一箇所。P298の終りのはうからP299にかけて、「ことTVとマンガにかんしては私の世代はちゃっかりしてると思う。TVとマンガが一番ういういしく、イキオイがあり、激動していた頃に育った。黄金時代にいたと思う」といふ件。これは小林信彦氏の本で読んで呆れた「ヌーヴェル・バーグ以降の映画しか知らない世代は気の毒だ」(正確に覚えてないが、かういふ意味の発言だつた)と同じだね。特権階級なんだね。志ん生、文楽、円生を知らない世代は可哀相、さう言つてるのと同じだし。誰でも幾らでも言へることで、たぶん世代の差だらう、と片付けてしまはう。氏は団塊の世代らしい。だからかなあ、……。

2006-08-05

39.ロンドンで会おう

いしかわじゅん・角川文庫(used)
これは漫画だ。漫画を軽視してるのではなく、漫画が文章になつてる凄さ。モデル視されてる作家のものは一つも読んだことがない。これは偶然。「東京で会おう」も是非読みたい。

38.昔話にはウラがある

ひろさちや・新潮文庫(used)
ひろさちや。太田のほんだらけの棚で見付け、聞いたことある名前だな、と思つた時は、まどみちおと勘違ひしてたかも知れない。兎に角、表紙がよかつた。山本タカトといふ人の絵で、浦島太郎だと思ふが(海中でカメの背に乗つてるんだから他に考へやうがないだらう!)、実に怪しく美しい。これだけで買つたやうなもの。だから中身は期待してなかつたが、期待しないでよかつた。昔話の自己流の解釈で、興味深い解釈もあるが、概ね妄想と呼んだはうがいい。「アリとキリギリス」は確かに岩波文庫の「イソップ寓話集」にはないけど、仰るやうに「蝉と蟻たち」だけでなく「蟻と甲虫」といふのも参考にして作られたと思ふのです、私は。蛇足ながら。──序でに、どうせ読むなら佐野洋子の「嘘ばつか」(講談社文庫)のはうが桁違ひに面白い。06.08.13

2006-07-30

37.散歩する死者

中町信・TOKUMA NOVELS(used)
改稿後の創元推理文庫から出た「天啓の殺意」を先に読んでゐるので、その感想なんかは月刊彦七新聞HP=http://www6.ocn.ne.jp/~hiko7/omako.htmlで見て下さい。比べるまで気付かなかつたが、エピローグは「天啓の殺意」のはうが親切だつた。こつちで沸いた幾つかの疑問への答へがある。どうしても混乱するのは、どこまでが実際のことか、つていふこと。疑問はそこから発生する。この疑問は疑問として正解なのか、といふ混乱さへあるくらゐだ。旅館の女は誰か、仲居の証言とか、朝江の遺体確認をしたのが旅館の主人?とか。これ以上はネタバレなしでは書けない。P75上段の「消印は三月十一日の午後十二時から……」は「九月十一日」ではありませんか。九月の話をしてんですから。誤植ですかね。雑誌名が「小説世界」(「散歩する死者」)から「推理世界」(「天啓の殺意」)になつてゐるのは恐らく、「小説世界」といふのは実在した雑誌名だからではないか。怪しい記憶で言ふと、島崎藤村だつたか、田山花袋だつたかが、さういふ名前の雑誌に発表してたやうに思ふ。題名の「散歩する死者」は理由がよく解らない。「天啓の殺意」のはうがいいかも知れない。

2006-07-23

36.鬼平犯科帳(二)

池波正太郎・文春文庫(used)
池波氏のシリーズの中では、この鬼平シリーズが気に入つてる。最初はこの鬼平、テレビドラマが面白かつたのだ。吉右衛門、今は松本幸四郎かな、の長谷川平蔵はピッタリでした。その後で梅安を読んで、それから剣客商売。池波氏のものは、その時代、江戸時代といふものを感じる。馴染めない言ひまはしもあるけど、その時代に生きる人たちの声を聞く気がする。

35.新・世界の七不思議

鯨統一郎・創元推理文庫
「邪馬台国」の姉妹篇。こつちは古本屋にはなかつた。「ノアの方舟」辺りから飽きて来た。安楽椅子探偵ものとしても、単調だ。謎解きそのものは面白い。それは前作もさう。だけど、2匹目は鮮度が落ちて感じられるのか。アトランティスやストーンヘンジ、ピラミッド、ナスカの地上絵、モアイとは何か?といふ10代の頃にワクワクしながら友だちと語り合つた謎への答へが出て来るわけだ。しかも、意外な答へが。……でもこれは小説ぢやなくてもいいんぢやないかなあ。「邪馬台国」も読みながら、ちらとさう感じた。エッセイでもいいのでは?と。それにミステリーといふ形式でなくても。他にもいろいろたくさん書いてるみたいで、森博嗣氏のやうに。……まあ、当分、ここまでのお付き合ひ、かな。

2006-07-18

山陰路ツアー殺人事件(再読)

中町信・ゲイブンシャ文庫
この前の「阿寒湖殺人事件」を読みながら、似たやうな設定があつた気がして、特に旅行先での夫婦交換はあつた筈だと探したら、これだつた。どんな話だつたか忘れてたので読み返した。さうさう地震で旅館が崩れて、4階の部屋が3階に落ちてしまふのだ。誰がどの部屋にゐたのか、発見された部屋と実際にゐた部屋は同じか?といふ謎が二転三転し、そこに夫婦交換の謎、誰と誰か?が加はる。殺人の動機はなにか?殺されたり、陵辱されて自殺した、過去の事件の復讐。復讐が一番納得し易いといふことでせう。とは言へ、昔、祭りの日の雑踏の中で足を踏まれて(オレのこと)、例へばそれを根に持つて相手を捜し出して復讐する、なんて話があつたら、動機が弱い、なんて批評をされるだらう、恐らく……。再読を数に入れるか迷つたけれども、読み終へたものは数に入れることにした。だから読み終はつてない「フランドルへの道」は番号から外した。

2006-07-16

34.阿寒湖殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
去年の暮れが今年の初めに渋川のBookOffで見付けて、100円(税込105円)だつたから迷つたけど、こないだ実家に寄つた時に行つてみたらまだあつたので買つた。初期の、と言ふか専業になる前の氏家シリーズ第2作。かう言つては失礼だ(もうずゐぶん失礼なことは言つて来た)が、「下北の殺人者」(平成元年=1989年12月刊)から専業になつてるんだけど、どつちかと言ふと専業になる前の作品のはうが好きだね。真犯人は人物紹介の辺りでちよつと予想されるんだけど、三箇月前の道南ツアーへの参加つてところで思ひ込みがあつたし、早苗情報を深読みし過ぎてゐたから最後のドンデン返しは読み応へがあつた。……でも、コロポックルの人形は北海道のどこでも手に入る、つてこと?道南でも道東でも?どうなん?やつぱ阿寒湖、アイヌつて構図でせう。違ふ?道南つてのは函館とか小樽とかだよねえ。道南土産のコロポックル?栄町奈緒は車で連れ出されてどういふ経緯?確かに旅行中といふ設定だから凡てに納得の行く説明をするのは無理があるけど、……兎に角思ひ込みは要注意だよ。

33.獄門島

横溝正史・角川文庫
都筑道夫氏が「黄色い部屋はいかに改装されたか?」の中で横溝氏の最高傑作と太鼓判を押してゐるから読んでみるかな、と思つた、といふ話は、ひよつとしたら「本陣殺人事件」のところで言つてるかも知れない。20代の頃、……さう、その頃横溝作品はたて続けに映画になつてゐたのだよ。それで原作も、と幾つか読んだのだらう。「犬神家の一族」「悪魔の手鞠唄」「八ツ墓村」(これは贔屓のショーケンがタツヤ役で、確か「ワル」を書いてた影丸譲也がマガジンだかに連載してたなあ、といふことも思ひ出したぞ!それと序でに知つたかぶりすると「ワル」の主人公の名前が氷室京介だつてことは、みんな知つてるのかなあ?)「悪魔が来たりて笛を吹く」と「恐るべき四月馬鹿」(表題作は横溝氏が19くらゐで書いた処女作ではなかつたか?)ともう一つの短篇集を読んでゐる、と、これも「本陣」の時に言つたかな。「本陣」の時は気付かなかつたけど、落語とか芝居のダイアローグを思はせる場面が多いんだよねえ。金田一耕助と床屋の清公との掛け合ひなんかは落語のやうだし、最高傑作かどうかは措くとして、面白く読んだ。

2006-07-09

32.邪馬台国はどこですか?

鯨統一郎・創元推理文庫(used)
これは面白い。ミステリーとして読んだら物足りないけど、まあ、これも謎があつて解決があるわけだから。釈迦は悟りを開いたのか、邪馬台国はどこか、聖徳太子は誰か、明智光秀はなぜ謀叛したか、明治維新はなぜ起つたか、イエスの奇蹟は本当か、など学校で習つた物凄く詰まらない(ひたすら年号暗記の)歴史とはまるで違ふ。まともにもう一度日本史を勉強したくなつた。ひと先づ、姉妹篇「新・世界の七不思議」を古本で見付けなくちや。

2006-07-03

31.新人文学賞殺人事件

中町信・徳間文庫(used)
氏の小説を読み始めるキッカケになつた「模倣の殺意」の改稿前のもの。題名の変遷を辿ると、「そして死が訪れる」で第17回江戸川乱歩賞に応募。翌年1972年に雑誌「推理」に3回に分けて掲載された時には「模倣の殺意」。それが「新人賞殺人事件」で翌年双葉社から出版され、14年後の1987年「新人文学賞殺人事件」で徳間文庫。これがそれで、オレが前に読んだのは2004年に「模倣の殺意」で創元推理文庫から出たもの。中田秋子と津久見伸助の2人の名前で交互に章が作られてゐるのは同じだが、「新人文学賞殺人事件」では章の始めに日付と曜日が書かれてゐるが創元版「模倣の殺意」には曜日はない。構成も、徳間版では〈プロローグ・第1部 事件・第2部 事件を追って・エピローグ〉といふあつさりしたものになつてゐるが、創元版は〈プロローグ・第1部 事件・第2部 追求・第3部 展開・第4部 真相(この扉に「あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください」といふメッセージがある)・エピローグ〉。気付いたのは坂井のアパートが地上25m(徳間)から10m(創元)、「父の一周忌」が「父の法事」、坂井の原稿リライト料が創元では400字詰原稿用紙1枚50円と明記されてゐることくらゐかな。他にもあるかも知れないが、中田秋子が坂井の死を知り課長に出かけてくると言ひ、行つた先はやはり書かれてゐない。当然だよなあ。そのアパートについて一切書かないワケには行かないからなあ。トリックは知つてゐても充分面白く、一気に読めた。これと「天啓の殺意」(旧「散歩する死者」)がベストかもなあ。「散歩する死者」も探して読んでみるか。